NSCニュース No. 139(2022年9月)定例勉強会 報告「急拡大するESG投資や脱炭素に求められる新しい債券の仕組み~「グリーンボンドガイドライン」改訂版について~」
2022年09月15日グローバルネット2022年9月号
NSC 勉強会担当幹事
サンメッセ総合研究所(Sinc)所長・首席研究員
川村 雅彦(かわむら まさひこ)
近年、国内外で普及が進み、注目されているグリーンボンド。今年7月に環境省は関連のガイドラインを改訂した。その狙いについて、8月3日、同省環境経済課の水野紗也課長補佐に講演いただいた(オンライン開催)。以下、その概要を報告する。
そもそもグリーンボンドとは何か?
●グリーンボンドとは
- 企業・金融機関・自治体等(発行体)が、グリーンプロジェクトに必要な資金調達のために発行する債券。グリーンローンは、このローン版
- ここでグリーンプロジェクトとは、再エネ事業、省エネ建築物の建設・改修、生物多様性の保全、資源循環の事業、持続可能な交通、水資源管理等をいう。
● 着実に拡大するグリーンボンド市場
- 世界のグリーンボンドの発行額は2017年から急増し、2021年には4,433億ドル(約50兆円)となり、前年比1.5倍の増加。
- 日本でも、2018年から急増し、2021年には件数99件、金額約1.9兆円と、それぞれ前年比1.3倍、1.8倍に。
● なぜグリーン金融の拡大が重要か
- グリーン金融の推進は、気候変動問題に対応するための民間資金の導入拡大を図る上で極めて重要。
- カーボン・ニュートラル実現のためには巨額の投資が必要。そのためには、公的資金だけでなく膨大な民間資金の導入が不可欠。
- 「グリーン性」が保証された金融商品は、実際の環境インパクトを伴った民間資金導入の有効な手段。
資金調達のサステナビリティ化
● サステナブル金融による資金調達の効果
- 企業のサステナブル経営の推進、資金調達上のメリット(投資家層の拡大、低金利での調達等)
- 海外企業では、資金調達の全てをサステナブル金融化する動きも。
● サステナブル金融による資金調達の新事例
- サステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)は、企業や自治体等の資金調達者(発行体)が事前に立てたサステナビリティ目標の達成度に応じて金利等の条件が変化する債券。
グリーンボンドガイドライン等の2022年第三次改訂の概要と要点
●第三次改訂の狙い
- 国際動向や国内施策の進展を踏まえ、2022年7月、「グリーンボンド」と「グリーンローン」のガイドラインの国内ルールが改訂された。2017年初版から第三次改訂となる。
- 国際的なグリーンボンド原則と整合しつつ、「グリーン性の判断基準」の明確化と「資金調達者による市場説明」の強化等を行う。
- 「裾野拡大」と「質の確保」の両面から、日本におけるサステナブル金融市場の健全かつ適切なさらなる拡大を目指す。
●第三次改訂2022年版の要点
- 資金調達者の利便性向上:
→ グリーンプロジェクトの「グリーン性の判断」の明確化
→ 資金使途、評価指標(KPIやSPTs)、ネガティブ効果をポジティブリストとして一覧表として整理 - 資金調達者による「市場説明」:
→ ボンド枠組、外部レビューを資金調達者(発行体)に対する重要推奨事項と位置付け
→ プロジェクトのネガティブ効果の特定・緩和・管理の市場説明を推奨 - SLBのガイドラインの新規策定
→ グリーンボンドと異なり、資金使途を問わない(特定しなくとも良い)
●第三次改訂版の特徴
- ボンドでは投資家への、ローンでは貸し手への、希望事項の明記
- わかりやすい充実した付属書
→ 改善効果のためのグリーンプロジェクトの判断指針
→ 改善効果の算定方法
→ 報告事例
→ KPIの例
〈質疑応答の論点〉
- EUタクソノミーでは原子力と天然ガスを持続可能とする方針だが、本ガイドラインへの影響は?
- 木質バイオマス発電(特に輸入)の位置付けは?
- トランジション金融との関係は?