環境条約シリーズ 374生物多様性条約の第15回締約国会議「DSIの使用」から生じる利益の配分
2023年05月15日グローバルネット2023年5月号
前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)
2022年12月の生物多様性条約(CBD)の第15回締約国会議(COP)の第2部(本誌23年4月)において採択された決定15/9「遺伝資源に関する塩基配列情報(DSI)」の主眼は、第1に、名古屋議定書の第2条(c)(d)の下で「遺伝資源の利用」に「DSIの使用」が含まれること、および、CBD第15条7項に照らして契約の適用範囲はCBDの適用範囲に限定されないことの再確認(決定15/9の第2項)であった。
また、第2に、昆明・モントリオール生物多様性(KM)枠組の一部としての「遺伝資源に関するDSIの使用から生じる利益の配分のための多国間メカニズム(世界基金を含む)」の設立、提示された考慮項目に基づいてそのメカニズムの制度設計を担う公開作業部会の設置およびその作業計画の策定(決定15/9の第9項、第16-18項)であった。これらの新たに定められた事柄は外枠だけであり、実体部分は今後の検討にかかっている。したがって、現時点ではCBDの適用範囲を超えることにはなっていない。
なお、決定15/9には、CBDの適用範囲にDSIが含まれる旨を示している箇所はないため、DSIはCBDの範囲外であるとの現状は変更されていない。
決定15/9には法的効力は無いとされ、各締約国はその内容に則した国内法令の整備を義務付けられることはない。他方で、CBD体制内では法的効力を有しており、決定15/9が要請している具体的な行動や作業計画に締約国や事務局は従わなければならない。また、COPにおいて、「DSIの使用」という事柄を正式に取り扱い、それに必要な基本政策や組織・手続きを定め、それに条約内の資源(時間、資金、役務、人員など)を充当することもできるようになった。
今後、実体部分となる制度の構築にあたって、十分な法的検討を行わずにCOP決定によって、DSI関連で利益配分以外の行為、KM枠組以外の分野、DSIそれ自体、または、私的契約への関与・規制・管理などが定められると、CBDと名古屋議定書の適用範囲を超えるおそれが生じるため、注意が必要である。