ホットレポートプラごみ問題の解決~大量生産・大量消費からの転換が必要
2020年11月16日グローバルネット2020年11月号
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン
プラスチック問題担当
大舘 弘昌(おおだち ひろあき)
世界では、1分間にトラック1台分のプラスチックごみ(プラごみ)が海に流れ続けている。その量は毎年最大で1,200万t。ここ数年、プラごみによる海洋汚染の問題が広く報道されるようになったが、プラごみ問題の深刻さはそれだけにとどまらず、実際は、もっと複合的な問題であることはあまり知られていない。その一つが、先進国から途上国に「汚れた」プラごみが大量に輸出されている問題だ。
途上国に押し付けられる、先進国の「汚れたプラごみ」
先進国で排出されるプラごみの多くは国内では処理されずに、「リサイクル」のために「資源」として、主に途上国へ輸出されている。グリーンピースの調査では、2018年の1~11月の間に、先進国から途上国へ600万tのプラごみが輸出されたことが確認された。日本はアメリカに次いで、世界第2位の輸出国であった。
2017年末の中国の全面禁輸の影響で、日本からのプラごみ輸出量は減ったが、それでも、2019年は90万tだった。日本を含む先進国から途上国に輸出されるプラごみに、実際、どれだけの量の「汚れたプラスチック」が含まれているかは不明だ。ただ現地では、世界から集まるプラごみが適切に処理されずに、環境汚染や健康被害を引き起こしている事例が数多く報告されている。こうした状況の中、マレーシア政府は自国を「世界のごみ捨て場にしてはならない」として、汚れたプラごみのコンテナを日本を含む先進国に送り返すという対応を取った。
マレーシアに輸入されたプラごみの実態調査
グリーンピースは2018年と2019年に2度にわたりマレーシアで、リサイクル目的で輸入されたプラごみの現場調査を行い、それらが地域に与える影響についてまとめた。リサイクルに適さない大量の「汚れたプラごみ」は、適切に処理されず、路上で野焼きされたり、埋め立てされるなどして、地域の環境汚染を引き起こしている。また、不適切な焼却で発生する煙などの害により、地域住民が健康被害を訴えるなど、深刻な実態が明らかになった。しかし、日本から大量のプラごみが途上国に輸出されている事実すら、日本ではほとんど知られていないのではないだろうか。
今後も増加する使い捨てプラスチック容器・包装とプラごみ
プラスチック生産全体の最も大きい割合を占めるのは使い捨て容器包装で、その量は15年以内に2倍になるともいわれ、今後さらに大幅に増えると予想されている。米国のNGO、The Pew Charitable Trustsの最近の調査によると、今後何も対策を打たなかった場合、海に流れるプラごみは2040年までに3倍になる可能性があるという。また同調査によると、現時点で企業や政府が掲げているプラごみ削減のための目標が達成できたとしても、結局上記と比べ7%しか海洋流出は抑えられないという衝撃的なデータがある。
プラスチック・ビジネスモデルの限界
ロイターによると、大手石油・化学業界は、今後5年間にわたって4,000億ドル(約42兆円)規模の投資をプラスチック増産のために計画している。脱炭素の波がエネルギー業界に押し寄せる中、この業界は、プラスチック生産を増やすことで生き残りを図ろうとしているようだ。一方、業界のプラスチック問題に対する取り組みは、まったく不十分だ。消費財業界の支援を受けた石油・化学メーカーなどのグローバルな企業連合Alliance to End Plastic Wasteは、プラごみの回収やリサイクルなどへの取り組みを大きく掲げている。しかし、その取り組み規模は、5年間で15億ドル程度(約1,575億円)であり、アライアンスに参加する47企業の収益合計2兆5千億ドル(約263兆円)に比べ、微々たるものだ。
