INSIDE CHINA 現地滞在レポート~内側から見た中国最新環境事情第59回 中国生態環境部の新型肺炎への対応
2020年04月15日グローバルネット2020年4月号
地球環境研究戦略機関(IGES)北京事務所長
小柳 秀明(こやなぎ ひであき)
パンデミック
今や世界中のメディアが新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)に関するニュースを流し、情報は日々更新されているので、ここでは詳しく触れないが、この原稿を書いている4月3日時点で、全世界、中国、日本の累計感染者数はそれぞれ約100万人、8万人、3千人となっている。3月に入ってからは欧米で爆発的に増加した。パンデミック(世界的な大流行)である。
2019年12月に最初の感染者が報告された中国では、2020年1月20日に習近平総書記・国家主席が新型肺炎に関する重要指示(各レベルの共産党委員会と政府、関係部門は人民群衆の生命安全と身体の健康を第一に考え、有効な措置を取り全力を挙げて疫病の蔓延を防げというような内容)を出して以降、中国各地で積極的に感染者数が報告されるようになり、瞬く間に8万人を超える累計感染者数になったが、3月10日に習総書記・国家主席が、最初に発生しアウトブレイクした湖北省の武漢市に初めて入り、各方面を慰問激励するとともに重要講話を発表(感染症拡散の勢いはすでに基本的に抑制されたと発言)してからは、湖北省や武漢市を含む全国各地域から報告される新規感染者数が急激に減少し、ゼロの報告が続くという興味深い状況になった。患者隠しを心配した李克強総理は、23日に開催した中央の新型肺炎対策会議の席上、「各地は事実に基づき公開かつ透明性をもって流行情報を発表し、虚偽の報告や報告漏れは許されない」と発言した。26日にも同様な発言をしている。
この中国の収束動向とは正反対に、3月11日(現地時間)には世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルス感染症はパンデミックと形容される状態にある旨発言して憂慮したが、その後も目に見える抑制効果は表れないまま、中国を除く世界中で新規感染者が激増する状態が続いている。各国は武漢市で取ったようなロックダウン(都市封鎖)や国境封鎖を導入した。
中国生態環境部の対応
本稿では、中国生態環境部がこの新型肺炎の拡大防止等に向けてどのような措置を講じたのか、生態環境部のWEBサイトや微信(中国のSNS)の配信を見ながら整理してみた。
1.医療廃棄物への緊急対応
1月20日に習総書記・国家主席の重要指示が出されると、中国生態環境部は直ちに反応した。翌21日には「新型コロナウイルス感染による肺炎(以下、「新型肺炎」)の流行に係る医療廃棄物の環境管理業務に関する通知」を発出した。この通知が実際にWEBサイトで紹介されたのは23日であるが、通知は各レベルの地方生態環境部門に対して、肺炎流行期における医療廃棄物の環境管理に細心の注意を払い、医療廃棄物の収集、輸送、保管、処分活動中の環境汚染防止業務の監督管理を効果的に行うこと等を要求している。
22日には部内で大臣が特別会議を主催し(その後も定期的に開催)、28日には「新型肺炎の流行に係る医療廃棄物の応急処置管理と技術に関するガイドライン(試行)」を制定通知した(公表日29日)。
2.緊急時モニタリング計画の策定
1月31日には「新型肺炎流行対応緊急時モニタリング計画」を制定通知したと発表した。計画そのものは公表されていないが、生態環境部WEBサイトによれば概要は次のようである。
第一に大気・地表水の環境質モニタリングを行う。自動モニタリングステーションのモニタリングデータの緊急対応警報作用を十分に発揮し、防疫期間中の環境質安全を確保しなければならない。
第二に飲料水水源地の水質警戒モニタリングを強化する。防疫期間中、飲料水水源地の一般モニタリングに加えて、残留塩素や生物毒性など防疫特徴指標のモニタリングを行い、異常状況を発見したときはモニタリング頻度を上げ速やかに対策を取り、原因究明し、リスクをコントロールし、影響を除去して人民大衆の飲料水の安全を保障する。
第三に緊急対応モニタリング計画を整備し、緊急対応準備作業を事前に計画する。防疫業務の実情を踏まえ、新型肺炎流行期の環境緊急対応モニタリング計画を改良する。突発環境汚染事件発生時または消毒用品の大量使用による環境二次災害発生時には、直ちに現場に赴きモニタリングを実施する。
3.医療汚水等への緊急対応
2月1日には、「新型肺炎の流行に係る医療汚水と都市汚水の監督管理業務に関する通知」を出し、この通知の中で新型コロナウイルスに汚染された医療汚水応急処理技術計画(試行)も公表した。
4.予防抑制期間中の環境アセス実施の特例
さらに2月6日には「新型肺炎の流行予防抑制期間の建設プロジェクトに係る環境影響評価緊急時サービス保障の実施に関する通知」を発出し、予防抑制期間中に国や地方の共産党・政府が緊急に必要とする医療衛生分野、マスク等の物資の生産分野及び研究試験等の3種類の建設プロジェクトの環境影響評価手続きに関し、臨時に必要とするものは手続きを免除し、疫病流行収束後も引き続き使用するものについては建設開始後に環境影響評価の手続きをすればよいこととした。
5.その他
以上までが緊急に講ずべき対策として発表したものであるが、少し間を置いた2月24日には国務院の同意を得て、生態環境部、国家衛生健康委員会等10部門は合同で「医療機関廃棄物総合対策業務計画」を制定通知した(公表は26日)。計画の内容は多岐にわたるが、2020年末までには全国の各市が少なくとも1ヵ所の医療廃棄物の集中処理施設を建設すること等を要求している。そして3月3日には「新型肺炎流行の予防抑制と経済社会発展が調和する生態環境保護業務実施に関する指導意見」を制定し、各地方の生態環境庁(局)に通知している。規範的な内容が多いが、環境影響評価に関しては、先の3種類の建設プロジェクトのアセスの特例(簡略化)に加えて、その他の10大分類30小分類の業種のアセスの簡略化や17大分類44小分類の業種のアセスの手続きの改革などを提案している。また、一部の業種の立ち入り検査の省略やリモートセンシングやドローンを使った、現場に直接人が出向かない検査方式なども提案している。
その他、2月下旬以降は生態環境質のモニタリング結果や、全国医療廃棄物及び医療汚水処理等の状況について定期的に発表している。紙面の都合上発表内容の紹介は省略する。以上の約2ヵ月間にわたる生態環境部等の動きを表にまとめた。日米やその他の先進国がどのような動きをしたのか、今後比較してみると面白いだろう。