特集/未来の在るべきエネルギーの姿とは②~持続可能な地域社会のためのエネルギー~電気を使って社会を変えよう!

2021年02月15日グローバルネット2021年2月号

グリーンピープルズパワー株式会社 代表取締役
竹村 英明(たけむら ひであき)

 昨年10月、菅首相は所信表明演説において2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言しました。そのためには、大規模集中型の原子力発電や石炭火力発電から持続可能な地域分散型の再生可能エネルギーに移行することが求められます。
 先月号で日本のエネルギー政策の現状と、今後の計画見直しに向けた課題についてご紹介しましたが、今月号では2050年の脱炭素社会の実現に向けて、想定できる地域の姿やすでに進められているエネルギーの地産地消の取り組み、それを阻む政策を変えようとする市民の動きなどについてご紹介し、未来の在るべきエネルギーの姿について考えます。

 

この原稿執筆が大災害の最中になるとは予測しなかった。大雨も台風もこの真冬には襲って来なかったが、実は電力小売業界は大嵐のただ中にある。昨年12月末から卸電力取引所(JEPX)の市場価格が上がり始め、1月には100円/kWhを超え、1月13日には最高値250円/kWh、平均価格で154円/kWhを付けた。300kWh/月の消費者なら、電気仕入れは46,200円となる。この結果、月に1万円もしなかった電気代が5万円になったという消費者もいるはずだ。しかし多くの場合、この増額分を小売電気事業者が負担している。私の会社も負担すると決めた。その額は数千万円になり、もはや存亡の危機である。

卸電力市場で起こったこと

日本全体の電力需要は約1兆kWh超、1日には30~40億kWhを前後していると思われる。そのうち卸電力市場は8~10億kWhだ。4分の1の市場である。残り4分の3は東京電力、関西電力等、旧一般電気事業者(以下「旧一電」)が供給する。2016年の電力自由化後に誕生した新電力のほとんどが卸電力市場と契約し、自社調達では間に合わない電気を調達する。

4分の1の市場では、新電力の発電所からの電気も売買されるが、過半は旧一電からの電気である。つまり発電領域では、旧一電は今でも需要全体を支配している。その旧一電が12月26日に卸電力市場に入れる電気を3億kWh減らした。前日比30%の電気を減らされ、それをきっかけに市場価格が高騰を始めた。3億kWh減の状況はその後も3週間以上も続き、電気の調達が困難になった新電力が高値買いを始めたからだ。

新電力は電気を調達できなくても停電するわけではない。送配電事業者から電気は供給される。ただし、それはインバランス料金で請求される。

本来のインバランスとは、前日出した計画と実際の需給が一致しないことで、不足もあれば超過もある。これは計画の5%程度だ。ところが調達ができなかったというインバランスは、計画に失敗したのではなく、市場に電気がなかったためだ。

買えなかった電気を、送配電会社が供給し、その代金をインバランス料金と同等にしたというだけだ。ところが、OCCTO(電力広域的運営推進機関)等がこれをインバランスとして厳しくとがめる。新電力各社はおとがめが嫌さに、昨日の約定価格より高い買い札を出し続けざるを得なかった。これが今回の市場価格高騰の真相だ。電気が足りないのではなくルールがおかしいのだ。

電力自由化を阻む新市場

ルールのおかしさのせいで、多くの新電力が存亡の危機に立たされている。ルールの設計者はここまでわかっていても、ルールはルールだと言っているらしい。こんな恐ろしいルールだと知らなかった新電力が悪いと。実は、このようなおかしなルールがいくつも作られ、多くの関係者が指摘しているにもかかわらず、聞く耳持たずグングン進められているのが電気の世界だ。

その最たるものが「容量市場」である。字数の関係で詳細な説明は省くが、石炭や石油などの古い化石燃料発電所を温存させ、多額のお金を新電力から巻き上げて、これらの役に立たない発電所に投げ与える制度である。ルールを作った人は、いやいや新しい発電所を造ってもらうための制度だと、結果とは真逆のことを言っているが。

