特集/国際セミナー「森林バイオマスの持続可能性を問う〜輸入木質燃料とFIT制度への提言」森林バイオマス燃焼による排出の影響

2020年02月17日グローバルネット2020年2月号

Partnership for Policy Integrityディレクター
メアリー・ブース

再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の導入により、木質ペレットなどを使ったバイオマス発電事業がここ数年の間で急激に増えましたが、その多くは海外で生産された輸入燃料に頼っています。木材を使った発電は、「炭素中立(カーボンニュートラル)」とされていますが、原料や燃料加工、輸送段階における温室効果ガスの排出を無視することはできず、生産段階での森林・生態系や地域社会への影響も考慮しなければなりません。果たして、輸入森林バイオマスを利用した発電は持続可能といえるのか。
 本特集では、2019年12月4日に東京都内で開催されたセミナーでの国内外の専門家による講演の概要を紹介し、目指すべきバイオマス発電について考えます。

 

私は生態系科学の博士号を取得し、2010年にPartnership for Policy Integrity(「政策の完全性に向けたパートナーシップ」、PFPI) という、バイオマスエネルギーの影響に取り組む団体を設立しました。PFPIは2019年3月、森林バイオマスを「ゼロカーボン」とみなしているとして、欧州連合(EU)を提訴しました。WEBサイトにその詳細を掲載しています。

バイオマス発電は非効率 なぜ「炭素中立」とされるのか

さまざまなデータを基にした調査によると、発電や住宅暖房といった加熱用ボイラーにおける木質チップの燃焼から生じる発電量MWh(メガワット時)当たりの二酸化炭素(CO2)の排出量は、化石燃料の排出量よりも多くなることがわかります。

木質バイオマスを燃やした場合になぜそんなにCO2の排出量が多くなるのか。それは、燃料として使う生の木質チップは重量の約半分が水分であるため、それを燃やすのは非効率で、一定量のエネルギーを生産するためにより多くの燃料を燃やす必要があるからです。

3GW(ギガワット)の大規模な発電所を運営し、石炭火力発電所を、木質ペレットを燃料にした発電へと転換したイギリスのドラックス社は、バイオマス発電によるCO2の排出量を、約300万トンと報告しています。しかし、EUの取引制度に基づき計上されるCO2排出量は0トンとされています。バイオマスを使った場合には0カウントで良いことになっているからです。

バイオマスを燃やすことによって発生するCO2は、化石燃料を燃やしたときに出るCO2と同じく温室効果をもたらします。そして燃料にするために収穫された森林が元の通りに成長するまで数十年はかかるということがわかっているのに、なぜ政策ではバイオマス燃焼から生じるCO2は「炭素中立(カーボンニュートラル)」として扱われるのでしょうか?

その理由の一つは、バイオマス由来のCO2は土地利用セクターで計上されているからです。国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、バイオマス収穫による森林からの炭素の損失を土地利用セクターで計上しています。そのため、エネルギーセクターでは二重計上を避けるためにバイオマス由来のCO2をゼロとして計上しています。しかし、IPCCは「エネルギーセクターの合計にバイオエネルギー排出量を含めないというIPCCのアプローチは、バイオエネルギーの持続可能性または炭素中立に関する結論として解釈されるべきではない」と警告しています(※IPCCのサイトはこちらから)。

また、燃やされているのは廃材や残材だけと主張されていますが、そのような廃材、残材がいずれ腐敗する過程でCO2を排出する一方で、そのバイオマスが燃やされた場合に排出されるCO2の量の方がはるかに多いのです。

バイオマスを燃やしたときに排出されたCO2の量から、残材がそのまま放置されて腐敗して排出されたであろうCO2の量を引いた「累積正味排出影響(NEI)」について、私は論文にまとめました()。たとえバイオマスが残材や廃材だけから作られたとして、それを燃やしてCO2が排出されると考えても、「炭素中立」にはならないということがわかります。NEIは10年で50~80%、つまり10年分のCO2排出の50~80%が温暖化を悪化させるCO2として追加計上されるべきなのです。

バイオマス燃料は持続可能か

木質ペレットは残材・廃材から作られているとよく主張されますが、実際には樹木全体を丸ごと使ってつくられている場合があります。

「燃料の原料は持続可能な形で収穫できる」というバイオマス産業の主張がありますが、この「持続可能な収穫」というのは、収穫される地域・国で伐採された木材の量よりも多くの樹木が育てられるということを意味します。ただし、大気への影響が正味ゼロという意味ではありません。

いわゆる「持続可能な収穫」でも、大気中のCO2には影響を与えています。バイオマスの収穫によって大気から除去した正味量を異なるシナリオで見てみると、いずれも大気中に放出されるCO2の量は異なっていますが、すべて「持続可能」(成長量が収穫量を超える)といわれています。

IPCCは、もしバイオマスエネルギーによって、実際に大気中に排出されるCO2の量を減らすためには、燃焼によって大気中に排出されるCO2の量を埋め合わせる(オフセット)量のCO2の吸収が必要であると警告しています。真の炭素中立の達成に向けて、バイオマスエネルギー生産からの排出量を埋め合わせるには何が必要か。その排出量と同じ量を追加の炭素吸収によって埋め合わせることですが、それは現実に起こっていることとは異なります。

一方、森林による炭素隔離(「土地利用、土地利用変化及び林業部門(LULUCF)セクターにおける吸収」は、化石燃料の排出量の一部を埋め合わせているとすでに認められているため、バイオマスエネルギーの排出を埋め合わせるために「割り当てる」ことは二重計上となります。

多くの科学者が「バイオマスは炭素中立」に異議

多くの科学者がバイオマスは炭素中立として扱ってはならないと主張しています。

EUの諮問グループである共同研究センター(Joint Research Centre)は、「森林バイオマスエネルギーの炭素会計に関するEUへの報告」において、バイオマスエネルギーのための木材収穫は森林の炭素貯留量の減少を引き起こすため、炭素中立であるという想定は「正しくない」としています。

また、欧州科学アカデミー諮問委員会(EASAC)は、「森林バイオマス火力発電をEUの再生可能エネルギー目標に貢献するものとして記録する法的義務は、発電目的で木材を燃やすために、ヨーロッパや他の場所において樹木を伐採する需要を生み出すというゆがんだ効果をもたらした」と述べ、さらにバイオマスを今後も推進していけば、「パリ協定の目標の1.5℃を超えるリスクが高まる」と指摘しています。

さらに、米国環境保護庁も「バイオマス燃焼は、化石燃料の燃焼による排出量よりもBTU(英国熱量単位)当たりのCO2排出量が多くなるため、発生源でのCO2排出量は増加する」とし、オフセットは不確実であると述べています。

バイオマス政策に対する科学者のアドバイス

多くの科学者が「バイオマスエネルギーに対し、補助金を交付するべきではない」と主張しています。助成するのであれば、科学者のアドバイスに従い、バイオマス起源の排出を計上し、正味排出量が非常に低いバイオマスのみに助成するよう求めています。

また、イギリスの新政策のように、ライフサイクルでのCO2排出量が化石燃料と比べて非常に少ない燃料のみを対象とし、熱電供給のバイオマス施設についても、少なくとも効率70%以上に限定するよう求めています。

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