ホットレポート日本の農業の変革と子どもの健康のために~全国で進むオーガニック給食とその無償化

2023年09月15日グローバルネット2023年9月号

弁護士、元農林水産大臣
山田 正彦(やまだ まさひこ)

子どもの発達を脅かす農薬や化学肥料

私はこの数年、映画『タネは誰のもの』『食の安全を守る人々』をプロデュースした関係もあって、地方を回ることが多くなりました。いろいろな方からお話を聞くのですが、保育園、幼稚園、学校の先生方から、最近発達障害と診断されている子どもたちが異常に増えていることを頻繁に耳にするようになりました。

今年2023年3月になってようやく文部科学省が発達障害と診断された子どもたちの調査結果を発表しました。それによると、通常のクラスで授業が受けられない子ども、個人指導をしている(発達障害と診断された)子どもが16万4,693人に達していることが明らかになりました。そのうち10万人はこの10年間で増加していて、20年前の2003年の調査では4,000人でした。当時の調査が不十分だとしても、20年で40倍増加していることになり、私が地方を回りながら聞いた「今では小中学校の生徒の10%は特別支援クラスにいる」という話とほぼ一致します。

どうしてこうなってしまったのでしょうか。原因はいろいろ考えられるでしょうが、私には残留農薬、食品添加物等、食がその一つの要因ではないかと思えてならないのです。

私は太平洋戦争中1942年に長崎県・五島列島で生まれました。当時私の実家は農家でしたが、農薬も化学肥料も全く使われていませんでした。私が中学に入る頃初めてDDT等の農薬、硫安という化学肥料が日本でも使われるようになったのです。

今ではほとんどの農家の方はネオニコチノイド系の殺虫剤、ラウンドアップ等の除草剤がなければ農業はできないと思い込んでいます。しかし1万年に及ぶ人類の農耕の歴史で農薬、化学肥料が使われたのは、わずかこの65年です。自家用、孫たちのための農産物は有機で栽培しているように、本音は農家も農薬は使いたくないのです。

映画『食の安全を守る人々』の中で、環境化学物質による人体や脳発達への影響について研究する木村-黒田純子博士は、ラウンドアップ(グリホサート)のラットの実験では、厚生労働省が定めた無毒性量(毎日取り続けても人間の健康に害を与えることはない量)の半分以下の量を与え続けると親の世代、子の世代までは異常なラットはそれほど目立たないが、孫やひ孫の世代ではどんどん増えてくると話しています。同博士に原因をお聞きすると「私たちの遺伝子のスイッチのオン・オフが切り替わるからだ」との答えでした。遺伝子のスイッチが切り替わったら、子に孫に遺伝子がそのまま受け継がれることになるそうです。

考えれば恐ろしいことで、ラウンドアップ、ネオニコチノイド系農薬の使用は、世界各国が禁止規制しているように一刻も早く日本でもやめさせなければなりません。

世界の潮流は「無償でオーガニックの学校給食」

世界の潮流は変わりました。EUはあと7年で全農地の25%がオーガニックになります。

かつて日本と並んで農薬大国だった韓国も変わりました。私は韓国が農薬と化学肥料をふんだんに使っていた農業から有機栽培に切り替わっている事実を知り、どうしてそうなったのか調べに2019年、韓国に渡りました。有機栽培農家を7軒訪ねて出荷先を聞いたところ、すべての農家が「学校給食」と答えました。学校給食では有機栽培のものであれば3割は高く購入してくれるからだと言うのです。

今では韓国では公立の保育・幼稚園、小中高校まで給食は無償になり、公立の病院、老人ホームまで給食は有機栽培の食材に代わりました。韓国の農水省を訪ねて学校給食法を改正したのかと尋ねたところ、そうではありませんでした。韓国では憲法上、教育の義務と無償化が記載されています。日本もそうですが、「教育の無償化の中に食育として学校給食も入るのです。各市町村が憲法に従って条例で学校給食を無償かつ有機食材にしたのです」と。

地方から大きく変わってきたさまざまな取り組み

日本に戻っていろいろ調べると、日本でも千葉県のいすみ市では既に学校給食を有機食材で実現していました(昨年10月からは無償化も実現)。他にも熊本県の山都町、愛知県東郷町、長野県松川町等も新規に有機食材に取り組んでおり、学校給食を無償で実現している市町村も、小さなところが多いのですが、当時36あることがわかりました。

日本は明治維新以来中央集権国家で、中央政府が地方自治体に対して指揮、命令、監督してきましたが、2000年に入って日本国憲法の地方分権の理念に従い地方分権一括法の制定、地方自治法の改正がなされ大きく変わりました。政府の地方自治体に対する指揮、命令、監督は禁止され、地方自治体と政府(国)とは 法律上同格となり、地方自治体は国の法令に反しない限り、どのような条例でも制定することができます。

日本も地方から大きく変わり始めました。政府が種子法を廃止しても地方が反発、都道府県で種子法とほぼ同じ内容の種子条例が現在34の道県で成立しています。国会でも野党が提案した種子法廃止撤回法案を与党が審議に応じて現在国会では継続審議中です。

食の安全の分野でも愛媛県の今治市では「食と農のまちづくり条例」において、今治市内で市の承諾なくして遺伝子組み換えの農産物を作付けした場合には半年以下の懲役、50万円以下の罰金に処することが記載されています。このように地方の議員さんたちが立ち上がれば、除草剤ラウンドアップの学校グラウンド、公園での散布をやめさせることもできるのです。

宮崎県の綾町では2023年3月、町の責務、学校の責務として学校給食を有機食材で推進する画期的な条例を日本で初めて制定しました。すごいことです。

「オーガニック給食とその無償化」実現に向けて

私たちは2021年オーガニック給食マップ※1を立ち上げ、実行委員会を組織して昨年10月26日、東京・中野区で全国オーガニック給食フォーラムを開きました。会場はほぼ満席、オンラインでも全国62ヵ所のサテライト会場が設置され、大会参加者は4,000人に上りました。全国から市町村長さんが40人ほど、JAの組合長さんも7人、それに農水省、文科省からも参加し、学校給食をこれからは有機食材にする方向を明言したのです。その時に配布した資料集「広がるオーガニック給食」(写真)も好評で増補版を作成して頒布、ダイジェスト版のDVDも完成しました※2

資料集「広がるオーガニック給食」とDVDの表紙

このフォーラムを契機に、全国各地で学校給食を無償・有機食材にするための市民運動が一気に盛り上がりました。今年6月にはフォーラムに参加した32の市町村と28のJAなど農業団体および24の生協団体が中心になって「全国オーガニック給食協議会」を設立しました。日本農業新聞の調査では2022年度までに3割の市町村が無償化。東京都でも葛飾区を皮切りに今年7月現在、都内の小・中学校の8割が学校給食の無償化を実現しました。すごいことになりました。

国会も動き出しました。今年の通常国会で立憲民主党と日本維新の会が学校給食の無償化法案を国会に提出。自民党も6月7日に部会を開いて文科省の担当者を招いて、学校給食の無償化と食育の両立を目指して検討を始めました。そして6月15日、与党野党の各党の代表者が集まって超党派の「オーガニック給食を全国に実現する議員連盟」が設立されました。

無償、オーガニックの学校給食が実現できれば日本の農業も変わり、子どもたちも健康になります。

※1 https://organic-lunch-map.studio.site/map
※2 購入申し込みはhttps://organic-lunch-map.studio.site/info-detail/_mr2UthR

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