特集/次世代に向けた低炭素社会の構築を目指して~「低炭素杯2016」受賞団体の地域での取り組み環境大臣賞金賞/文部科学大臣賞の受賞事例の紹介静岡県立富岳館高等学校 農業クラブ キノコ研究班(静岡県富士宮市)
2016年08月15日グローバルネット2016年8月号
環境大臣賞および文部科学大臣賞に選ばれた6団体のうち4団体の取り組みについて編集部がまとめた内容を紹介します。
グローバルネット編集部
文部科学大臣賞 学生活動分野
「究極のエコ資材」~被災地の緑化を目指す高校生の環境活動~
静岡県立富岳館高等学校 農業クラブ キノコ研究班(静岡県富士宮市)
東日本大震災の被災地の緑化を目指し、地元の廃材を活用して塩害・乾燥に強いエコ資材を考案・開発、実用化を試みた。
東北地方の被災地沿岸では、津波の影響による塩害・乾燥が緑化のために植栽される植物の生育を抑制し、復興事業の課題となっている。
そこで、研究班のメンバーたちは、キノコが新たな植物ホルモン「アザヒポキサンチン(AHX)」を生成し、植物に抵抗性を与えるという研究発表に注目。その新物質を利用して、東北沿岸に緑を回復させたい、と研究プロジェクトをスタートした。
学校周辺の富士山麓で野生のキノコを採取し、AHXの濃縮に挑み、その代謝産物であるAOH(2-アザ-8-オキソヒポキサンチン)を抽出した。そして検証を進めた結果、芝にAOHを与えることにより、塩害や乾燥に対する耐性が確認され、成長の抑制を軽減できることがわかった(静岡大学大学院農学研究科生物化学研究室(河岸洋和教授)の協力による)。
次に、製紙業の盛んな地元の地域資源に注目。製紙工程で発生する廃棄物「炭化ペーパースラッジ」へのAOHの混合に挑戦した。ペーパースラッジをチップ化・炭化し、AOH水溶液をしみこませ、乾燥。AOHを放出する「AOHチップ」を開発した(右写真)。このチップを芝マットの下に入れると、元気な芝に成長する。
2015年6月、国土交通省や土木業者、芝の生産者、他県の高校生などと協力して、河口から津波が侵入し、沿岸全域が壊滅的被害を受けた宮城県鳴瀬川の堤防の法面緑化にAOHチップを試験的に活用した。その結果、芝は着実に成長し、被覆率の向上が実現した。
研究班のメンバーは、「試験活用がうまくいったら商品化にも挑戦したい」という。
夢は東北の被災地から世界の被災地へ
AOHチップの開発は、高校生が出したアイデアに対し、地元の静岡大学と製紙企業がそれぞれAOH(粉末)とペーパースラッジを提供した「産学連携」により実現した。
また、研究班では東北の被災地でもNPO団体と連携して地域の幼稚園児対象の授業を行い、チップを紹介しながら農業体験を行ったり、被災地の農業高校と共同でシバの苗の育成を行うなど、被災地と連携した活動も進めており、このプロジェクト全体は、地方創生にもつながる取り組みといえるだろう。
一方、世界では、地球規模の気候変動により、台風や高波の被害による塩害の影響を受ける農地や乾燥地の増加が深刻化しているが、AOHチップはその影響防止・問題解決の新たなカギとなる可能性も秘めている。研究班のメンバーたちは、AOHチップを東北の被災地の緑化活動に活用し、さらには世界の被災地や塩害・乾燥に苦しむ地域にも生かして、「世界の被災地の救世主になりたい」と夢を膨らませている。