環境条約シリーズ 377国際公域における海洋保護区の設置と管理

2023年08月15日グローバルネット2023年8月号

前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)

国際的な海洋保護区としては、海洋汚染防止条約(MARPOL73/78)に基づく特別海域およびIMO決議に基づくPSSA(特に脆弱な海域)が指定されてきている(本誌12年2月・3月)。どちらも、生態系の特異性・多様性などの基準に合致する海域であるが、その規制措置は船舶による悪影響の防止に留まる。

また、地中海、広域カリブ海、北西太平洋地域、南太平洋など、海域ごとに①地域海洋環境保全条約があるが、保護区制度を持たないものも多い。同様に、各海域に②地域漁業管理機関が設立されているが(本誌21年7月)、それらは水産業規制に留まっている。しかも、①も②も、公海全体には及んでいない。

次に、国連海洋法条約は国際公域の保護区制度は定めておらず、また、その氷結海域保護は公海には及ばない(本誌12年2月)。なお、同条約の下の既存の2つの協定(公海漁業協定(本誌96年4月)と深海底鉱物開発協定)は、国際公域を対象にしているものの、保護区の規制管理については定めていない。

他方で、生物多様性条約は海洋保護区を推進している。22年に採択された昆明モントリオール目標(愛知目標の後継)は各締約国の管轄海域の30%の保全管理(目標3)を定めており、また、生態系または生物多様性の観点で重要な海域(EBSA)としては世界で338ヵ所が特定されている。しかし、それらには国際公域における規制管理措置は定められていない。

このように、既存の条約においては、国際公域全体を対象範囲として生物多様性保全を目的とする保護区制度は設定されていなかった。そのような保護区の必要性の指摘に応えて、2000年代以降、国連体制の下で海洋・沿岸域保護区(MCPA)協働連合などにおいて検討が続けられてきていた。最終的に、海洋法条約の下の3つ目の協定として、海洋保護区制度を含むBBNJ(国際公域における生物多様性)協定が採択されたのである(本誌23年7月)。今後、効果的な保護区管理に向けて、規制措置の実施確保と併せて開発途上国への支援の具体化が課題である。

タグ:,