環境ジャーナリストの会のページ2020 年春、“気候危機”対策は加速するか
2020年04月15日グローバルネット2020年4月号
フリーランス
office SOTO
山下 幸恵
2020年は世界の、そして日本の環境にとって、大きなターニングポイントとなる。新しい年度を迎え、各所で高まる気候変動への取り組みを考える。
2020年、パリ協定の船出は?
何といっても、温室効果ガス削減の国際的な枠組み、パリ協定の効力が発揮される。パリ協定とは、2015年パリ開催の第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で合意された温室効果ガス削減に関する取り決めだ。当初パリ協定は、世界の温室効果ガス排出量の約86%、159の国や地域を広くカバーする枠組みとして、高く評価された。
しかし、2019年11月には、排出量2位のアメリカが脱退を正式に通告。意欲的な欧州勢に対し、ブラジルやオーストラリアも消極的な姿勢を見せる。船出から国際社会の足並みの乱れが目立つ。
一方、国連環境計画は、同11月の年次報告書において、衝撃的な事実を発表した。世界の温室効果ガスの排出量は二酸化炭素換算で553億トンとなり、「過去最高に達した」という。排出削減への取り組みは、これまでも喫緊の課題とされてきた。しかし、今や気候変動を超える“気候危機”として緊迫感が漂っている。
官民で高まる“脱炭素”の熱
こうした情勢の中、世界各地の自治体では「気候非常事態宣言」が急速に広がっている。気候変動を、緊急に対応すべき“危機”と位置付け、積極的な対策に乗り出すための宣言だ。スコットランドやイギリス、ニューヨーク市やパリ市など多くの自治体が宣言している。国内では、2019年9月に長崎県壱岐市が初の宣言を発表した。同10月に神奈川県鎌倉市、記録的な雪不足に見舞われた長野県白馬村もそれに続いている。
地方公共団体による「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明」も高まりを見せる。温室効果ガスの人為的な発生量と、森林などによる吸収量をイコールとし、実質の排出を増やさないことを目指す。2020年3月現在、85の自治体が表明し、日本の総人口の約50%に達する勢いだ。
民間では、事業で使う電気を100%再生可能エネルギーとする国際イニシアチブ「RE100」へ加盟する日本企業が30社を超えた。加えて、RE100の対象とならない中小企業などによる「再エネ100宣言RE Action」も徐々に広まっている。RE100は、年間の電力消費量が10GWhを超える多国籍企業が対象だ。これに対し、再エネ100宣言RE Actionは国内の中小企業、自治体、教育機関、医療機関等の団体を対象とし、再エネへのシフトを後押しする。
環境省が2020年2月26日に開催したESG金融や環境サステナブル経営に取り組む企業・団体を表彰する「第1回ESGファイナンス・アワード」の受賞者には、RE100やRE Actionの参加企業が名を連ねている。
法改正、システム改革にも注目
4月からの新年度では、法制度の改変も注目の的だ。中でも注目したいのは、国内の再生可能エネルギー普及を下支えした固定価格買取制度(FIT)の改正。太陽光発電設備などはこの制度からの自立を目指し、新たな制度への移行が引き続き検討される。すでに4月からは、低圧の事業用太陽光発電設備に対し、FIT認定の要件として、全量売電ではなく自家消費に用途を限定する方向性が明示されている。
また、電力システム改革も最終局面を迎える。2020年4月は、電力会社の送配電部門を法的分離するタイムリミットだ。3月13日、経済産業省は電力会社9社の会社分割を認可したと発表した。電力システム改革は最終フェーズに入った。
官民問わず、環境配慮型の事業運営は不可欠なものとなりつつある。新たな枠組みへの転換は、痛みを伴う反面、さまざまなチャンスも含むはずだ。新年度にあたり、“気候危機”対策の加速、そしてそれが新しくより良い社会のためのアクションやビジネスを誕生させる端緒となることを期待したい。