環境ジャーナリストの会のページアホウドリを混獲から守るために

2021年06月15日グローバルネット2021年6月号

環境教育インストラクター
舞 はるり

6月19日は世界アルバトロスデーです。テーマは「アホウドリに安全な漁業」。世界アルバトロスデー&シーバードウィーク(WAD & SW)実行委員会主催のオンラインイベントが日本でも開催されます。漁業において、魚以外の野生生物も一緒に命を落としていることが問題となっています。混獲です。漁の網や針に、海鳥やウミガメ、イルカ、サメ等が掛かってしまい命を落とすケースが後を絶ちません。中でもアルバトロス類(以下、アホウドリ)は世界に生息する全22種のうち21種が混獲の影響を受けています。また15種が絶滅の危惧に直面しています。混獲による死亡数は毎年10万羽以上。実に5分に一羽死んでいます。

アホウドリの暮らしと漁業

混獲される理由にアホウドリの暮らしが大きく関係しています。アホウドリは1年のほとんどを海上で過ごし、繁殖の時だけ陸地(島)で暮らします。海上での行動範囲が非常に広く、南半球ではとくに5~9月頃に日本や台湾のはえ縄漁船の操業範囲と重なっていることが明らかになっています。

混獲の多くははえ縄漁とトロール漁で起きています。はえ縄漁とは、船尾から長い縄(幹縄)を流し、幹縄には餌付きの針が付いたたくさんの枝縄を付けて海に沈めます。長いものだと幹縄は150㎞、枝縄は3千本にも及びます。海にあまり潜らず水面にいるアホウドリは枝縄が深く沈む前に海面付近の餌に食いつき、誤って針に掛かり、海の中へ引きずり込まれてしまうのです。これは漁師のせいでもなく、アホウドリのせいでもない、偶発的な悲しい事故なのです。

はえ縄漁による混獲を削減するために

はえ縄漁による混獲には主に、①トリライン:鳥が漁具に近づかないようにする鳥よけ ②加重枝縄:針近くの枝縄に重りを付け素早く海中に沈める ③夜間投縄:アホウドリが活発でない夜間に漁具を仕掛ける。これらの対策方法を組み合わせることが有効だと科学的にも証明され、国際規定でもこのうち最低二つを同時に実施するよう定められています。

イギリス発祥のNGO、バードライフ・インターナショナル(以下バードライフ)のアホウドリ・タスクフォースが南半球の海域において、漁師へのアドバイスや漁に同行してトレーニング等をした結果、混獲が大幅に削減されました。ところが、マグロはえ縄漁の場合、アホウドリが生息する海域では、前述の国際規定に従っていないケースが散見されます。アホウドリ・タスクフォースの活動は国の排他的経済水域内が対象であり、公海についてはまだモニタリングも不十分なのが現状です。

南大西洋のサウスジョージア島で繁殖するハイガシラアホウドリは、この11年で生息数が44%減少しました。アホウドリが数を減らす原因には、繁殖地にいるネズミ等の外来種が卵やひなを食べてしまうことや、地球温暖化等も含まれますが、一番の原因は混獲です。日本から遠く離れた南半球の海。そこで海鳥が直面している危機に日本の漁業が大きく関係しているのです。

私たちにできること

バードライフはアホウドリを守るため、国際的漁業管理機関や日本の政府、漁業者、サプライチェーン、一般市民へさまざまな働き掛けをしています。魚を食べる私たちには、アホウドリ混獲問題に大きな責任があり、消費者にもできることがあります。それはアホウドリ混獲の事実を多くの方に知ってもらうよう情報発信し、混獲対策を施している漁業者を応援すること。例えば魚を購入するときに環境に配慮した漁業であることを示すMSC認証を取得した魚を選ぶ等。日本に暮らすアホウドリは研究者らの努力もあり、絶滅の危機から回復傾向にありますが、世界のアホウドリが日本の漁業により絶滅の危機に瀕していることはあまり知られていません。

アホウドリを絶滅させるのも人間、絶滅の危機から救うのも人間です。おいしい魚をこれからも食べていけるような持続可能な漁業と、アホウドリがその命を全うできること、この両立を果たすために私たちは行動しなければなりません。

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