環境条約シリーズ 339動物由来感染症とワンヘルス

2020年06月15日グローバルネット2020年6月号

前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)

 人間はさまざまな感染症を経験してきている。そのおよそ60%は動物由来であり、ここ50年くらいの新興感染症に限ってはその割合は75%に上るとされる。古くは、天然痘(ウシ)、麻疹や狂犬病(犬)、インフルエンザ(鳥・ブタ)、百日咳や日本脳炎(ブタ)、ペスト(ネズミなど)、黄熱やデング熱(サル)などが動物由来である。新興感染症では、ラッサ熱(ネズミ)、カンピロバクター食中毒(家畜・家禽)、エボラ出血熱(コウモリ・サル)、O-157腸管出血性大腸菌症(ウシ)、E型肝炎(ブタ・イノシシ・シカ)、HIVエイズ(サル)、牛海綿状脳症(ウシ)、高病原性鳥インフルエンザ(鳥)、SARSやMERS(コウモリ)、ジカ熱(サル)、COVID-19新型コロナ肺炎(コウモリ)などがそうである。

 これらの原因となる病原体(寄生虫、原虫、細菌、ウイルスなど)は、野生動物を飼い馴らし繁殖管理した家畜や食品貯蔵に伴い急増したネズミなどとの接触、または食品や媒介昆虫(蚊やノミ)などを通じて、人間へ伝播してきている。なお、新興感染症の多くは、近年の人口増を背景として、耕地や活動範囲の拡大または自然資源開発による原生地域の野生動物との接触増、都市化・人口集中・温暖化による媒介昆虫(蚊)の増加、高速大量移動手段による感染機会増などに起因しており、新型コロナ肺炎はその典型例である。

 ところで、近年の人間活動の増大に伴う、自然破壊、外来種の持ち込み、種の絶滅、汚染、地球温暖化などは、水・大気・物質の循環の変化を通じて、地球の生態系・生命系の恒常性にまで影響を及ぼしている。それにより、病原体と宿主との関係が変化したり、病原体の変異が促進されたりして、動物または人間に新たな感染症を出現させる恐れが高まる。

 以上のように、地球生態系の改変・かく乱は新興感染症を招きかねないこと、また、動物の健康と人間の健康とは共通することを認識した上で、統合的な対策を取ること(ワンワールド・ワンヘルス)が改めて求められている(本誌2012年1月)。

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