フォーラム随想韓国に1億円を
2022年09月15日グローバルネット2022年9月号
日本エッセイスト・クラブ理事
森脇 逸男(もりわき いつお)
一つ提案したい。「韓国に日本から現金1億円を贈りませんか」というプランだ。無論無償。見返りは何も求めない。使途はまあ「反日」でなければ構わない。できることなら、日本との友好を深めるために使ってほしいが、特にああだこうだとは言わない。
なぜプレゼントするのか。もちろん日韓友好のためだ。もともとわが国は韓国、つまり朝鮮と親密な間柄だった。歴史をひもとくと、朝鮮はわが国より先進国であり、大陸の文化は、中国から直接届くだけでなく、朝鮮半島を経由して伝えられた部分も大きい。
しかし、日本はやがて、大国の中国に目を奪われ、間にある小国を軽視するようになる。豊臣秀吉に至っては、朝鮮征伐と称して、大軍を送る。
明治以後、いち早く西欧文明を取り入れたわが国は、韓国を軽視し、西郷隆盛の征韓論は幸い容れられなかったが、その後も朝鮮軽視の風潮は消えず、結局日韓併合となる。経済状態不振の旧韓国からは、仕事を求めて、多くの家族が日本に移り住んだ。
私が育った山口市では、そうした人たちはごみ集めのような仕事に従事、住んでいるのは街はずれのバラックのことが多かった。小学校(のち国民学校)では、同級生に1人(のち2人)朝鮮系の人がいた。ある日、昼食の後、教室にニンニクの匂いが充満して、皆が臭い臭いと言い合った。原因が判らなかった私は、その後当の朝鮮人同級生本人に、何の気も無く「何だか臭かったね」と話し掛けてしまった。思い出すと本当にひどいことを言ってしまったと、今も悔いが残る。
朝鮮が日本に文明を伝えてくれた恩人であることは確かだし、日本の植民地になっている時代も、例えば1936年のベルリンオリンピックでは、マラソンで孫基禎が金メダル、南昇竜が銅メダルという輝かしい成績を残し、当時の日本人全体を誇らしい気持ちにさせてくれた。
ただやはり、植民地にされた国の人たちに、植民地にした国に対して好感を持てというのは、無理な話だろう。例えば日本が目指している新潟県・佐渡金山の世界文化遺産登録に対して、韓国が、多くの韓国人が戦時中強制労働に従事させられたと強硬に反対しているのも、理解できないではない。要は当方に非があるなら、きっちりとその非を認め、謝罪なり償いなりをすべきなのだ。
ところが自分の非を認めるのは、言葉では簡単でも実際は本当に難しい。ことに最初から敵意を持って対して来る相手に対しては、簡単に頭を下げるわけにはいかない。
しかし、両者がいつまでも突っ張っていては、問題は解決しない。これまで北朝鮮と親しく、日本に対して厳しい態度を取っていた前大統領に代わって、この5月大統領に選ばれた尹錫悦(ユン・ソギョル)さんは、日本との親善関係を重視されているようだ。この際、思い切って、1億円を「韓国国民の福祉のために」といった気持ちを込めて、あの国に贈ったらいかがだろうか。
無論、使い道に注文は付けない。韓国の国民が同意するなら、オリンピックの開催、美術館や劇場の建設、映画の制作、大学や研究所の開設など、使途はいろいろと考えられる。将来その施設を日本人が利用することがあれば、これはわが国が贈った基金によるものだと、少し誇らしい気になれるだろうし、いつも利用する韓国の人たちは、日本に対して友情を感じてくれるだろう。そうした将来に向かって永続する効果を考えるなら、1億円など安いものだ。
考えてみると、1億円では大したことはできない。反対者も多い元首相の国葬に16億円もの国費を見込むわが国で5億円か10億円くらいは何とか振り込めるのではないか。
岸田さん、どうですか。清水の舞台から飛び降りるつもりで、とりあえず1億円を出しませんか。