特集/待ったなしの温暖化対策~脱炭素社会とその方向新しい社会を支える諸原則とは
2020年01月15日グローバルネット2020年1月号
NPO 法人環境文明21 顧問
加藤 三郎(かとう さぶろう)さん
講師は、石油文明の変革を30 年前から訴えてきた内藤正明氏、石油化学会社から気候変動の研究者に転じ、地球温暖化の大実験の速やかな中止を主張する西岡秀三氏、国の環境政策に取り組むも、地球環境問題は文明の病と喝破し、官僚からNPO 法人の創設者になった加藤三郎氏で、いずれも1939 年生まれの80 歳。
「脱炭素社会を一刻も早く実現しないと、人類社会が遠からず破局してしまう」との三人の悲痛な「遺言」とも受け取れる警鐘に耳を傾け、新しい年の一歩を踏み出したい。
英国では2世紀ほど前に産業革命が始まり、日本も半世紀遅れて、150年以上の時間をかけて一生懸命に文明開化をしてきました。化石燃料を利用して、科学技術を駆使して、とにかく豊かに経済の規模を拡大・成長させたい、利便性・快適性をもっと高めたいと、今日の都市工業文明をつくってきました。今やこの地球上に住んでいる77億人が皆、物的な豊かさ、快適さを求めています。
このままでは人類社会は破局を迎える
営々と努力した結果、われわれの生活は確かに豊かになりました。しかし、その一方で取り返しのつかないような環境の破壊、気候の異変はもちろんですが、私が非常に心を痛めているのは生物の種が急激に失われていることです。このままでは人類社会は破局してしまうと思わざるを得ないのです。
私は一年ほど前までは、破局とか破滅という言葉は意識的に避けてきました。しかし、学生時代から半世紀以上も環境問題と取り組んできた者の責任として、このままでは危ない、ということを伝えようと決意しました。このままでは遠からず、遠からずというのは50年も100年も先の事ではなく、20年から30年のうちに、もしかしたらもっと短い時間で破局的な現象が起きるのではないかと思います。
しかし人間はもちろんばかではないし、賢い人もたくさんいるので、心ある人びとが主として国連を舞台にして悪戦苦闘しながら問題の究明と解決策を示してきたわけです。その典型的なものが国連の気候変動政府間パネル(IPCC)の取り組みや生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)の活動です。生物に関する科学者の集まりであるこのプラットフォームは、2019年5月にレポートを出しました(陸地の75%が人間活動で大幅に改変され、約100万種の動植物が絶滅の危機にあるとの報告書)。
こうした活動を政治家が受け止めて作ったのが持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定です。ですからこのまま放っておくと破局しそうなことに対して、人類社会はさまざまな対応策を出しているのです。それにもかかわらずなぜ進まないのでしょうか。
私たちの生活を維持している原動力、エネルギーは80~90%が化石燃料です。それを2、30年のうちにやめて、再生可能エネルギーで対応しようというのは非常に難しい話だと思います。その理由は、多くの人は脱炭素社会を築くことに関心を持っていないからです。先進国の中では日本はとくに関心が低いと思います。私たちNPOの役割は、今起きていることの根本原因が化石燃料の利用にあり、それが私たちの経済を発展させ、生活を豊かにするという罠からどうしたら抜け出せるのか、多くの人たちと話し合って対策を進める以外に道はないと思います。
安倍総理は経済最優先 野党も根本的議論をしない
私は仕事柄、総理大臣の所信表明に関心を持ち、いつも見ているのですが、新内閣が誕生した9月の安倍総理の所信表明演説で、「わが内閣は経済最優先です」と言っています。異常気象や生物種が激減していることに対して危機感が乏しく、エネルギー構造や都市構造を何とかしましょうというような内容もありません。
われわれは今、自由主義経済、資本主義経済の体制下にあって、何でも自由にやって、自由にもうけて結構ですと言ってきたのですが、もうそれを変えなければいけない。自由でほぼ無制限な科学技術の開発や利用に対して、一定の正当な制約、法規制、技術アセスメント、特許を取る際の条件付け、などがどうしても必要です。
誰か特定の人がやればできるのではなく、全員が参加しなければできないのです。これは企業にいる技術者も営業をやっている人も、学者もジャーナリストも政治家も何かをやらなくてはいけない。企業や技術関係の組織は省エネ、再エネの導入、新しい脱炭素の技術開発をしなければいけない。NPOや研究者、ジャーナリストは、多くの人たちに、どうして脱炭素社会が必要なのか、どうして化石燃料をやめて、再生可能エネルギーにしなければいけないのかを伝えて、理解してもらわないといけないのです。
私たち環境文明21もそれなりに努力はしているつもりですが、私たちの声に耳を傾けてくれているのは、日本では恐らくまだ数%にもならないと思っています。
それは政治家も同じです。安倍総理の所信表明演説が環境問題を優先的に扱っていないと言いましたが、野党も日本のエネルギーや都市構造、交通体系を抜本的に変えなければいけないという議論をほとんどしていない。「関西電力の幹部が多額のお金を町の助役からもらったのはけしからん」とか、そんな議論に血道を上げていたのでは日本の運命というか、あえて言えば世界の運命も決まったものになってしまうのです。
加藤 三郎さん
環境文明21 創設者で現在顧問。27 年余の公害・環境対策の官僚生活の最後の3 年間で、地球環境問題は都市・工業文明が引き起こした「文明の病」であると痛感。この問題に向き合うため53 歳で退官しNPO 生活を開始。26 年経った今、「環境政策は経済・社会政策」との認識の下、脱炭素時代の社会のあり様を追求している。