GNスクエアオフィスでも広がるリユースカップ~オンライン説明会開催報告
2021年02月15日グローバルネット2021年2月号
地球・人間環境フォーラム
天野 路子(あまの みちこ)
当フォーラムではリユースカップの普及啓発活動を行っていますが、主にお祭りなど春から秋にかけた週末のイベントに利用が集中し、とくにイベント閑散期の冬場には活用されない状況にありました。そこで、年間を通じて安定的に利用されるオフィスでの普及を目指し、2020年12月3日に「オフィス向けリユースカップオンライン説明会」を開催しました。この説明会は持続可能なスポーツイベントを実現するNGO/NPOネットワーク(SUSPON)が(独)環境再生保全機構地球環境基金の助成を受けて実施したものです。
●コロナ禍で増える使い捨て容器
環境省環境再生・資源循環局総務課リサイクル推進室の永元雄大さんより挨拶をいただき、プラスチック資源循環戦略の概要や、リユースカップの取り組みはプラスチックスマートキャンペーンにも登録されており、推奨していることなどについて説明がありました。
続いて、本誌連載中のお笑い芸人兼ごみ清掃員、滝沢秀一さんのビデオメッセージを上映しました。コロナ禍でテイクアウト用使い捨て容器のごみが増えていることから、リユースカップのようなごみ削減の取り組みが重要であること、昨年視察したアクセンチュア(下記に事例紹介)の利用風景や洗浄施設の様子についても、写真を交えて説明いただきました。
●リユースカップの多面的効果
私からは、オフィスでのリユースカップ導入概要の中では、リユースカップはごみの削減や資源の有効利用、SDGsのさまざまなゴールに寄与する取り組みであること、環境意識啓発やブランドイメージ向上、さらにはESG投資につながり得ることなど、多面的な効果について説明しました。
そしてリユースカップの洗浄を担うきょうされんリサイクル洗びんセンターの川村民枝さんから、障害を持つ人たちの働く現場についてお話しいただきました。同センターは生活協同組合のリユースびんの洗浄工場として1994年に開設、現在は知的・精神・身体などの障害がある91人が働いています。労働法規に基づく雇用契約の制度ではなく、福祉サービスの利用契約を行う就労継続支援事業(B型)に該当する「福祉的就労」と呼ばれる形態の事業を行っています。
リユースカップの洗浄は以下のような流れです。大きな水槽に入れ、手洗いしたカップを次亜塩素酸ナトリウムの入った水槽に移し、殺菌のため2時間以上漬け置く。食器洗浄機ですすぎ(2回)、風で水滴を飛ばして115℃に設定したベルトコンベア式乾燥機で15分乾燥させる。検査室で一つ一つ目視検査(口紅など汚れが残っているものは再洗浄)。ビニール袋に入れて封入、洗浄日が印字されたシールを貼り付ける。
実際にリユースカップの洗浄を担う2人の方の自筆メッセージが紹介され、収入を増やすだけでなく、働く意欲、働く場づくりにもつながっていることが伝わってきました。
●社員の意識改革に活用
アクセンチュア株式会社の谷村春香さんより社員向けの運用事例をご紹介いただきました。同社では、ISO14001の取得維持のために、毎年継続的な改善を行う中で、ペーパーレス活動、電気使用量削減などの目標達成に加え、さらなる環境改善の打ち手として、紙コップをリユースカップに切り替えることにしたそうです。マイカップを推奨しなかった背景として、フリーアドレス制のためマイカップを会社に保管できる人がオフィス利用者のうち少数だったこと、手洗いは水の使用量が増えることなどがありました。
みなとみらいオフィス(横浜市)に限定してトライアルを行い、必要なカップ数の確認、オペレーションの検証、見積もりの適正化などを経て、2012年より赤坂オフィスも加え2ヵ所で本運用を始めました。現在は都内近郊4ヵ所のオフィスで、毎日1,000~1,500個、年間合計120万個のカップを運用しており、今後は地方オフィスでも展開する予定です。
また、働き方改革プロジェクトの一環で、社員から働き方改革をテーマに川柳を募集し、優秀作品をカップに印刷し、社員の意識改革に活用しているそうです。
現在は新型コロナウィルス感染症対策として一時中止していますが、飛沫や接触感染のリスクを下げるためにリユースカップを保管する専用ディスペンサーを新たに作成し、運用再開を目指し準備を進めています。
●カフェでリユースカップ
フォスター電機株式会社の花村彰信さんからは社内カフェでの運用事例について説明いただきました。同社は国連グローバル・コンパクトに2017年1月より参加しています。「昭島市環境配慮事業者ネットワーク」の活動できょうされんと出会い、2018年に廃止の検討を開始した社内カフェのストローに加え、使い捨ての紙コップやプラスチック製カップも廃止する検討を開始しました。
社内カフェではマイカップ持参者に飲料代金の値下げをしていましたが、カフェを運営する食堂事業者に働き掛け、値下げ分をリユースカップの洗浄費用に充当代用する協力を得ることができました。フォスター電機、きょうされん、食堂事業者の間でwin-winの関係でリユースカップの導入が実現しました。手作りの塩ビパイプの仕切りを使った回収ボックスを設置するなど、回収率を上げる工夫も行っています。
リユースカップの導入により廃棄物と二酸化炭素削減、従業員の環境意識向上、地域社会貢献を通じた福祉経済活動の実践、持続可能な開発目標(SDGs)への貢献活動につながったという説明がありました。またコロナ禍でマイカップの受け入れは食堂事業者への感染リスクが懸念されることから、リユースカップは安全+環境配慮の次世代への取り組みとして推奨されていることが紹介されました。
●コロナ禍での運用開始
ジョーンズラングラサール株式会社(JLL)の鳥居葉子さんより、日本マイクロソフト株式会社での導入事例を紹介いただきました。JLLはマイクロソフトオフィスのファシリティ管理業務の委託を受けており、オフィスを快適に過ごすためのオフィスサービスマネジメントも行っていることから、発表いただきました。
マイクロソフトは2020年1月16日、米国にて2030年までにカーボンネガティブにすると発表したこともあり、社内洗浄した場合、外部に洗浄委託する場合などの検討を経てきょうされんに委託することとなりました。
2020年4月から運用を予定していましたが、新型コロナウィルス感染防止のための緊急事態宣言が解除され、オフィスへの業務制限が一部緩和された2020年7月より導入を開始しました。当初は紙コップをすべて撤去する予定でしたが、コロナ禍ということもあり、テスト的な観点を踏まえて紙コップを併用し、いずれもディスペンサーに入れた状態で設置しています。しかし紙コップの利用者は減り、リユースカップの利用者が増えており、今後コロナ対策の状況などを見て紙コップは撤去する予定です。
カップの設置場所に洗浄過程を写真入りのパネルで掲示するなど、リユースカップの安全性を伝えています。洗浄過程や洗浄委託先についても全社アナウンスや社内ホームページでの掲載のほか、社内ニュースレターで毎月の利用数を社員に伝えることで利用者の増加を得ているそうで、周知の重要性を再確認しました。
●「共通リユースカップ」の運用がスタート
オフィスが集積する一つのエリアで複数のオフィスがリユースカップを導入すると、回収・搬入をまとめて効率的に輸送することが可能になり、さらなる環境負荷の削減、コストの削減につながることが期待されます。コロナ禍でのテレワーク推進などによりオフィスで働く人数が制限される中、当フォーラムでは「共通リユースカップ」の運用を開始しました。少人数、小規模オフィスでもリユースカップを利用いただけます。コロナ禍でイベントが減少する中、全国的なオフィスでのリユースカップの利用拡大を目指しています。