特集/コロナ禍から見えてきた環境破壊の罪②~強靭で持続可能な「コロナ後の世界」を目指して~新型コロナウイルス感染拡大で考える目指すべき循環型社会再認識する公衆衛生の重要性と多様な課題への対応~
2020年07月15日グローバルネット2020年7月号
国立研究開発法人 国立環境研究所
資源循環・廃棄物研究センター 副センター長
寺園 淳(てらぞの あつし)
本特集は、そのための具体的な対応として、循環型社会、自然資源を擁した観光地、そして金融機関の環境・社会問題への対応などについて論じていただき、強靭で持続可能な社会をどのように築いていくべきか、今後の社会の在り方について考えます。
新型コロナウイルス感染拡大の中で求められている廃棄物対策
2020年6月現在、国内外で新型コロナウイルスの感染が拡大し、収束のめどは立っていない。このような中、感染症対策と循環型社会・廃棄物処理も決して無関係ではない。環境省は今年(2020年)1月以降、家庭や医療機関などに対して廃棄物処理における取り組みを呼び掛けている。すなわち、家庭に対しては、感染した方や疑いのある方が家庭にいる場合、マスクやティッシュなどのごみを捨てる際は、「ごみに直接触れない」「ごみ袋はしっかり縛って封をする」「ごみを捨てた後は手を洗う」ことを心掛けることを求めている(図)。このような捨て方はインフルエンザの感染に伴い排出される廃棄物と同様であり、ご家族だけでなく、私たちが出したごみを扱う市町村の職員や廃棄物処理業者の方にとっても、感染症対策として有効であるとしている。
環境省では2009年の新型インフルエンザや2014年のエボラ出血熱などの経験も踏まえて、処理方法や処理体制を定めた「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」(2018)、および処理業者による事業継続計画などを示した「廃棄物処理における新型インフルエンザ対策ガイドライン」(2009)を作成してきたが、今回も改めて関係機関に周知している。これらに共通する重要事項は、関係者の感染防止対策とともに、流行時においても処理事業者などに対して事業の継続を求めていることである。今般、医療体制維持の重要性が認識されたが、廃棄物処理も国民生活を維持するために必要不可欠なサービスとして再認識される機会となったのではないだろうか。
また、神戸市は今年4月、廃棄物収集を担当していた3人の職員が新型コロナウイルスに感染したことを発表した。廃棄物の収集や処理においては、従来からスプレー缶や電池類の混入に伴う火災・爆発などのリスクもあり続けていた。飛沫や有害物質などを浴びる恐れも含め、新型コロナウイルスを機に廃棄物処理が危険を伴う作業であることを認識し、それらをより低減させる対策を考えるべきであろう。
公衆衛生から始まった日本の廃棄物処理
ここで、日本の循環型社会づくりに向けた歴史を振り返る。環境省による「日本の廃棄物処理の歴史と現状」(2014)によれば、「公衆衛生の向上」の時代(1950年代まで)、「公害の対応と生活環境の保全」の時代(1960年代~1970年代)、「循環型社会の構築」(1980年代~2000年代)と大別しており、公衆衛生から日本の廃棄物処理が始まったことがわかる。
東京二十三区清掃一部事務組合HPには、さらに興味深い記述がある。「幕末の頃、外国との交流をきっかけに日本中でコレラが大流行し多くの死者を出し」、「その死者数は日清戦争、日露戦争の戦死者数をはるかに超え」、「コレラの流行は、衛生的なごみ処理を進めるきっかけとなりました」とあり、グローバル化による新型コロナウイルスの感染拡大と、その被害を抑制するための廃棄物処理が必要となっている現代に通じる教訓がありそうである。そして、東京都では「夢の島」といわれた埋立処分場でハエが大量発生して、1965年7月には生ごみの断崖を焼き払う「夢の島焦土作戦」が実行されたり、1971年9月には東京都知事が「ごみ戦争」を宣言して清掃工場建設などの対策を進めたりした結果、事態がようやく収束に向かっていった。
焼却処理を進めながら変わりゆく重点課題と対応
こうして日本の廃棄物処理が公衆衛生の観点から焼却を中心に進められる中、1980年代から徐々に焼却施設からのダイオキシン類に対する社会的な関心が高まりを見せる。1997年の廃棄物処理法政省令改正などによってダイオキシン類の排出削減が進み、有害物質の制御という観点からも廃棄物焼却の役割はさらに大きくなった。
一方で、循環型社会づくりの機運も高まり、2001年施行の循環型社会形成推進基本法(以下、循環基本法)によって、資源の循環的利用と廃棄物処理についての優先順位(①発生抑制 ②再使用 ③再生利用 ④熱回収 ⑤適正処分)が法定化された。加えて、容器包装リサイクル法などの整備によって個別製品のリサイクルも進んだが、日本は他の先進国と比べて廃棄物焼却の割合が高く、リサイクル率が低いと批判されることがある(国立環境研究所 社会対話・協働推進オフィス, 2017)。
2000年頃からは、廃棄物焼却で発生する二酸化炭素について、地球温暖化防止の観点からも削減が求められるようになる。廃棄物焼却における熱利用や発電などのエネルギー回収は、循環基本法では単純焼却より高いものの再生利用よりは低い優先順位とされている。しかし、2001年には内閣府の循環型経済社会に関する専門調査会がサーマルリサイクルをマテリアルリサイクルと同等に位置付けたように、エネルギー回収を伴う廃棄物焼却がリサイクルの一つであるように認知されることが多くなってきた。こうして日本では、公衆衛生の確保、ダイオキシン類対策および地球温暖化防止といった課題に対して対応しながら、廃棄物焼却を継続させてきたといえる。一方、欧州では改正廃棄物枠組み指令(2008/98/EC)で廃棄物政策の優先順位が示され、リサイクルにはエネルギー回収は含まれないことが明示されているのが対照的である。
近年の課題と、コロナ後で目指すべき循環型社会
近年は、海洋プラスチック汚染に対する国際的な関心が高まっている。資源循環・廃棄物の多くの研究者にとっても、新たな難題を突き付けられた形である。地球環境の有限性に対する配慮には、これまでも「成長の限界」(1972)や「プラネタリー・バウンダリー」(2009)といったものがあったが、海洋へのプラスチックごみ流出削減も新しくて大きな課題となっている。日本国内でも「プラスチック資源循環戦略」が昨年(2019年)策定され、リデュース、リユース・リサイクルにバイオマスプラスチックの大幅な導入を含めた循環型社会づくりへの対策強化が求められている。
現在、新型コロナウイルスの感染防止や外出自粛などによって、使い捨て製品や容器包装の消費量増加につながり、家庭系廃棄物が増加していると考えられる。これは個人や社会で公衆衛生の優先順位が高くなった結果であり、プラスチックを含む廃棄物や焼却処理量の増加は短期的にはやむを得ないであろう。一方、コロナ後の長期的な社会像を考えると、過剰な使い捨て製品や容器包装に頼り続けるわけにはいかない。感染症への対処を含む公衆衛生を確保しつつ、リユースやシェアリングの努力もなされる必要がある。そして、今後の目指すべき循環型社会においては、公衆衛生の確保と廃棄物処理の機能維持を最低条件としながら、資源の循環的利用の促進、地球温暖化防止、海洋汚染防止など、より多面的な課題にバランスの取れた対応が求められているといえる。
※ 本稿は国立環境研究所資源循環・廃棄物研究センターオンラインマガジン環環2020 年4 月号の記事(寺園,2020)を加筆・修正したものである。