大手石油・化学業界や、プラスチック製品を世界中で大量生産・販売する消費財企業などで、ビジネスモデルの変革が生まれない限り、プラスチック問題が解決に向かうことは困難だ。グリーンピースが世界中の市民や団体と協力して、多国籍企業によるグローバルなビジネスモデルの変革を求める理由はそこにある。
日本の課題と求められる施策
日本の政府や企業もさまざまな取り組みを進めている。しかし、その多くは、リサイクル率の向上と、紙やバイオプラスチックなどの他素材への代替という二つの施策への依存がほとんどである。紙製やバイオマス素材の代替品の使用の推進は、新たな環境問題を発生させる恐れがある。さらに、プラスチック容器包装のリサイクルは素材の品質や機能の低下を伴うものがほとんどであり、現状では資源として循環していない。
グリーンピース・ジャパンは「減プラスチック社会を実現するNGOネットワーク」に賛同する19団体とともに、10月13日に政府提言書を環境省笹川副大臣に提出した。リサイクルや安易な代替品への移行に依存するのではなく、大幅な使い捨てプラスチックの削減と、再使用が可能な容器包装などのリユースを基本とした社会を目指すことを訴えている。
日本ではプラごみ削減の取り組みとして、レジ袋有料化が象徴的になっているが、世界は使い捨てプラスチック容器包装を包括的に規制していく方向に向かっている。そもそも、これほどまでの使い捨てプラスチック製品は必要なのかだろうか? グリーンピースが9月に行った意識調査では、暮らしの中で「不要な使い捨てプラスチック製品や過剰包装のサービスが多いと感じる」と答えた人は、全体の8割以上。また6割以上が「日本でもレジ袋の有料化だけでなく、他の使い捨てプラスチック製品について、使用規制や有料化を進めるべき」と考えていることがわかっている(グリーンピース・ジャパン(2020).使い捨てプラスチック製品や容器包装に関する意識調査)。
ビジネスに変革を、リユースとリフィルによる新しい未来
大幅な削減に加えて優先されるべき施策は、リユース(再利用)とリフィル(詰め替え)の仕組みを広く社会に普及させることである。これにより、使い捨て容器包装の総量そのものを私たちの暮らしから大幅に減らすことが期待できる。
世界では、さまざまな可能性を持った事例が生まれており、グリーンピースでは昨年、報告書『スマート・スーパーマーケット』をまとめた。使い捨ての容器包装から脱却するための解決策はすでにあり、リユースの取り組みは、新しいビジネス価値を世の中につくり出しつつある。英国のエレンマッカーサー財団によると、世界の使い捨てプラスチック容器包装の20%をリユースに切り替えるだけで、100億ドル(約1兆500億円)の経済規模を生み出すといわれている。
コロナ禍での、リユースと衛生面への不安
最近は、新型コロナウイルス感染症の流行により、宅配や飲食店での持ち帰りが増加したことなどから、世界中で家庭からのプラごみが増加し、問題の深刻化が懸念される。また、マイバッグやリユース容器を利用することに対して、衛生面への不安を持つ市民や企業、飲食店も多い。そうした中、グリーンピースUSAは、世界各国の保健衛生専門家130名以上が署名した声明を発表した(Greenpeace USA (2020). Health Expert Statement Addressing Safety of Reusables and COVID-19 グリーンピース・ジャパンホームページに日本語版掲載)。「プラスチックだからと言って、他の素材に比べて安全ということはない」「リユース容器も基本的な洗浄などの衛生管理がされていれば安全に使用できる」ということを訴えている。
豊かな暮らしの再定義
コロナ禍からの復興にあたり、環境に配慮した社会・経済の仕組みにすることで、より良く復興するための「グリーン・リカバリー(緑の復興)」などの動きが、世界中で広がっている。使い捨てプラスチック問題についても、これまで当たり前だった大量生産・大量消費の在り方自体を見直し、私たちにとって本当に豊かな生活とは何なのかを今こそ再定義するべきタイミングである。