INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第65回 第14次5ヵ年計画と2035年長期目標
2021年04月15日グローバルネット2021年4月号
地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)
2035年長期目標は数値目標なし
3月5日から11日までの7日間、全国人民代表大会(全人代、日本の国会に相当)が開かれた。今年も新型コロナウイルス感染症流行の影響で例年よりも会期が圧縮された。今回の審議の目玉は「国民経済と社会発展第14次5ヵ年計画と2035年長期目標」の決定であった。通常なら5年ごとに5ヵ年計画案の審議と決定をするだけだが、今回は2017年10月に開かれた中国共産党第19回全国代表大会(「十九大」)で今世紀中葉(2050年)までの社会主義現代化国家の全面的建設に向けての目標、タイムテーブルおよびロードマップを明確にしたことを受けて、2035年長期目標を第14次5ヵ年計画とセットで提案したものだ。従って、第14次5ヵ年計画はこの長期目標達成に向けての最初の一里塚になる。
全人代の会場で配布された5ヵ年計画および長期目標の草案は、全部で65章148ページにも及ぶ大部なものであったが、2035年長期目標に係る記述は第三章(主要目標)の第一節(2035年長期目標)にわずか1ページ450字程度書かれているだけで、数値目標は一切なかった。その中で環境に関連する目標の記述を拾い出すと、「グリーン生産生活方式を広く形成し、二酸化炭素排出がピークに達した後安定的に低下し、生態環境は根本的に好転し、美しい中国を建設するという目標を基本的に実現する。」と書かれているだけである。「十九大」で習近平総書記が政治活動報告の中で発表した内容「(2020年から2035年までに)生態環境が根本的に改善をみせ、「美しい中国」の目標が基本的に達成される」と比べると、「グリーン生産生活方式を広く形成し、二酸化炭素排出量がピークに達した後安定的に低下し、」が2035年長期目標に新たに追加されている。
第14次5ヵ年計画の環境関連主要目標
それでは、次に第14次5ヵ年計画の主要目標がどのように設定されたか詳しく見てみることにする。
まず、第三章第二節の第14次5ヵ年計画主要目標の説明に関する本文とは別に、別表の中に示される経済社会発展主要目標の数が減少した。第13次5ヵ年計画では別表の中に全部で25項目の目標が掲げられたが(そのうち「資源環境」に分類された目標は10)、第14次5ヵ年計画では全部で20項目の主要目標に絞られ、そのうち従来の資源環境に関連する目標は「グリーン生態」に改めて分類され、5項目挙げられた。詳細は表1のとおりである。表1のうち、14、15および18の目標は第三章の本文中でも目標数値に言及している。
また、主要目標について記述した第三章とは別に、第三十八章(環境質の持続的改善)の第一節(汚染防止行動を深く展開)では、環境に関するその他の数値目標を幾つか挙げている。具体的に列挙すると次のとおりである。
①地級以上の都市のPM2.5濃度を10%低下
②窒素酸化物(NOx)および揮発性有機化合物(VOC)の排出総量をそれぞれ10%以上低下
③化学的酸素要求量(COD)およびアンモニア性窒素(NH3-N)の排出総量をそれぞれ8%低下
このほかにも ④重汚染の天気を基本的になくす、⑤地表水水質が劣Ⅴ類の水域を基本的になくす――といった数字を出さない目標記述もある。
第13次5ヵ年計画の主要目標との比較
以上の新たに定められた目標を第13次5ヵ年計画期間中の目標と比較したものが表2である。第13次5ヵ年計画の「資源環境」に分類された目標のうち、耕地保有量、新増建設用地規模、GDP1万元当たりの用水量の低下率および非化石エネルギーが一次エネルギー消費に占める割合などの目標の比較は省略した。
表を作成していて気付いた点を幾つか紹介しておくと、まず1番目に2020年の新型コロナウイルス感染症の流行が目標の設定に影響を与えていることである。表1の注2でも特記したが、目標設定の比較基準となる2020年の大気質優良日数の割合や地表水がⅢ類以上の良好な水質の水域の割合は、新型コロナウイルス感染症流行の影響等を受け、正常な年よりも高く、すなわち良好になっている。このことについて、2月25日に生態環境部が行った定例記者会見の場において、大気環境司の劉司長は次のように説明している。「2020年は新型肺炎流行の影響により排出強度が低下し、目標達成に一定の「後押し」効果を発揮した。科学的な評価結果によればPM2.5濃度は2μg/m3下がり、優良天気日数は2.2%増加した。」
もう一つ注目すべき変化を挙げると、二酸化硫黄(SO2)の総量削減目標がなくなったこととVOCの10%以上総量削減が全国で正式に実行されることである。これについても劉司長は「SO2はかつての年間排出最高値2,588万tから700万tまで下がり、酸性雨問題も基本的に解決し、全国で全面的に環境基準が達成されている。これに比べてNOxとVOCは排出量が大きい。」と述べている。
VOCについては、本当のところは、5年前には全国の排出実態が把握されていなかったので重点地域・重点業種に限っただけだと思うがどうであろうか。