特集/レジリエントな社会構築のための気候変動適応策を考える市民に「より身近な」気候変動適応策を目指して
2023年11月15日グローバルネット2023年11月号
那須塩原市役所気候変動対策課
地球上で気候変動による影響や被害が顕在化している状況、また、昨年から依然続いているエネルギー価格の高騰も踏まえ、日本でも気候変動への適応策を加速させる必要があります。本特集では、日本社会が今後レジリエントで持続可能な社会を構築するための国、自治体、市民の具体的な活動を紹介し、重要な柱となるべき気候変動適応策について考えます。
那須塩原市の地域特性
那須塩原市は人口約11万5,000人、総面積592.74km2の自治体です。面積の約半分を占める山岳部は日光国立公園を形成し、市域南東部は穏やかな傾斜の平地が広がる複合扇状地が広がっています。
都心から新幹線で約70分の距離に位置し、酪農や、ほうれん草・大根といった高原野菜の生産が盛んです。また、塩原・板室温泉、スキー場などの観光地を有し、四季折々の多彩な表情が魅力的な地域です。
気候変動対策局・気候変動適応センターの設置
市では、令和元年12月に、県内で初となる「CO2排出量実質ゼロ」を宣言し、同2年3月には気候変動適応計画を策定するなど、他自治体に先駆けて気候変動対策に取り組んできました。
同2年4月には、気候変動に対する適応策と緩和策を一体的に進めるために気候変動対策局を新設するとともに、市町村レベルでは全国初となる「那須塩原市気候変動適応センター」を設置しました。
那須塩原市気候変動適応センターは、庁内16の関係課で構成している全庁型のセンターで、気候変動対策局を中心に、適応推進会議を実施し、適応策の理解向上と、適応策推進に向けた取り組みの共通認識を図り、市役所全体で気候変動への適応に取り組んでいます。
那須野が原グリーンプロジェクト
気候変動関連施策を進めるに当たっては、市が目指す方向性を具体的に示す必要があることから、「那須野が原グリーンプロジェクト」を取りまとめました。
市が今後取り組んでいく気候変動対策を4つのテーマ「地域の再生可能エネルギーの活用」「施設、設備の省エネルギー化」「気候変動影響への適応」「分野横断的事項」に整理し、環境政策により、災害に強く「ここに住んでいれば生き延びられる」持続可能なまちの構築を目指しています。
緩和策と適応策の一体的な推進
気候変動の緩和策として、令和3年度に環境省補助を活用し、全国で初めて「スマートライティング事業」を実施しました。市域内の道路灯をLED化と合わせIoT化することで、庁舎内から調光や不具合を把握するなどの一元管理を実現するとともに、環境センサーを設置し、温度や湿度など気象情報の収集をするものです。
同4年度からは、環境センサーで収集した情報を活用した、熱中症予防情報の配信を開始しました。従来、広大な市域に対して、アメダスのデータによる市域1地点の予防情報を配信していましたが、環境センサーのデータを活用することで、中学校区(市内10地点)ごとの地域の実情に応じた身近な情報配信が可能となりました。
市民が身近に感じている気候変動影響の調査
令和2年度から4年度の3年間、環境省委託事業である「国民参加による気候変動情報収集・分析事業」を実施しました(写真)。
市民へのヒアリングや現地調査を通し、既に農作物の収量や品質の低下などの気候変動による影響が発生していること、大雨による災害、浸水や土砂災害のリスクが高まっていることがわかりました。
調査したデータは宇都宮大学の協力の下、分析を行い、ワークショップやリーフレットを通して市民へ情報発信をしました。
本事業は、事業従事者や学生など、多くの人を巻き込んで実施しており、次世代を担う若者たちが気候変動に対する意識を深めることができたことは、大いに有意義であり、気候変動の適応に関する地域の人材育成につながったと感じています。
「那須塩原市」における気候変動影響とは
日本、世界全体といった広い範囲での気候変動影響ではなく、「那須塩原市」では気候変動によって、どのようなリスクが生じるのかを分析するため、株式会社ウェザーニューズと連携し、「気候変動リスク分析事業」を実施しました。
2030年、2050年といった近い将来の気温上昇を予測したほか、水稲の生育不良や乳牛の搾乳量がどれほど減少する見込みか、また、積雪量の減少見込みによりウィンタースポーツにも影響が生じる可能性があるなど、市民生活に直結する、より身近な情報を発信することで、気候変動の問題を自分事として捉えるきっかけ作りになったと認識しています。
民間企業や大学との連携
気候変動への施策を実施するに当たり、自治体のみでは人材、知識、技術などが十分ではありません。市では東京電力パワーグリッド株式会社栃木北支社と「ゼロカーボンシティの実現及び地方創生の推進に関する包括連携協定」を締結したほか、ウェザーニューズと「気候変動への適応・緩和の推進に関する協定」、宇都宮大学と「国立大学法人宇都宮大学と那須塩原市の相互友好連携協定」を締結しています。
こうした専門的知識を有する民間企業や大学との連携により、気候変動への取り組みを加速し、充実させることができました。
オフィス服装改革から環境課題解決
取り組みに賛同した「Parks Project Japan(国立公園オフィシャルパートナー)」により製作されたTシャツを職員が着用し、国が展開している「デコ活※」の取り組みの一つである、オフィス服装改革を実施しています(※ 脱炭素につながる国民・消費者の行動変容やライフスタイル変革を強力に後押しするための新しい国民運動)。
現在の日本では、スーツやワイシャツで働くことが一般的ですが、市が率先してサステナブルファッションに取り組むことで、職員のみならず、社会全体の行動変容につながることを期待しています。
このTシャツは、裁断くずなどを利用した100%アップサイクルの生地を使用したもので、売り上げの一部が国立公園などの自然環境保全に充てられることから、カーボンニュートラルだけでなく、資源循環や環境保全などの環境課題の解決にも資する取り組みです。
今後の展望
現在、世界中で地球温暖化、資源の浪費、生物多様性の損失などが急速に進行しており、既に地球規模で環境危機が訪れています。
「カーボンニュートラル」の取り組みのほか、「ネイチャーポジティブ」や「サーキュラーエコノミー」といった取り組みを、相互に連携しながら推進することが重要です。この3つの環境分野の連携により、相乗効果(シナジー)を生み出しながら、課題解決の同時達成を目指していきます(図)。