NSCニュース No. 134(2021年11月)「持続可能な成長エンジン研究会」の活動について

2021年11月15日グローバルネット2021年11月号

NSC代表幹事
横浜国立大学教授
持続可能な成長エンジン研究会座長
八木 裕之(やぎ ひろゆき)

持続可能な成長エンジン研究会

同研究会は、2011年に環境省によって設置された。当時は、環境ビジネスを持続可能な経済成長・社会を実現するための成長エンジンとする認識が世界で広まり始めていた。環境ビジネスは、第4次・第5次環境基本計画、日本政府の成長戦略実行計画などの重要施策の一つである。2019年度の市場規模は約110兆円に上っており、2000年度から約1.9倍に成長している。

同研究会では、毎年、環境ビジネスを実践する約30社の先進事例を把握・分析し、その成果を、報告書、ホームページ、シンポジウムなどで公開している。2020年度のテーマは、地域循環共生圏ビジネスである。

 

地域循環共生圏ビジネス

第5次環境基本計画で提唱された地域循環共生圏は、地域資源を最大限に活用しながら地域の持続可能な開発目標(SDGs)の実現を目指す考え方であり、地域循環共生圏ビジネスはその重要なエンジンである。

地域資源の中でも、自然資本は自然SBTs(自然に関する科学に基づく目標設定)やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の取り組みが始まり、欧州連合(EU)では、自然資本評価の標準化が進められるなど、企業活動との関係の把握・評価が不可欠になってきている。地域循環共生圏の視点は、バリューチェーン上のすべての地域における自然資本とビジネスの関係を考える上で重要な指針となる。

本稿では、2021年9月開催の日本地方自治研究学会全国大会における地域循環共生圏ビジネス・シンポジウムに登壇した企業の取り組みを紹介する。

 

湘南電力株式会社の取り組み

湘南電力は、自然エネルギーの地産地消と地域循環経済の構築を目指して、神奈川県小田原市に2014年に設立された地域電力会社である。同社は地域自然電力を販売し、その主な電力供給はほうとくエネルギー株式会社が担う。両社はともに多くの地域企業が株主となって設立されている。

エネルギーの地産地消は、これに関わる地域の経済循環を生み出すが、売り上げの一部は地域の社会貢献活動にも使われている。

また、災害に備えた地域マイクログリッド構想、小田原市と連携したソーラー発電普及事業などを推進しており、将来的には、さまざまな地域のインフラを担う日本版シュタットベルケ( ドイツにおいて、公共インフラを整備・運営する自治体所有の公益企業(公社))への展開を構想する。

 

サグリ株式会社の取り組み

同社は、衛星データを使って世界中の農地をデータ化して農業基盤を作り、農業問題の解決に取り組む大学発ベンチャー企業である。2018年に設立され、兵庫県丹波市に本社を置く。

同社では、農地の衛星データを解析することで、耕作放棄地の調査を自動的に行うアプリを提供している。また、こうしたデータは、デジタル化が予定されている農業地図の作成にも大きな貢献が期待されている。

同社の取り組みは、国内にとどまらず、海外への展開も進められており、インドなどで、農地・農業プロセスの見える化によって、生育予測、農作業の効率化、農作物の品質向上、気候変動への対応などを推進する農業ビジネスに取り組んでいる。

 

KDDI株式会社の取り組み

同社は、中期経営計画の中で目指すべき企業の姿として、社会の持続的な成長に貢献することを掲げ、地域創生事業に取り組んでいる。そこでは、ICT(情報通信技術)企業として、地域のICTへのニーズに接し、養殖の効率化、農業IOTの導入、ドローン物流といったさまざまなアプローチで、地域課題の解決を図っている。

同社は、ICT企業である一方で、イノベーティブ大企業ランキングで1位に選出されるなど、ベンチャー企業との共創で多くの実績を上げており、地域循環共生圏ビジネスでも、その進化・成長を地域創生ファンドによる出資・支援で支えている。また、これに必要な、起業家人財、ICT人財、DX(デジタルトランスフォーメーション)人財の育成に取り組んでいる。

シンポジウムでは、地域循環共生圏ビジネスの展望や政策への期待などに関する議論が交わされた。同ビジネスは、今後のさらなる展開が期待される。

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