持続可能な社会づくりの模索 ~スウェーデンで考えること第2回 プラスチック容器包装~真剣味を増してきた3Rへの取り組み
2021年09月15日グローバルネット2021年9月号
ルンド大学 国際環境産業経済研究所 准教授
東條 なお子(とうじょう なおこ)
今回は、本誌『グローバルネット』でも何度も取り上げられているプラスチック(以下、プラ)の容器包装や使い捨てプラの使用削減・再使用について、欧州連合(EU)、スウェーデンでの政策の動き、そして一生活者として感じることを書いてみる。
危機意識の低かった西欧諸国
環境面での取り組みが進んでいるという印象を持たれがちなEU、スウェーデンであるが、ことプラ容器包装の循環に関しては、近年まで動きが鈍かった。
EUでは、1994年施行の容器包装・廃容器包装指令を皮切りに廃容器包装のリサイクル促進が始まり、プラ容器包装も規制対象にはなったが、例えば2004年の改正時に出された法定リサイクル率は他の素材と比べてかなり低かった(表)。加盟国の運用をみても、例えばスウェーデンでは、デポジット制が取られているペットボトルを除き、1998年に出された容器包装に関する拡大生産者責任法で30%と決められたプラ容器包装の法定リサイクル率が2005年まで7年連続達成できず、それでも達成義務のある生産者に対して何の制裁も課されない、といった状況が続いていた。自治体レベルでの分別回収も、例えば筆者の住むルンド市では、硬いプラは分別し、そうでないプラごみは家庭ごみというやり方が取られていた。食器用洗剤の容器は硬いプラ、レジ袋は柔らかいプラ、というのはわかるが、例えば詰め替え用洗剤の包装材はどうなのか等、一般市民にとってはわかりにくい仕組みだった。
欧州で廃プラ容器包装の循環に本腰が入らなかったのは、業界団体のロビー活動や反発以外にも、必要性が身近に感じられていなかったことが大きかったように思う。廃棄物の回収システムがうまく実施されている国では、プラごみの散乱は問題視されていなかった。焼却施設の発達した西欧諸国では、リサイクル用に分別されない家庭ゴミは焼却処理されるが、燃料となるプラ素材は焼却施設にとって歓迎こそされ問題にはならない。逆に、廃棄物処理を現実に担う自治体にとって、リサイクルのためのプラごみ分別の促進は、ある意味利益相反する悩ましい領域だった。概して、廃プラ容器包装の処理やリサイクルは、回収システムも質の高い焼却施設もなく、散乱した廃プラで排水溝が詰まったり廃プラを動物が食べてしまったりしている途上国の問題、という意識が潜在的にあったように思う。
近年の動き
転機はマイクロプラスチックや海洋プラスチック問題の浮上だった。資源枯渇や化学物質、生物多様性等の環境問題の重要性が再認識され、循環経済が環境政策の目玉として再登場したこと、さらに、回収廃プラのリサイクルを丸投げされてきた中国が輸入を禁止したことも相まって、プラ容器包装の使用削減や循環に焦点が当てられるようになってきた。EUでは、前述の容器包装・廃容器包装指令の2013年改正の中で、商品販売時に供されるプラ袋の消費抑制を加盟国に義務付けた。加盟国は①国民一人当たりの上記プラ袋の消費量を2019年までに90枚以下、2025年までに40枚以下に削減、②2018年末までに製品販売時に供するプラ袋の有料化、のいずれかあるいは双方(あるいは同等の効果がある別の施策)を実施しなければならない(ただし、厚さ15ミクロン以下の超薄いプラ袋は除外)。2018年改正では再使用に関する規定が大幅に加筆され、法定リサイクル率も、プラスチックは顕著に引き上げられた(表)。加えて2019年には、使い捨てプラスチックに関する指令も出され、特定のプラ容器包装については、使用後の容器包装の回収、散乱ごみの清掃、消費者への周知にかかる費用負担を生産者に義務付けている。全体として、リサイクルのみならず、消費抑制や再利用を進める施策が多数出され始めた。
一生活者として感じられる変化
こうした一連の動きの中で、筆者の身の回りでもいろいろ変化が出てきた。これまでも経済的な理由からレジ袋はプラ、紙、布製共に有料であったスーパーに加え、洋服、文具、書籍、日用雑貨等の小売店、生鮮食品専門店でも、商品購入時のプラ製手提げ袋の無償提供はなくなり、「袋はご入り用ですか」と聞かれるようになった。要ると答えると、重ねて、「買われますか」と聞かれる(最初から、「手提げ袋を買いますか」と聞く店もある)。レジのそばでいわゆるエコバッグを売っている店もある。青空市場や生鮮食品専門店では実施が遅れたが、この1~2年で変わってきた。例えば筆者がよく行く青空市場の八百屋でも、商品全体を入れるプラ袋は昨年から、イチゴパック用のプラ袋は今年から、1クローナ(約12円)かかるようになった。また、買った製品全体をプラ袋にまとめて入れてくれることの多かった魚屋も、最近は紙袋が増えた。
スーパーでも、調理済み食品の量り売り場で、客持参の容器を使えるようにしたり、バラ売りの野菜・果物やパンを繰り返し入れられる袋を売ったり、これまでは超薄いプラ袋が置いてあったところに、使用後は生ごみ収集に使える紙袋を置く等、さまざまな取り組みが進められている。レストランでも、プラ製の代わりに、金属製の再利用可能なストローに替えた店も出てきた。テイクアウトの場合、これまでプラ容器に入ってきた食品が、ふたはプラだが本体は紙製の容器に入ってくることも増えた。
廃プラ容器包装の分別も、ルンド市では(これはもう10年ほど前になるが)、プラスチックであればすべてまとめて排出できるようになり、消費者にとってはよりわかりやすい仕組みとなった。
社会全体の意識は? 他素材の環境負荷は?
ただ、社会全体の意識がすっかり変わったわけではない。例えば前述の青空市場の八百屋でも、商品全体を入れるプラ手提げ袋は有料でも、バラ売りの野菜や果物をまとめる超薄いプラ袋は規制の対象外で無料のままである。お店の人は、袋を持参していることを言わない限り、超薄いプラ袋にさっさと詰め始めるし、周りの客の中にも、超薄いプラ袋をたくさん使っている人も多い。同じフランチャイズのスーパーでも、前述のように多くの取り組みをしているところがある一方で、調理済み食品が相変わらず使い捨てのプラ容器に入れられている場合も多い。
布・紙その他プラスチック以外の素材で作られた容器包装の環境負荷も考える必要がある。ライフサイクル全体での環境負荷を比べると、布・紙ともに何十回という単位で使わない限り環境負荷はプラ袋より高い。例えば使い捨て容器の一部を紙製に変えた場合も、紙の繊維の種類や出処等によって負荷は変わってくる。
使わなくて済むものは使わず、マイ箸ならぬマイ容器、マイバッグの使用、容器の再利用等々が自然になる社会づくりには、まだまだ工夫が必要だと思う。