NSCニュース No. 144(2023年7月)定例勉強会報告「ネイチャーポジティブ実現のために今、企業に求められることとは」

2023年07月14日グローバルネット2023年7月号

NSC共同代表幹事、サステナビリティ日本フォーラム代表理事
後藤 敏彦(ごとう としひこ)

2010年に愛知県で開催された生物多様性条約(CBD)のCOP10の約束の成果は芳しくなく、改めて取り組み強化が問われる中、2022年12月にCBD/COP15が2年遅れで開催され「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(GBF)が採択された。

従来、企業には気候変動枠組条約(FCCC)は大きな影響を与えてきている一方、それと「双子の条約」といわれているCBDは日本企業全般には若干遠い世界のものであったようである。しかしTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の活動が徐々に形を表し、企業の関心も高まってきている。そこで、今回は生物多様性と企業の関係を幅広く捉えようと、6月7日(水)に定例勉強会(オンライン)を企画した。講演資料はhttps://www.gef.or.jp/news/event/nscseminar230607/

「生物多様性国家戦略2023~2030」
 環境省 自然環境計画課 生物多様性戦略推進室 室長補佐 松永曉道氏

松永氏から、「生物多様性とは」「世界と日本の生物多様性の現状」「生物多様性国家戦略2023-2030について」の3つに分けてご講演いただいた。

「生物多様性国家戦略2023-2030」は今年3月31日に閣議決定され、表紙の副題は「~ネイチャーポジティブ実現に向けたロードマップ~」と付されたものである。

「ネイチャーポジティブ」については、定まった定義があるわけではなく、また、COP15ではキーワードとして多くの議論がなされたとのことであるが最終文書の中には文言として入っておらず、日本国内では「採択されなかった」というような誤解(?)をする人もいた。そうした中で国家戦略の中に文言として取り込まれたことは大変良かったというのが筆者の感想である。

FCCC関係では日本の取り組みが世界の中では周回遅れで連続して化石賞対象とされている中、とにかくCBDでは方向は世界と歩調を合わせていると評価したい。

「ネイチャーポジティブ実現のために今、企業に求められることとは」
 (株)レスポンスアビリティ代表取締役、(一社)企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)事務局長 足立直樹氏

足立氏からはGBFの概要、ネイチャーポジティブの概念、世界の取り組み、特にビジネス機会、ネイチャーポジティブへのパラダイムシフト等について多様な観点からのお話を聞けた()。

具体的には、環境再生型農業、林業、水産業、生態系の再生、生物多様性オフセット、都市の自然再生、また、NbS(自然に基づく解決方法)としての国内外の具体例、サーキュラーエコノミーとの関連等々。そして製造業を含め日本企業にも大きな関係のある投資および情報開示等々についてEUの動向も含めて詳細に解説いただいた。

取り組み事例紹介:
 (株)加藤建設(愛知県海部郡)

愛知県を本拠地とする(株)加藤建設は、従業員350人規模の、中堅といっても小さな部類の、創業100年以上の土木を主体とした老舗ゼネコンである。地域や自然との共生に努めており実に多彩な取り組みをされている。活動は社会貢献だけではなく、本業そのもので業績につながるものも多く、結果として数多くの表彰等にもつながり、企業品質の向上に貢献している。大企業でも個々の現場での取り組みには大変参考になるお話だった。

今回は諸般の事情でセミナー時間に制約があったが、それでも限られた時間のQ&Aセッションでは川村幹事の差配で活発な質疑が行われた。

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