「ベースロード市場」は原発と石炭火力に優先権を与え、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の入る隙間をなくす仕組みで、「非化石価値取引市場」は再エネの価値を証書にして石炭に貼ると、石炭が二酸化炭素(CO2)ゼロになるというお札(ふだ)の制度だ。ちなみに「非化石」と称して原発証書でも石炭をCO2ゼロにできる。

よくもまあ考えつくなあと思うほどに、次から次に出てくる。社会を悪くするドラえもんだ。以前には、送電線はいっぱいで再エネは通る隙間もないといううそも言われていた。本当はガラガラなのに、原発や石炭などの動いていない発電所の優先権で入り口がふさがれていただけだった。

再エネの普及を目指す新電力は、この悪者ドラえもんが何かを出してくるたびに、その裏を探り、真実を解明し、警鐘を鳴らしてきた。市場価格高騰は、そのうるさい私たちを一掃し黙らせるための作戦なのかもしれない。

具体性を欠くカーボンゼロ政策

一方で世界は2050年どころか、その手前でカーボンゼロを達成しようと動き、再エネ比率もすでに50%超えという国も現れてきた。今どき石炭にしがみ付いても座礁資産()になるだけだし、天然ガスですらそうなりつつある。ちなみに原発はすでに座礁している。ところが昨年末、政府が発表したグリーン成長戦略は、2050年になっても再エネはせいぜい60%、10%が水素発電で、残る30%が原発、石炭、天然ガスとなっていた。

水素は何から作るのだろう? いったいいくらコストがかかると思っているのだろう。原発は新型炉をこれから開発するといい、石炭は地中貯留やコンクリート固化。これらもお金がかかる。再エネは、太陽光も風力もすでに世界的には10円/kWhを切り、5円/kWhを切ったものもある。どんなに日本が再エネの邪魔をしても、原発や石炭、天然ガスや水素は、これに太刀打ちができないだろう。

2021年は第6次エネルギー基本計画策定の年である。第5次基本計画では「あらゆる選択肢」などと、政府予算を無駄にばらまく計画が作られていたが、第6次では「選択と集中」を行うべきだろう。原発、石炭、天然ガスという座礁資産群を切り捨てて、現実的な技術である再生可能エネルギーへの集中が不可欠である。水素はその文脈の中での補完技術だと思われる。

 ※市場環境や社会環境が激変することにより、価値が大きく毀損する資産

未来を開く地域オフグリッド

これから2050年に向けて、抵抗勢力ドラえもんがいろんなわなや障害物を仕掛けたとしても、再エネはそれを蹴散らして進むのだろう。むしろそれが新たな環境破壊を生まないか懸念がある。つぶすためのルール作りをする人は、適切に育てるルールのことは知らないからだ。巨大な洋上風力が海上に林立しても良いのか、数十MWという超巨大ソーラーが山や森を削っても良いのか。人びとの暮らしとの調和を考えなくてはいけない。

また、旧来の巨大発電所、巨大送電網、巨大都市需要という図式の中で、発電所を再エネに置き換えるだけで良いのかという問題もある。巨大送電網はメンテナンスコストもかかり、災害にも弱く、需要の変動にも弱いということを、近年の自然災害で私たちは教えられたはずだ。

いまはまったく逆の仕組みが求められている。エネルギー資源は地域にある。太陽はもちろん風、水、地熱、バイオマス。地域ごとに資源を開発し、その発電所や熱設備を拠点として人びとの暮らしが作られる。エネルギー源は、時には食料の供給源であり、ある時は工場などの生産財の供給源にもなる。モデルとして、いま私が構想しているのは、ソーラーシェアリング発電所と周辺の人びとの共生圏だ。畑では食べ物が育ち、その畑で電気も生まれる。蓄電池を置き、基本的にはその共生圏内で電気は賄うが送電網とも緩やかにつながる。20世帯程度の共生圏で、これを地域オフグリッドと名付けた。

地域オフグリッドが各地にできてネットワークすれば、人びとの暮らしレベルのエネルギーはこれで賄うことができる。全国を結ぶ送電網への負荷は減らせるし、災害時に送電網が切れても、人びとの暮らしにはほぼ影響がない。これは夢物語ではなく、未来への道標だと思っている。

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