環境ジャーナリストからのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページ地球環境危機に立ち向かう~JFEJ30周年シンポジウム
2022年06月15日グローバルネット2022年6月号
JFEJ副会長、朝日新聞編集委員
石井 徹(いしい とおる)
スウェーデンのストックホルムで「国連人間環境会議」が開かれてから50年、ブラジルのリオデジャネイロで「国連環境会議(地球サミット)」が開かれてから30年が過ぎた。人類は半世紀も前から、地球環境問題の重要性に気付き、危機を避けるために国際的な話し合いを続けてきた。
にもかかわらず、事態は悪化するばかりだ。
●自省を込め果たすべき役割を議論
日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)が発足したのは、地球サミットの前年の1991年のことだった。会は6月4日、「30周年記念シンポジウム 公害から気候危機へ 環境ジャーナリストの果たすべき役割」(地球・人間環境フォーラム後援、日本気候リーダーズ・パートナーシップJCLP、日本環境会議、Media is Hope協力)を、東京会場でのリアルとYouTube配信によるハイブリッド方式で開いた。
会を代表して金哲洙・JFEJ会長(日本農業新聞)があいさつし、その後、これまでの30年の足跡をまとめたビデオが、歴代会長数人のコメントとともに紹介された。
この中で、アジアとの交流を進めた元会長の清水文雄さん(エネルギージャーナル社)は「途上国を環境対策が遅れた国と見るのではなく、先進国と途上国が共通認識を築き上げなければならないと考えた」と述べた。
●「環境擁護が報道の原点」
続いて会員で気象予報士の井田寛子さんが、設立発起人の一人で二度にわたって会長を務めた原剛さんに尋ねるインタビュー映像が流された。原さんは「客観報道は当然だが、環境を擁護することが環境報道の原点。環境報道の強さは現場があること。現場に根差していれば負けることはない」と激励した。
小泉進次郎・前環境相は、基調講演で、就任期間に取り組んだ環境政策を説明。「環境ジャーナリストは、監視やチェックだけでなく、歯を食いしばって頑張っている人たちを持ち上げることが必要」と注文した。ウクライナ戦争の影響については、「間違いなく脱炭素を加速する。ただ国際協調が揺らぐ恐れがある」と懸念を示した。
その後の『これからの30年、環境ジャーナリストの役割とは?』と題するパネルディスカッション。JFEJ副会長の堅達京子さん(NHKエンタープライズ)をモデレーターに、脱炭素をリードする企業の集まりJCLPの高野明彦さん(メンバーズ)、気候報道の強化を求める若者中心のMedia is Hopeで共同代表を務める名取由佳さんらのパネリストがJFEJに対する注文や期待を寄せた。
●「環境報道の強化」を宣言
名取さんは「時間がない中で気候変動問題を解決するには、それぞれが立場を生かして手をつなぐ必要がある」、高野さんは「各業界、各企業がすべて取り組まなくてはならない問題。メディアとも協力・対話しながら課題設定していきたい」と語った。
最後にJFEJ副会長の松木喬さん(日刊工業新聞)が「地球環境危機に立ち向かうジャーナリスト宣言2022」を読み上げて、参加者の賛同を得た。宣言の全文は囲みの通りです。
地球環境危機に立ち向かうジャーナリスト宣言2022
「東京23区の2倍近くある南極東部の棚氷全体がたったの2週間で壊れた」「北極圏のグリーランドでの氷床融解が倍速している」……。地球環境の変化が日常的に報道されるようになった。南スーダン北部での大規模な洪水やインド北部のヒマラヤの氷河崩壊などにより、住まいを追われる「気候難民」は、3000万人以上に上るという。気候変動の原因とされる世界の温室効果ガス排出量は、コロナ禍により一時的に減少したものの逆戻りしている。昨年のCO2排出量は360億トンを超え、過去最高水準となった。
2022年は、地球環境問題に関する初めての世界会議「国連人間環境会議」がストックホルムで開催されてからちょうど50年となる。人類にとって環境問題の重大さを認識させたこの会議には、わが国における公害の原点とされている胎児性水俣病患者も参加し、公害の悲惨さを世界中に訴えた。20年後の1992年にリオデジャネイロで開かれた「地球サミット」では、現在の地球環境対策の枠組みとなる「気候変動枠組み条約」や「生物多様性条約」の署名が始まった。
その前年の1991年、ジャーナリストとしての責任を自覚し、国際的な連携と環境報道の強化を目指す有志が結集して生まれたのが、日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)である。
30年たった現在、果たして地球環境はよくなっただろうか。対策は実質的に進展したのか。この間、数多くの国際交渉が開かれ、多くの合意がなされ、数々の対策メニューが示されたにもかかわらず、地球温暖化や生物の絶滅には歯止めがかかっていない。さらにロシアのウクライナ侵攻や国際情勢の不安定化もあり、地球環境問題への取り組みに遅れが生じることが懸念されている。だが、この10年は地球環境とそこに生きるすべての生命にとって決定的に重要な時期であり、先送りは許されない。
日本環境ジャーナリストの会30周年記念シンポジウムに集った一同は、これまでの自省を込めて、日本および国際社会に対して次の事項を実現するために、直ちに行動することを改めて誓い、ここに宣言する。
- 日本および世界が、気候危機を始めとする環境問題を先送りせず、最優先の政治課題として取り組むよう、国や自治体、企業、市民に向けて、環境報道を強化する。
- 世界の温室効果ガス排出量を2025年までにピークアウトさせるため、具体的方策に国際社会が合意するよう、報道を通じて働きかける。
- 明日の地球に住み、未来社会を担う若者の意見が、現在の政策および社会・経済システムに明確に反映する仕組みを構築するため、最大限努力する。
2022年6月4日 日本環境ジャーナリストの会参加者一同