特集/ストックホルム会議から50年~日本社会へ、若者からの提言ユースタスクフォースでの活動を振り返って~日本社会に求める、若者の支援
2022年10月17日グローバルネット2022年10月号
国連環境計画 Faith For Earth Youth Council アジア太平洋地域統括理事
田中 迅(たなか じん )
多様なステークホルダーが集ったストックホルム+50
これまで数多くの国際会議が実施され、その中で多くの決議や宣言が提示され、国家や企業が追随してきた。また、それを取り巻く形で若者や労働組合などのオブザーバーがその姿勢を追及してきた。しかし、ストックホルム+50国際会議は、これまでの国際会議の暗黙の了解を大きく覆し、世界中に大きな衝撃を与えた。
ストックホルム+50では、加盟国や幅広いステークホルダーが一堂に集まり、世界的に重要な新型コロナウイルスへの対処や気候変動などの今後の長期的な課題に対する解決策を議論する場所となった。その上で、主要な成果としては、国際的なマルチステークホルダーの関与の増大、制度全体に変化を求める集団的考察、そして「行動、刷新、信頼のためのストックホルム+50アジェンダ」(Stockholm+50 Agenda for Action, Renewal and Trust)の公表の3点が挙げられる。
ストックホルム+50国際会議における若者を含めたマルチステークホルダーへの開かれた議論は、行動と共創の成果を求める声に応え、国際会議としては初のオブザーバーにスポットが当てられた会議であった。これは、多種多様なセクターからの意見を収集し、世界青年政策報告書(Global Youth Policy Paper)やラウンドテーブルの成果などとして報告書が提示された。
また、制度全体が急速に変化する世界情勢に対応するための複数国家による集団的考察が多く見られた会議でもあった。グローバル化が進んだ中でも、交易や経済発展による地域の結び付きは健在であり、隣国同士のつながりを強化することによる戦争回避のための議論が多く見られた。
そして、この会議の成果ともいえるアジェンダでは、他のセクターが指摘できなかった経済的・財政的要因に対処するための提言を行い、協力と連帯のための信頼関係を再構築する必要性について議論を提示している。アジェンダでは、世代間責任、相互接続性、実施機会について多く議論され、包括的で排除ではなく、包摂を含めた議論を進めることが必要であると明記された。
Global Youth Policy Paper~若者の参画を強調~
ストックホルム+50ユースタスクフォースに日本代表として参加した私は、本会議で新型コロナウイルスからの持続可能な回復の促進を提示し、ユースタスクフォース全体での若者の政策提言報告書(Youth Policy Paper)を作成した。この報告書は、ストックホルム+50国際会議のテーマに基づいて、目標達成に貢献されると考えられる要求を提示したものである。
特に、意思決定における包括的プロセスの確保、持続可能な開発目標(SDGs)での環境的要素の優先実施、新型コロナウイルスからの包括的な復興の達成を進めることを前面に打ち出している。また、これらの要求を達成するために、画一的な目標達成ではなく地域特性の要素を鑑みた検討と行動を進めることを呼び掛けている。特徴的な部分としては、水・海洋資源や農業開発、食糧の安定供給など土地利用に関する提言が多く含められており、国境を越えた国土の活用に関する意見がまとめられている。
加えて、若者の参画に関して、国際会議への特使や起業家、政策評価などの役職を若者に付与することによる意思決定の参画に関するプロセスが、初めて明確で具体的に明示されたことも特徴として挙げられる。これらの提言は、ユースタスクフォースが第5回国連環境総会や国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)に参加した際、若者の政策参入はどの地域でも大きな障害となっており、いまだ解決の糸口が存在しないという経験に基づいたものである。
後に実施されたさまざまな分野の国際会議において、若者による意見や活動事例の紹介とそれを支援する体制の構築を進めることが共通のトレンドになった背景には、これらのストックホルム+50にて示されたアジェンダや若者の報告書の影響が大きいと推察される。
低下する日本の発信力
ユースタスクフォースでの活動の経験を通じて、私は日本の発信力は継続して低下していると感じた。国連機関傘下の団体であるユースタスクフォースは、多くの場合、国連決議や各国の報告、パネルに基づいて報告書を作成している。その際に、日本から発信された事例報告や統計などの使用比率が、近年になるほど減少する傾向が確認された。確かに、現在も京都議定書や名古屋議定書などの日本政府が主導した成果は有効に活用されている。
しかし、パリ協定やグローバルストックテイク(GST)などの新しく更新されている枠組みでは、日本政府のイニシアチブが低下している。この状況は、日本の技術的なポテンシャルを発揮する今後の機会を喪失することにつながりかねない。この状況を改善するためには、企業の実現可能な取り組みの共有が必要であり、同様に、若者による多層的なアプローチの強化と連携の構築が重要になる。
ユースタスクフォースの各国のメンバーには、博士課程の学生や博士課程を修了した社会人が多く見られた。彼らは、政府や企業から支援されており、給与が支払われたり、帰国後にメディアでの発信の役割が与えられるなど、ユースタスクフォースの活動が彼らの仕事となっていた。仕事として取り組む経験豊かな彼らには、どう頑張ってもかなわない。私はこのような支援体制の構築を進めることが、今後の日本のアドバンテージを獲得するためには、必要ではないかと考えている。
現在、私は国連環境計画のプロジェクトの一つである地球倫理委員会(Faith for Earth Initiative)ユース会議の設置のための会議内の憲法作成委員会に所属し、ルールや規定の作成と、国連会議に参加が乏しい国々の若者がオンラインで参加できる体制の整備を進めている。日本も、この枠組みではG20参加国の中で唯一の対象国であるため、私は今後、これらの規定や憲法作成を通して、日本の若者にも参加できる体制を整備していきたいと考えている。
今後の国際会議は、より一層の重要性を増すだけではなく、若者や労働者、農業従事者などのそれぞれの専門性を持つ人たちの意見が集約される国際会議へと変革するのではないかと私は予測している。国連会議の定例会や主要な会議の半数がオンラインでの会議に移行し、観測できる限り、8割以上の国連会議がオンラインと対面のハイブリット開催を実施し、会議開催の頻度は高くなっている。
特に、気候変動を筆頭とした環境保全や人権保護、都市開発に関する議論は急速に進められており、一部の国家では、若者を国家の代表として送り出すことで、専門的な知識の引き継ぎと人員の拡充を行っている。混迷の時代において、それぞれの国家が、エネルギーや食糧、防衛、水資源などそれぞれの観点からの安全保障を進めるために、企業や政府だけではなく、市民や若者などの力を動員するソフト面での総力戦に突入した今、先進国である日本は、これらの活動に対応するために、企業や国家としての説明責任、若者の観点からの今後の活動や希望に関して追求していくことの両立が求められている。
日本の若者の支援を
最後に、このような形で寄稿させていただいたことに感謝し、ユースタスクフォースを引退する者としてこれを読んでいる皆さまにお願いしたい。国際会議に参加するための渡航費や滞在費、給与などの経済的支援やアクレディテーション(国際会議の参加に必要な団体登録手続き)の専門的支援などの面で、どうか国内の若者をぜひ応援してほしい。日本の若者には大きなポテンシャルがあり、その能力を開花させるためにも、ぜひともあらゆる支援を若者に提供していただきたい。