ホットレポート②森林減少リスクのデューディリジェンス 世界的な農作物コモディティの規制開始

2022年01月14日グローバルネット2021年12月号

Deep Green コンサルティング
籾井 まり(もみい まり)

森林減少阻止に再び集まる注目

先月開催された気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)では森林問題が一つの焦点となった。最初に採択されたのは止まらない森林減少を2030年までに阻止する宣言で、日本を含む100ヵ国以上の政府がこれに署名した。過去の森林減少阻止の目標が達成できなかった背景からも、今後は本格的に実効性を確保することが重要課題となる。

その実効性の面から重要なもう一つのCOP26での動きは、森林減少リスクのある農作物のサプライチェーン中の森林減少を阻止することに28ヵ国がコミットしたことである。これは森林減少阻止のために農作物コモディティの規制を導入しつつある欧米の動きと呼応している。本稿ではこの森林減少とコモディティのデューディリジェンス(以下DD。一般的に情報収集・リスク評価・リスク緩和を含む入念な調査確認を指す)規制について紹介する。

森林減少の現状と止まらない森林の農地への転換

国連食糧農業機関(FAO)の2020年の報告によれば、世界の森林は1990年以来1億7,800万ha 失われており、純喪失で毎年470万haの森林減少が起きているという(2010~2020年)。減少の90%は熱帯林であり(CDP)、熱帯林減少の要因の80%は農作物コモディティの生産のための土地転換であると推定されている(欧州委員会)。

このように、現在の森林減少の最大の要因は森林の農地への転換である。中でも、4大リスクコモディティであるパーム油、大豆、牛肉、木材(紙パルプ含む)の生産は熱帯林減少の要因の40%を占めていたという(2000~2011年)。コモディティの代表例はアマゾンでは牛肉・皮革および大豆、アジアでは主にパーム油、木材・紙パルプ、ゴムとなっている。またアフリカではコーヒーやカカオなどが代表的な森林リスクコモディティである。自国消費の割合が多いものの、平均して約30%は輸出用のコモディティであるという。

達成できなかった2020年目標 実態の悪化

森林減少阻止のための目標として代表的なのは国連の森林に関するニューヨーク宣言であるが、2020年までに天然林の減少を半分に、2030年までにゼロにするという目標は達成不可能、森林減少の実態は43%も加速していることがわかった。民間企業はリスクコモディティに由来する森林減少を2020年までにネットでゼロにするという目標を掲げていたが、こちらも失敗に終わっている。

企業による10年間の自主的取り組み

NGOによる企業の森林リスク管理の格付評価では、DDの一環として認証制度利用の割合は世界的に増え続けているものの、実際に中身のあるDDを行っている企業の割合が低いことを示してきた。

とくに牛肉や大豆のセクターではリスクの特定・評価に遅れが目立つ。パーム油や木材・紙パルプのセクターも認証制度への依存が強く、認証制度間の持続可能性の強度のばらつき、制度の運用がうまくいかない国や地域、などの課題が浮かび上がっていた。

英国およびEUのコモディティ・DD規制

企業の自主的取り組みには限界があることが明らかになっていたところで誕生したのが森林リスクコモディティのDD規制である。以下、英国、欧州連合(EU)の順に紹介するが、現在アメリカでも同様の法案が提案されていることを付け加えておく。

〈英国規制法〉

2020年11月、世界初の森林リスクコモディティ規制が誕生した。英国政府による、企業にデューディリジェンスを課す規制である。パブリックコメントには6万件の意見が寄せられ、賛同率が99%という異例の高さで採択された。法案は2021年内に可決予定となっている。以下、DD規制の主な内容を紹介する。

対象製品:牛肉・皮革、パーム油、大豆、ゴム、カカオが対象となる予定である。木材や紙パルプはすでに英国木材規制法が存在するため対象外である。

対象企業:大企業を想定しており、取引高で線引きがされる。リスクコモディティやそれを原料とする加工品を英国で商業用に取引する企業が対象となる。

DD義務:①情報収集②リスク評価③リスク緩和措置の三つが挙げられているが詳細は後から定められる。企業にはDDの年次報告の義務が課されている。ただしDDが適切に行われていたと判断される場合、罰則は適用されない場合もある仕組みとなっている。

何が違法なコモディティとなるか:生産国の関連法に準拠していない場合に違法コモディティと見なされるわけだが、現在のところ、農作物が生産された(または飼育された)土地の所有権や利用に関する法律に違反したものが規制の対象となる。

法の取り締まりと罰則:モニタリングや立ち入り検査は施行規則などで定めることができるとされている。違反した場合には民事上の罰則が課される。

〈EU規制法〉

COP26終了とともに発表されたばかりなのがEUのコモディティ規制法である。英国規制との最も大きな違いはDD義務の対象を違法なものに限定せず、「森林減少に寄与した」コモディティに広げている点である(ただし2021年1月以降の森林減少に限定)。EUはこれにあたり、2003年から木材セクターで進めてきた木材の原産国との二国間協定(VPA)を発展させコモディティ生産国との「森林パートナーシップ」を構築する予定である。ここでは生産国や他の消費国と協働で森林減少を阻止する取り組みを進める。

中国に続き森林減少リスクコモディティの輸入が多いEUでは、法案にEU史上2番目に多い120万件のパブリックコメントが集まった。EU法では木材もDD規制法に統合され、従来のEU木材規制法は無効となる。EUはまた、強制労働をサプライチェーンに含む製品の禁止と人権DD全般を求める持続可能なコーポレートガバナンス指令の準備を進めている。

対象企業:中小企業も対象である。ただし中小企業のDDは簡素化されたものとなる。

対象製品:大豆、牛肉と皮革、パーム油、木材製品、カカオとチョコレート、コーヒーなど。

DD義務:企業はDD文書を輸入前に提出することになり、収集すべき情報として対象コモディティの生産された地理的位置が含まれている。トレーサビリティが求められることになり、これまで認証製品でDD対応をしてきた企業にはより高い基準が求められることになる。ただしEUが今後指定する森林リスクの低い生産国からの製品や、高リスクでも厳しいチェックを受けると判断される製品に関しては、簡素化されたDDでの対応が可能となる。リスク緩和措置として、現地監査やサプライチェーンの改善の他、衛星モニタリングや安定同位体検査などの利用も推奨される。

法の取り締まりと罰則:罰則については加盟国各国が設置するが、罰金、没収などを含むよう求められる。英国同様モニタリングなどの取り締まりが行われる。

日本にも期待される説明責任

農地への転換を背景に森林減少の実態が悪化し続ける中、英国、EUともに規制の内容は、NGOから課題も指摘されているものの、森林減少阻止への取り組みに実効性を持たせることを狙いとしている。認証製品を調達することでさまざまな基準に対応しようとしてきた企業の多くは、背景の森林減少に関する説明責任を求められるようになる。

日本では農林水産省の進める「みどりの食料システム戦略」という制度が存在するが、森林減少阻止の手段としての位置付けではない。欧米輸出のある企業はもちろん、木材同様リスクコモディティのDDが世界スタンダードとなる可能性は高く、日本企業にもより高い基準が期待されるであろう。

 

参考文献:
:Environment Bill at https://bills.parliament.uk/publications/42717/documents/683(取得日:2021年10月12日)
:European Parliament resolution of 10 March 2021 with recommendations to the Commission on corporate due diligence and corporate accountability( 2020/2129(INL))

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