日本環境ジャーナリストの会からのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページごみはすべての環境問題に通じる

2022年02月15日グローバルネット2022年2月号

朝日新聞編集委員
石井 徹

15年ほど前、出張先のイタリアでやたらと犬のふんを踏んづけた。テレビでは、街中に積まれたごみがくすぶっているニュースが流れていた。お世辞にもきれいとは言えない印象が強かった。だが、いま、世界のゼロウェイスト(ごみゼロ)を引っ張るのは、イタリアだ。コロナ禍の間隙を縫って、昨年11月に取材に訪れた。

 

● ごみゼロをけん引するイタリア

イタリア中部トスカーナ州にある人口約5万人のカパンノリ市は2007年、欧州で初めてゼロウェイストを宣言した。これまで世界で約500の自治体が宣言しているが、このうち300以上はイタリアにある。活動をリードしたのは、ごみ焼却炉建設に反対する住民をリードした小学校教諭のロッサーノ・エルコリーニだ。1997年に建設計画を中止に追い込むと、全国各地の焼却炉反対も支援した。

その半面、ごみ減量にも取り組んだ。戸別収集や再生できないごみの袋にマイクロチップを埋め込み、住民が出すごみの質や量を管理できるようにした。2005年に39%だった同市のリサイクル率は、昨年は82%に上がり、ごみの量は3割以上減った。

現在も小学校教諭を続けるエルコリーニは「焼却や埋め立てを減らすことは、天然資源を守り雇用を増やすことにつながる。地元経済への効果も大きい」と強調した。

● 上勝町の「生物に戻る」取り組み

ゼロウェイストを宣言した自治体は、日本には五つある。2050年までに二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにする「ゼロカーボン」を宣言している自治体が、ほぼ日本の全人口をカバーする492もあるのに比べて極端に少ない。2003年に最初に宣言した徳島県上勝町を、生物学者の福岡伸一さんと共に訪れた。

上勝町には一度もごみ収集車が走ったことがない。約600世帯の住民は、自分たちでごみを集積場に持ち込み、45種類に分別して出している。山間部のお年寄りの家のごみは定期的に回収するなど支援は行き届いているが、住民の苦労はかなりのものだ。2020年度までのごみゼロを目指していたが、こちらもリサイクル率は81%にとどまっている。どうやら「8割の壁」があるらしい。

福岡さんは「人間以外の生物は分解できないごみを出しません」と言う。秩序があるものは必ず崩壊していく「エントロピー増大の法則」に従えば、ごみは出るのは当然だと思っていた。だが、人間以外の生物は、すべてのごみを他の生物が再利用できるかたちで手渡しているのだという。

人間だけが生命のサイクルに戻せないものを作り、捨て続けている。ゼロウェイストは、人間が本来の生物に戻る試みなのだ。

● 他の問題解決にも生きる

国内外のゼロウェイストのまちを歩いて改めて感じたのは「ごみは環境問題と持続可能な社会の原点」ということだ。

上勝町は「住民の努力だけではゼロウェイストは難しい」として、企業にごみにならない製品づくりを求めている。日用品メーカーの花王が町内で回収した洗剤などの使用済み詰め替えパックをブロックに再生し町内の保育園に贈るなど、企業との連携は一部で進んでいる。

カパンノリ市はさらに先を行く。メーカーに再生しにくかったコーヒーカプセルを生分解性プラスチックに変えさせ、プラスチック製ではなく生鮮食料品用のガラスコーティング付きの紙袋を作らせた。住民の働き掛けで生まれた製品は63に上るという。市民の声で、より環境にいい製品が市場に出回るようになってきた。

「気体のごみ」ともいえるCO2が主な原因の気候変動問題でも、最近は若者や市民が声を上げ始めた。社会が変わるには、一人ひとりの努力だけでなく、企業や政府に働き掛けることで、製品を変え、ライフスタイルを変え、お金の流れを変える必要がある。ゼロウェイストによって地球の資源が守られれば、生物多様性の保全にもつながる。福岡さんの言う通り、ゼロウェイストは人間が本来の生物に戻る取り組みだと改めて感じている。

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