INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第61回 第2回 全国汚染源全面調査結果

2020年08月18日グローバルネット2020年8月号

地球環境戦略研究機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)

中国環境統計の変遷

私が中国の環境問題と関わり始めた1990年代後半頃は、環境関係のモニタリングデータや各種統計はまだお世辞にも十分に整備されているとはいえなかった。しかし、21世紀に入ってインターネットの普及とともに急速に整備されるようになり、とくに2006年から汚染物質排出総量削減(総量規制)が本格的に行われるようになってからは格段に進歩した。中国政府が毎年公表している環境関連の統計類も、中国環境統計公報、中国環境統計年報、中国(生態)環境状況公報(環境白書)は90年代からあるが、2010年前後から中国気候変動白書、中国自動車汚染防止年報(後に中国移動発生源環境管理年報と改名)、全国大中都市固体廃棄物汚染環境防止年報、最近では中国環境騒音汚染防止報告(年報)なども発表されるようになった。発表と同時にWEBサイトでダウンロードできるから非常に便利だ。

2006年に中国政府は、これらの統計とは別に10年に1回の割合で全国の環境汚染源の全数調査(センサス)を実施することを決定し、第1回全国汚染源全面調査(環境国勢調査)を実施した。2007年12月31日を基準日として、2007年の全国各種汚染源からの汚染物質排出実態を調べたものだ。調査を実施した対象総数は約593万ヵ所にも及んだ(毎年の環境統計での調査対象数は約11万ヵ所止まりだった)。当時の発表によれば約10億元(150億円相当)の経費を投入して実施された。

それから10年後、2017年12月31日を調査基準日とした第2回全国汚染源全面調査が実施され、今年6月にその取りまとめ結果が発表された。第1回目の調査結果の発表では、それまでの中国環境統計公報や中国環境統計年報等との数字の違いが明らかになったが、第2回目の調査結果の発表では第1回目の結果との比較ができて興味深い。また、第2回目では第1回目の調査では対象としなかった移動発生源を全面的に追加するなど更なる充実も見られた。

第2回全国汚染源全面調査結果の概要

それでは最初に第2回調査結果の概要について概観してみたい。調査の対象は中国国内の汚染物質を排出する工業汚染源、農業汚染源、生活汚染源、集中式汚染対策施設および移動発生源で、全国の調査対象数は約358万ヵ所であった(移動発生源数は含まず)。このうち工業汚染源は約248万、家畜家禽(畜産)養殖場は約38万、生活汚染源は約64万、集中式汚染対策施設は約8万で、工業汚染源が全体の約7割を占めている。工業汚染源調査数の上位5位地域は広東省、浙江省、江蘇省、山東省、河北省の順で、これら5地域で全体の約63%を占めた。総量削減対象になっている四つの主要汚染物質の年間排出量は、化学的酸素要求量2,144万t、アンモニア性窒素96万t、二酸化硫黄696万t、窒素酸化物1,785万tであった。その他の項目の詳しい数字は表に整理したとおりである。表に載せたもの以外にも企業の排水処理施設や排ガス処理施設の数や処理能力等の統計も発表されている。例えば2017年末の工業企業の排水処理施設数は約33万セットで、設計処理能力は一日当たり約3億m3、年間排水処理量は392億m3、脱硫施設は7万6,700セット、脱硝施設は3万4,400セット、集塵施設は89万7,900セットなどだ。

第1回全国汚染源全面調査結果との比較

の数字は、第1回および第2回全国汚染源全面調査公報から私が編集して整理したものだが、単純に比較できる項目とできないものがあるので注意が必要である。例えば全国の調査対象総数は第1回約593万ヵ所から第2回358万ヵ所に大きく減っている(235万ヵ所減少)が、この数字を単純に比較して調査規模の大小を論ずることはできない。内訳をみると工業汚染源の調査数は90万ヵ所も増えているが、農業汚染源については第2回目の調査では一定規模以上の畜産養殖場しか調査総数の数字に計上されていないからだ。公報を詳しく読むと畜産については戸別訪問調査したのは約38万ヵ所で、その他は2,981の区・県を調査したとなっている。すなわち、小規模経営については地方政府等が把握している別の情報(統計)から推計したということだろう。それを裏付ける数字として、公報には次のようにも書かれている。2017年畜産養殖業から排出された化学的酸素要求量は約1,001万tで、そのうち(一定規模以上の)畜産養殖場から排出された化学的酸素要求量は約605万tであった(筆者要約)。これはほんの一例だ。

6月10日に行われたこの調査結果の発表に係る共同記者会見での説明では「(同じ調査対象で比較すると)2007年に比べて化学的酸素要求量は46%、二酸化硫黄は72%、窒素酸化物は34%減少した」と説明しているが、発表された公報の数字を見た限りではこの数字の根拠がよく理解できないところもある。しかし、この10年間の環境政策の動向(例えば工場に対する超低濃度排出規制の実施や都市下水道の整備加速など)と照らし合わせれば、工業汚染源を中心に大きく減少しているという事実には間違いないであろう。

いずれにせよ、今回発表された公報は簡単な速報値であり、詳しい分析は今後出される詳細な報告書まで待たなくてはならない。

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