フォーラム随想君子の庖厨

2020年12月15日グローバルネット2020年12月号

日本エッセイスト・クラブ理事
森脇 逸男(もりわき いつお)

先日大失敗をした。小生の主食は白米でなく、玄米だ。近くの米屋から3kg入りの袋を届けてもらう。たった3kgをわざわざ運んでもらうのは気の毒だと、2袋一緒に届けてもらった後、すぐ食べなかった1袋をその辺に置いておいたのを忘れ、その後また2袋注文してしまった。

最近その辺を片付けていると、以前届けてもらった玄米袋を発見。ところが何と、袋の中に体長3mmくらいの黒いコクゾウムシがウジョウジョ。虫に食べられた玄米は黒くなって、異臭があり、とても食用にはできない。残念ながらレジ袋に入れ、バケツに放り込んで水攻め、逃げようと水面に浮かんで来る虫はガムテープで捕らえて皆殺しにし、黒変した玄米はマンションの厨房ゴミの缶に放り込んで捨てた。

 

まあ、そんな失敗はあるが、小生、5年前、妻が急逝、以来自炊生活だ。昔から玄米ファンなので、白米の外食はほとんどしない。「どうしてますか」とよく聞かれるが、今は炊飯器あり、電子レンジあり、スーパーやコンビニに行けば、出来上がった惣菜も、肉も魚も野菜も簡単に手に入る。熱湯を注げばいいみそ汁もスープもある。朝食は、玄米にみそ汁、らっきょうに子持ち昆布やごま昆布、梅干しを一応の定食にした。ただ、時々は飽きて、キャベツとベーコン炒めにパンとスープにしたり、玄米フレークに牛乳・ハチミツをかけたりとバラエティを持たせる。

夕食は、多くの場合、その時々のコンビニ惣菜にする。牛肉の時雨煮風やすき焼き、豚モツ煮込みなど、いろいろだ。

で、通常はまず日本酒を冷やで飲む。このところ植物繊維を摂らなければと、毎食ご飯の前にちぎったレタスか、レンジでチンしたブロッコリーにマヨネーズをかけて食べる。このレタス・ブロッコリー・マヨネーズは、晩酌のつまみになる。結構酒が進む。

少し暇な時は、ホウレンソウを買って来て、おひたしを作る。あと、塩こうじで漬け物を作ったり、サツマイモを買って来て、レンジで焼き芋を作ったりもする。

最近、面倒な時は、炒飯と雑炊の出来損ないのようなもので済ませる。フライパンで千切りキャベツか玉ねぎ、薄切りの牛肉か豚肉、あるいはベーコンなどを炒め、そこに玄米ご飯を入れ、適量の水を注いで、煮る。肉の代わりに缶詰の鮭でもいい。沸騰したら火を止めて、皿に移して食べる。簡単だけど、結構おいしい。

それに、近くに住んでいる何人かの友人の奥さんが、時々総菜を差し入れてくださる。野菜の煮物など家庭の味が味わえ、感謝。

 

統計の数字で、男性より女性の方が何年も長生きするとされている。なぜか。その理由は女性が家事をすることにあるという仮説が小生の持論だ。

というのは、男は会社を定年になって、することが無くなると、ただぼんやりしているだけだが、女性は家事をし、毎日のように、朝は何を食べるか、夜食は何にするかと腦を使って考える。その考える作業が、腦を活性化し、やがて長寿をもたらすのではないかという推論だ。

この説を何人かに披露したが、積極的に認めてはくれない。しかし、実はこの間小生、89歳という予想もしなかった年齢になったのに我ながらびっくり。これは毎日何を食べるか、そのため何をするかと考えることが役立っているのではないかと気が付いた。小生1人だけのデータに過ぎないが、あながち荒唐無稽な説でもないのではないかと思っている。

中国の古典、孟子に「君子は庖廚を遠ざく」という一節がある。これは、「仁の心を持つ人は動物がさばかれる姿が見えたり悲鳴が聞こえたりする厨房に近づくことは 忍び難い」という意味だが、後世誤って、男子たるもの、台所仕事などしないという解釈が生まれた。しかし、男も本当は台所に立った方がいい。いかがでしょうか。

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