NSCニュース No. 140(2022年11月)竜宮送電計画:日本を南北に貫く直流海底送電線建設の提案

2022年11月15日グローバルネット2022年11月号

NSC共同代表幹事、サステナビリティ日本フォーラム代表理事
後藤 敏彦(ごとう としひこ)

気候危機と言いながら日本では再生可能エネルギー(RE)の導入が遅々としか進まない。RE資源が豊富な日本で技術も資金もありながら進まないのにはさまざまな原因があるが、最大阻害要因の一つが系統接続の問題であり、欧州並みのRE優先接続システムにすれば相当程度の導入が可能である。しかし、系統接続を解決してもRE100%にはまだいくつかの壁があり、その一つが送電線の増強問題である。RE資源のかなりを占める風力、特に洋上風力発電の適地は主として北海道、東北、九州南部等であり電力大需要地の関東・中部・関西からは遠い。

この問題を抜本的に解決する策として、環境NGO「環境ウォッチTOKYO」が2020年4月に表題の提言を発表し、シンポジウム等を開催してきており筆者はこのプロジェクトの座長を務めている(提言詳細はこちら)。

 

提言の内容

太平洋沿岸と日本海沿岸に北海道から九州まで計2本の直流送電線を建設し、直流交流変換器を用い、各域内の交流の高圧送電線と接続すること。

沖縄や離島については本州等と距離があることから今回はこの提案に入れていない。ただし、離島独自に技術的にRE100は可能と考えられる。

  • 太平洋ルート:北海道から太平洋沿岸に海底ケーブルで九州まで直流送電線を建設。
  • 日本海ルート:北海道から日本海沿岸に海底ケーブルで九州まで直流送電線を建設。

各々、距離約2,500km、送電容量1,000万kW、電圧500kVで基本的に海底ケーブルを引き、途中の各域内送電線1ヵ所ずつ計8ヵ所で接続する()。

本案のメリットとして以下のようなことが考えられる。

  1. 送電ロスが小さい。
  2. 長距離では建設費が安い。
  3. 東西で50・60サイクルと周波数に相違があるが、直流送電ならこの差異は問題とならない。

すでに先行している欧州の海底直流送電線については建設費等も情報公開されており、それを参考にして最低値をピックアップして見積もると建設費は5兆円であり、最高値は24兆円になる。

 

提言による効果と前進

我々はこの提案を全政党党首・政策責任者、関係省庁・都道県知事等に郵送したが反応はなかった。我々の調査では、それまでは直流送電線という言葉は国の政策にはなかったが、2020年末の「洋上風力産業ビジョン」に出てきたので、少しは効果があったものと自賛している。2021年には電力広域的運営推進機関が北海道?東京間800万kWの海底直流送電線案を出しており、我々の提案から見れば部分的ではあるが大きな前進であり、応援したい。その案等の単価を借用すれば、我々の案はトータルで8~14兆円程度になる。かつて20世紀後半には道路網整備に実に年間10兆円も国費を注ぎ込んだ日本であり、できないわけがない。

 

RE100の実現に向けて

系統接続と直流送電線の課題が実現すれば、RE100への展望が開ける。もちろんさまざまな課題があるが解決できるものであり、何よりも数十兆円以上の設備投資(風力・太陽光発電等)を呼び込むことになるし、自治体等がREに積極的に取り組めば地域の活性化にもつながる。

今冬に懸念される電力逼迫もREの普及である程度は緩和が期待できる。しかし、現状での即効的なREは屋根に置く太陽光発電であり、これだけでは冬季数日間は朝と夕刻が厳しい。警報制度等々の適切な運用で乗り切る以外ないが、中長期的にはRE100に向けての活動を加速化すべきである。

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