INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第67回 2020年 中国環境白書から

2021年08月15日グローバルネット2021年8月号

地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

第13次5ヵ年計画の目標はすべて達成

少し前になるが、今年の中国環境白書(2020中国生態環境状況公報)が発表された。今年の白書では2020年の環境状況の取りまとめ評価だけでなく、第13次5ヵ年計画(2016~20年)の目標の達成状況もまとめている。本連載ではちょうど5年前の第37回(2016年8月号)でもこの白書の話題を取り上げているが、当時との比較を交ぜながら概要と簡単な解説を紹介することとしたい。

まず第13次5ヵ年計画で決定した生態環境に係る9項目の拘束性目標(注:拘束性目標とは強制的かつ固定的な目標で、国のマクロコントロールの意図を示しており、達成が義務付けられた目標)(表1)について、すべて順調に目標値を上回って達成したと評価し、これにより人民群衆の生態環境に対する印象が良くなり、小康社会(少しだがゆとりのある社会)の全面的建設に貢献したとしている。

少し余談になるが、中国では第13次5ヵ年計画期間中、大気汚染対策、水質保全対策、土壌汚染対策についてそれぞれ行動計画を作成して青空保護勝利戦、碧水(澄んだ水)保護勝利戦、浄土(きれいな土)保護戦、三つ合わせて三大堅塁攻略戦など戦いになぞらえた名称をつけている。環境保全への取り組みを戦闘に見立てて人民を鼓舞しようとする意図であろう。これは中国共産党中央委員会の方針にも沿ったものだ。確かにわかりやすくて力が入るが、他の分野も含めて国全体がこのような戦闘モードをあおるのはいかがなものであろうか。

大気環境

青空保護勝利戦では、特にPM2.5とオゾンの協同制御(コーコントロール)を推進し、「2020年揮発性有機化合物対策堅塁攻略計画」を策定して5ラウンドにわたりオゾン汚染防止対策の監督等を行い、3万3,000の企業で問題を見つけ、各種の揮発性有機化合物の問題は10万5,000に上ったと述べている。大気環境状況に関しては、全国の地区級以上の都市の優良天気の日数(注:環境基準達成日数)の割合は87.0%に達し(年初目標84.5%)、PM2.5が(年平均値の)環境基準を達成していない地区級以上の都市の平均濃度は2015年に比べて28.8%低下したとしている(5ヵ年計画の目標18%)。

大気環境の具体的状況については、2020年の全国の337都市でのモニタリング結果を総括すると、主要汚染物質6項目(PM2.5、PM10、SO2、NO2、O3、CO2)の環境基準をすべて達成した都市の割合は59.9%(202都市)で、前年よりも13.3ポイントと大幅に上昇した。優良天気日数の割合および6項目の汚染物質濃度について前年と比較してみると、表2のとおりである。すべての項目が前年よりも改善されている。また、6項目の各汚染物質について2015年以降の経年変化を整理してみたものがである。2013年以降のPM2.5対策の強化により2項目の粒子状物質濃度が着実に低下してきているのに比べて、オゾン濃度は2015年から2018年までは毎年上昇傾向にあった。しかし、最近ではPM2.5とオゾンの協同制御の推進やオゾン汚染防止対策の強化等により下降に転じてきている。

水環境

碧水保護勝利戦では、全国の飲用水源地の整備を進めるとともに、新たに全国3万9,000ヵ所の汚水収集処理施設を建設した。全国の地区級以上都市の市街地の黒臭水(黒く濁り、悪臭を放つ水)水域の98.2%は消滅(解決)したとしている。

水環境の具体的状況については、国が定めた全国の1,937ヵ所のモニタリング地点で測定した地表水の優良水質(注:飲用水源一級または二級相当の水質)の割合は83.4%まで上昇した(5ヵ年計画の目標は70%)。劣Ⅴ類の水質(注:最も悪いランクの水質)の割合は0.6%まで下がった(5ヵ年計画の目標は5%)。長江流域や渤海に流入する河川では国が管理する測定点では劣Ⅴ類の水質がなくなった。長江主流では全水域が歴史上初めて「優」の水質(注:飲用水源一級相当の水質)であった。

一方、地下水については、自然資源部門がモニタリングしている10,171ヵ所のうち、Ⅰ~Ⅲ類(飲用水源に適した水質)の割合は13.6%に過ぎず、Ⅳ類が68.8%、Ⅴ類が17.6%であった。また、水利部門がモニタリングしている10,242ヵ所(主に浅層地下水)のうち、Ⅰ~Ⅲ類の割合は22.7%、Ⅳ類が33.7%、Ⅴ類が43.6%であった。

対策の進展により地表水は改善の傾向が見られているが、いったん汚染されると抜本的な対策を打ちにくい地下水の汚染状況は深刻であるといえよう。

なお、長江主流については上述のように水質の改善傾向が見られているが、昨年12月には長江保護法も制定され、今年3月から施行されている。この法律では支流を含む長江流域全体の資源保護、水汚染の防止と対策、生態環境の修復、グリーン発展などを規定している。

土壌環境

浄土保護戦では、土壌汚染防止行動計画で決定した(1)汚染を受けた耕地の安全利用率90%程度、(2)汚染土地の安全利用率90%以上、の2つの目標を達成したと述べている。また、重点産業の重点重金属汚染物質の排出量を10%以上低下させる目標任務は、目標を上回って達成したとしている。その他、2020年末までに固体廃棄物の輸入量を基本的にゼロにするという目標は順調に達成し、「洋ごみ」(外国から入ってくる固体廃棄物)は国外に締め出したとしている。

白書にはその他に海洋環境、自然生態、騒音、放射線、気候変化と自然災害、インフラ施設とエネルギー等の状況について記載されている。また、気候変動対応の詳細については、7月13日に「中国気候変動対応政策と行動2020年度報告」が発表されている。

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