特集/持続可能な脱炭素社会を目指して~パリ協定の実現に向けた日米産業界の取り組みサプライチェーン全体で取り組むCO2削減~脱炭素社会の実現に向けて進化する「エコプラットフォーム」
2016年09月15日グローバルネット2016年9月号
アスクル株式会社 CSR・総務統括部長/環境管理責任者
亀井 一行
アスクルの事業紹介
アスクルは、「お客様のために進化する」を企業理念に、オフィス用品や日用品などを、カタログやインターネットによってお客様に提供する通販事業を行っている。社名の由来は、注文した商品が“明日来る”から「アスクル」。1993年に法人向けのサービスによって事業をスタートさせ、2012年10月からは、個人向けのインターネットサービス「LOHACO(ロハコ)」も展開している。
既存の流通バリューチェーンでは、メーカーや一次卸・二次卸、小売事業者がそれぞれに営業や在庫管理、配送などを重複して行っていたが、アスクルではそれらを最短にし、よりシンプルで「社会最適」な事業モデルを構築した。そして、事業活動の基盤である流通プラットフォームを、お客様、社会、地球環境にとって最適でローコストな「エコプラットフォーム」に進化させることを目指している(上図)。
環境への取り組み
「お客様のひとつのご注文、1回のお届けにかかる環境負荷を最少化していく」という考え方を環境活動のベースとしている。現在の「環境中長期目標」は、2020年をターゲットとし、「二酸化炭素(CO2)削減」と「資源消費量の削減」の二つの軸で設定している。この目標に向けたこれまでの取り組みをサプライチェーンの上流から振り返ってみたい。
アスクルでは、数多くの紙製品を販売しているが、コピー用紙は、国内において最も多く使用されている(※1)実績がある。2004年11月には「アスクル紙製品に関する調達方針」を策定し、コピー用紙の責任ある調達に向けた取り組みを本格的にスタートし、オリジナルコピー用紙における持続可能な原材料調達を継続的に実施している。現在、FSC認証紙やPEFC認証紙、「グリーン購入法適合」となる古紙を配合した再生紙やグリーン購入ネットワーク「エコ商品ねっと」掲載品など、オリジナルコピー用紙は、すべて環境に配慮した用紙である。
アスクルのCO2排出量の90%以上を占める全国7ヵ所の物流センターでは、2009年よりエネルギー遠隔監視システムを導入し、エリア別・設備別・機能別の電力量を分析し、ピークカットで電力使用量の削減につなげている。新設した物流センターは設立時からLED照明を設置(※2)、既設物流センターにおいてもほぼすべてLED照明への更新を行った。また、物流センターの屋根を有効活用した太陽光発電など再生可能エネルギーの導入にも取り組み、2014年3月には埼玉県三芳町、2016年3月には福岡市にある新設の自社センターの屋根(写真①)に、約600kWの太陽光パネルを設置している。現在は、国の固定価格買取制度を利用しているが、後述する電気自動車や物流センターでの電力に使用するなど、今後は自家利用を行うことも検討している。
お客様への商品のお届けにおいては、梱包資材を削減することに取り組んでいる。これまでも、商品の大きさや種類により紙袋やレジ袋でお届けしているほか、荷物の内容量に合わせて段ボールの高さを調整することで、省資源化を進めてきた。2009年からは、法人のお客様向けに、商品を再利用可能な折り畳みコンテナ(「通い箱」)でお届けし、それらを回収して再び商品のお届けに使用する仕組みの「ECO-TURN配送」を行っている。「ECO-TURN配送」は、段ボールや紙緩衝材を処理する手間がかかるので梱包資材を少なくしてほしいというお客様の声から生まれた。緩衝材や段ボールなどの梱包資材の使用量を削減するとともにお客様の利便性も高めることができた。最近では、個人のお客様向けにもレジ袋でお届けする取り組みを始めている。
Japan-CLPへの参画
2014年4月には、日本独自の企業グループである「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(Japan-CLP)」に加盟した。真摯に気候変動問題に向き合い、来たるべき脱炭素社会にいち早く対応するため、個社のみならず他の環境先進企業とともに、企業間連携によるCO2削減の取り組みを始めているところである。
「アスクル環境フォーラム2016」開催と「CO2ゼロチャレンジ」
2015年12月の「パリ協定」では、気温上昇を2℃未満に抑えるべく、「今世紀後半には温室効果ガスを実質ゼロに」向けて世界全体で取り組んでいくことが合意された。個々の企業の取り組みはもちろんのこと、企業が連携してイノベーションを起こすときであるとの認識を強くした。
2016年7月14日には、「気候変動対策や脱炭素社会の実現に向けた企業間連携の可能性をご来場いただいた皆様と一緒に考えて実現していくこと」を目的として、「アスクル環境フォーラム2016」を開催し、多くのお客様や仕入先様に参加いただいた。東京大学大気海洋研究所副所長の木本昌秀教授による「地球温暖化の現状と見通し」についての基調講演のほか、「ゼロ炭素社会に向けて我々は何をすべきか」をテーマに有識者によるパネルディスカッションを実施した。
現在アスクルでは数十万アイテムの商品を取り扱っている。メーカー、サプライヤーから、商品を利用されるお客様まで、というサプライチェーンにおいて、流通プラットフォーム全体でCO2を削減していくことがミドルマンとして果たすべき責任と役割だと考えている。
また、当フォーラムにおいて「2030年CO2ゼロチャレンジ」を目指すことを発表した。今後、次世代自動車や再生可能エネルギーの導入・購入の促進、植林によるCO2の吸収を積極的に進めていく予定である。アスクルの物流機能を担うASKUL LOGIST(株)では、電気自動車(写真②)の導入により、お客様にお届けする配送時のCO2をゼロに近づけていくハード面の取り組み、物流ビッグデータをもとに人工知能(AI)を使った配送ルートの最適化をするソフト面の取り組みをすでに始めている。
これら自社(スコープ1・2)によるCO2削減に取り組むことは必然であるが、サプライチェーン全体(スコープ1・2・3)でCO2を削減していくカギは、「テクノロジー」と「企業間の協働・共創」にこそあると考えている。
2016年4月から第3期がスタートした「LOHACO ECマーケティングラボ」には現在100社のメーカーが参加して、取り組みを実践する分科会として、ビッグデータをもとにした商品の企画開発やマーケティングの分科会に加え、物流・配送面も含めた「環境分科会」を立ち上げる予定である。メーカーと協働して、「オープンなイノベーションを生み出す場所」として、CO2削減の施策に英知を結集していきたいと考えている。
お客様との関係においては、「まとめ配送」や「定期配送」などのトライアルを実施することや、お客様の声から「ECO-TURN配送」が生まれたように、お客様の意見を取り入れることで、CO2削減のサービスを提供していく予定である。
「2030年CO2ゼロチャレンジ」に向け、ともに知恵を絞り、新たな発想で脱炭素社会の実現に向け、歩を進めていきたい。
※1 2015年1月~12月の販売数量。アスクル調べ
※2 2013年7月以降