環境ジャーナリストからのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページオーガニックビレッジとは

2023年10月13日グローバルネット2023年10月号

日本農業新聞
金 哲洙

「オーガニックビレッジって何?」。ある日、有機農業に相当関心があると思われるベテラン記者から質問を受けて驚いた。政府が旗振り役として、有機農業を推進しているにもかかわらず、現場レベルではあまり浸透していない実態が浮かんだ。

みどり戦略の一環

オーガニックビレッジとは、有機農産物の生産から消費まで一貫して取り組む市町村を指す。農業者だけではなく、関連事業者や地域内外の住民を巻き込むのが特徴だ。政府は2050年までに有機農業の栽培面積を耕地面積の25%(100万ha)に拡大する「みどりの食料システム戦略」の重要な一環として力を注ぐ。2025年までに100市町村、2030年前に200市町村にオーガニックビレッジを構築する目標も提示した。2023年8月現在、42道府県の91市町村が、オーガニックビレッジとして取り組みを進めている。

さて、オーガニックビレッジでは、どのような取り組みを進めているのか。東京都立産業貿易センターで9月14日から3日間開かれた「オーガニックライフスタイルエキスポ2023」(OLE)会場でうかがった。

OLEは、「見て、学んで、美味しくて、お買い物ができる」をテーマに2016年からスタート。コロナ禍の最中も開催を継続し、今年で8回目を迎えた。出展者は過去最多の236社に上り、来場者も2万人に迫ったようだ。有機農産物だけではなく、環境負荷が少なく、持続可能な生活様式をアピールした。昨年も同じ場所、同じ期間で215社が出展し、1万4,011人が来場した。しかし、このイベントに対する大手メディアの報道は、ほとんど見当たらない。来年6月、京都での第9回目OLEに期待を寄せつつ、本題に戻ろう。

OLEセミナーでは、「地域再生と自治体の目指す街づくりを語るー地域から始まる未来につなぐもの」を題に、次の三つのオーガニックビレッジ実施地区が加わり現状や課題の報告し、今後の方向性を探った。

 

子どもと学校給食が鍵

千葉県木更津市では当初、東京湾中央部を横断する東京湾アクアラインの建設によって、東京との移動が便利で、時間も短くなるので、もっと多くの人が移住して来ると見込んだ。しかし、「人が集まるのではなく、むしろ東京に出て行く人が増えた」(渡辺芳邦市長)。その中で、いかに地域活性化を図るかを検討し、有機農業の推進を一つの鍵として取り組むことになった。今年3月には、有機農業を通じて「持続可能なまちとして次世代に継承していく」決議を表明したオーガニックビレッジ宣言を発表した。その中で特に、重要視するのが学校給食米で、2027年までに100%有機を目指すという。

いち早く、プラスチック製レジ袋の提供禁止を打ち出した京都府亀岡市。同市は、京野菜の栽培日本一で、この10年間で70人の新規就農者が有機農業を開始。農業経営体の約8割が兼業農家であることを踏まえ、桂川孝裕市長は「国は、大規模化を支援するが、市の現状から小規模農家が多く、その部分に関して市として支援していきたい」と意気込む。大規模化政策だけでは、政府が掲げている目標の実現が絵に描いた餅に終わる可能性があるからだ。

黒豆で有名な兵庫県丹波篠山市の酒井隆明市長は「現在は、山や田んぼに子どもの姿がなくなった。自然や生き物に配慮した農業をやらなければいけない」と、子育て家族の農村離れが進む実態を取り上げ、改善策としてオーガニックビレッジの推進を強調した。

全国には、20年前までは約3,200市町村があった。しかし、9月現在は1,724市町村。単純計算で、この20年間で毎年平均70以上の市町村が姿を消した形となった。現在も存続危機に直面している市町村が少なくない。有機農業の栽培面積も2021年は2万6,600haと耕地面積に占める割合は0.6%にとどまり、政府目標には程遠い。

その中で、子どもや学校給食をキーワードとしたオーガニックビレッジ構想は、点在する有機農業を面的に広げ、地域創生や山村振興、環境保全や生物多様性の保全に重要な役割を果たすに違いない。この場を借りてぜひ「オーガニックビレッジ」を広めたい。

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