環境条約シリーズ 344愛知目標は達成されるのか
2020年11月16日グローバルネット2020年11月号
前・上智大学教授
磯崎 博司
生物多様性条約事務局は、2020年9月15日に地球規模生物多様性概況第5版(GBO5)を公表した。その中で、2010年に採択され20年を期限とする愛知目標について、ある程度の進捗はあるが全般的に不十分であるとの結論を示した。
実際、20の個別目標に設けられている要素をすべて満たして完全達成された目標は一つもなく、部分的に達成と評価されたものも6目標(9、11、16、17、19、20)に過ぎない。目標9(外来種)は一部の島嶼での駆除事業に進捗が見られるが、全体では外来種の新規進入件数は減っていない。目標11(陸域17%・海域10%の保護区域)は林業や漁業の管理区域なども含めれば期限内に達成される可能性はあるものの、生態的重要区域の組入れ、広域管理や実効管理の面では十分でない。目標16(遺伝資源)は名古屋議定書の発効により前進したが、その効果的な運用のためには国内制度の整備をさらに進める必要がある。
大半を占める残りの14目標は未達成と評価された。目標1~4(生物多様性に関する認識、生物多様性の主流化、有害な補助金などの廃止、持続可能性の確保)にある程度の進捗は見られるが、全体としては不十分である。目標5と6(自然生息地、漁業)は、森林や湿地の消失は続いており、過剰漁獲の割合も10年前より悪化している。目標8と10(汚染、温暖化)も、プラスチック汚染、温暖化、海洋酸性化などによる悪影響は増え続けており、とくに、サンゴ礁はそれらの影響を受けている。目標12(絶滅危惧種の絶滅の防止)は、野生動物の個体数の減少に歯止めがかかっていない。目標13~15(農畜産分野の遺伝的多様性、生態系サービス、劣化生態系の回復)も進展が見られない。
他方、愛知目標に基づく活動がなければ鳥類や哺乳類の絶滅数は2~4倍になっていたとされ、保全活動の意義が強調されている。21年5月に中国・昆明で開かれる締約国会議で採択される後継の目標には、以上の評価を踏まえて各国に積極的な行動を促すため、具体的な要素と明確な目標数値の設定が必要である。