INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第71回 中国の環境政策の回顧から展望へ~2020年代の環境政策の重点は「減汚降炭」へ

2022年04月15日グローバルネット2022年4月号

地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

 

今月号では中国の環境政策の回顧から展望へと目を移し、最新の文書から2020年代に中国が目指そうとする新たな環境政策の方向性や目標を俯瞰してみることにしたい。

「3060目標」が「減汚降炭」への大きな転換点

2020年以降に発表された、気候変動対応を含む環境政策と大きな関わりを持つ主要な政策文書(中国共産党中央委員会、国務院および各部・委員会から発出された文書)のうち、私が注目したものはのとおりである。2020年は第13次5ヵ年計画の最後の年だったので、新たな政策の方向性を示す目立った政策文書は出ていない。しかし、政策文書ではないが、2020年9月に習近平国家主席が国連総会で気候変動対応の「3060目標」(二酸化炭素排出量を2030年前にピークアウトさせ、2060年前にカーボンニュートラルの実現に努力するという目標)を発表して以降、中国の環境政策は気候変動対応と生態環境保護に関する事業の統合強化に向けて一気にかじを切った。この新しい政策の方向性は「減汚降炭」という新造語で表現されるようになった。汚染物質の排出削減および二酸化炭素排出の下降(低下)という意味だ。2006年に初めて出された「節能減排」(省エネルギー・汚染物質排出削減の意味)という新造語に続く重要な政策スローガンになるに違いない。

習近平国家主席の「3060目標」の発表を受けて最初に動いたのが、2018年から気候変動対策と生態環境保護対策の両方を所管するようになった生態環境部である。2021年1月になってすぐに「気候変動対応と生態環境保護に関する事業の統合と強化に関する指導意見」を策定し、全国の省レベルの生態環境庁に通知した。この通知によれば、発出した趣旨は習近平総書記(国家主席)の2020年9月の国連総会での演説および2020年12月の気候野心サミットでの自主貢献の新たな措置表明(注:2030年までに単位GDP当たりの二酸化炭素排出量を2005年比で65%以上に低下させる《注:従前は60~65%》という措置表明)を受けてのものであるとしている。そしてこの通知では、「減汚降炭のコベネフィット効果の推進実現」を以下のような具体的な例を挙げて奨励した。

〇 化石エネルギー代替、原料プロセス最適化、産業構造アップグレードなどの発生源対策措置を優先選択し、高エネルギー消費、高排出プロジェクト建設を厳格に規制する。

 

〇 交通運輸構造の最適化調整を強化し、「道路から鉄道への転換」「道路から水運への転換」と複合一貫輸送を促進し、省エネルギー車と新エネルギー車を普及させる。

 

〇 畜産廃棄物の汚染対策と総合利用を強化し、汚水、ごみなどの集中処分施設の環境管理を強化し、メタン、亜酸化窒素などの温室効果ガスを相乗制御する。

 

〇 各地方が積極的に温室効果ガスと汚染物質排出を相乗制御する革新的措置と効果的メカニズムを探求することを奨励する。

 

第14次5ヵ年計画の目標では

2021年3月に決定した国民経済と社会発展第14次5ヵ年計画と2035年長期目標においても、計画の第3章で(減汚降炭に係る)主要な目標として、単位GDP当たりの二酸化炭素排出量を18%低下させる、主要汚染物質の排出総量を持続して減少させるとしているほか、第38章では「減汚降炭の協同推進」を掲げ、窒素酸化物および揮発性有機化合物の排出総量を10%以上削減するなど具体的な数値目標を掲げている。より詳細な目標と措置については、今後発表される第14次5ヵ年生態環境保護計画で明らかにされると思われる。

中国共産党中央委員会および国務院の2つの「意見」

2021年9月に作成され10月に公表された「中国共産党中央委員会および国務院による新発展理念の完全かつ正確な全面的貫徹による二酸化炭素排出量ピークアウト・カーボンニュートラル実現に関する意見」は、「3060目標」達成に向けての最上位の指導文書である。これは今後各省庁等が発出する政策文書の指針となる。この「意見」では主要な目標として、2025年、2030年および2060年の目標を提示している。概要は次のとおりである。

〇 2025年までに、グリーン・低炭素循環発展の経済体系をおおむね形成し、重点業界のエネルギー利用効率を大幅に高める。単位GDP当たりのエネルギー消費量を2020年比で13.5%削減、単位GDP当たりの二酸化炭素排出量を2020年比で18%削減し、非化石エネルギー消費量の割合を約20%に到達させ、森林被覆率を24.1%に、森林蓄積量180億m3に到達させ、二酸化炭素排出量ピークアウトとカーボンニュートラル実現に向けた強固な基盤を築く。

 

〇 2030年までに、経済・社会発展の全面的なグリーン化で顕著な成果を上げ、重点エネルギー消費業界のエネルギー利用効率を世界先進レベルに到達させる。単位GDP当たりのエネルギー消費量を大幅に減少させ、単位GDP当たりの二酸化炭素排出量を2005年比で65%以上削減する。非化石エネルギー消費量の割合を約25%に到達させ、風力・太陽光発電の総設備容量を12億kW以上に到達させる。森林被覆率を約25%に、森林蓄積量を190億m3に到達させ、二酸化炭素排出量をピークアウトさせ、安定的に減少させる。

 

〇 2060年までに、グリーン・低炭素循環発展の経済体系と、クリーンで低炭素、安全で高効率なエネルギー体系を全面的に構築し、エネルギー利用効率を世界先進レベルに到達させ、非化石エネルギー消費の割合を80%以上に到達させ、カーボンニュートラル目標を順調に達成し、生態文明の構築において実りある成果を上げ、人と自然が調和し共生する新たな境地を開く。

 

また、減汚降炭については、同「意見」の「(二)業務原則」のリスクの未然防止の項の中で、「減汚降炭と、エネルギー安全保障、産業チェーン・サプライチェーンの安全、食糧安全保障、大衆の通常の生活との関係に対応し、グリーン・低炭素への移行に伴う経済的、財政的、社会的なリスクに効果的に対応し、過剰反応を防ぎ、安全な二酸化炭素削減の実現を確保する」としている。

次に、2021年11月に公表された「中国共産党中央委員会および国務院による汚染防止攻略戦を徹底的に戦うことに関する意見」についてもみておきたい。これは主に第14次5ヵ年計画期間中の大気・水・土壌汚染防止に係る指導文書として位置付けられる。この「意見」の中で減汚降炭について3ヵ所で触れている。まず全体の指導方針の中で「減汚降炭の相乗効果の実現を根本的着手点とする」と位置付けている。また、カーボンピークアウト行動の徹底的推進の項の中で、「減汚降炭とエネルギー安全、産業チェーン・サプライチェーン安全、食糧安全、大衆の普通の生活との関係をうまく処理する」としていて、これは上述の「二酸化炭素排出量ピークアウト・カーボンニュートラル実現に関する意見」の業務原則に書かれた考え方と同じである。最後に、実施体制の強化の項の中で、「減汚降炭の一体的計画・一体的配置・一体的推進・一体的考課の制度メカニズムの構築を促進する」としている。

当分は減汚降炭を巡る動きから目が離せない。

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