環境ジャーナリストの会のページSDGsという接着剤
2019年12月16日グローバルネット2019年12月号
朝日新聞記者
北郷 美由紀(ほくごう みゆき)
「何を今ごろ。こっちは長いことやっている」「おや、追い風が吹いてきた」。環境問題に取り組んできた人たちのSDGs(持続可能な開発目標)への反応は、大きく分けるとこの2通りだったのではないか。
SDGsの採択から4年が過ぎ、拒絶やスルーといった反応は「絶滅危惧種」となりつつある。2030年までの世界共通の目標には環境問題全般の解決が組み込まれているのだから、反対する理由はない。むしろ、これを使えば「壁」を突破して仲間や賛同者を増やすことができる。SDGsをたぐり寄せるメリットは大きい。
環境と経済の距離が近づく
環境、社会、経済は絡み合っていて切り離すことはできない。ならばそれぞれが成り立つように統合的に捉え、働き掛けようというのがSDGsだ。環境問題が他の問題と同列に扱われることには、関わりが深かった人ほど不満もあったのだと思う。けれども、環境問題に熱心な人とそうでない人との隔たりを埋めなければ、本当に必要な社会変革はままならない。
だからこそのSDGsなのだと思う。反目する関係だった環境と経済の距離の近づきようが、その最たる例だ。環境をコストだと明言していた企業が、SDGsに取り組むなかで、事業の土台としての環境の重要性を直視し始めている。さらに、環境を重視することが中長期的な利益につながるという認識も広まっている。
使わない手はない。自社の未来と環境保護とを重ね合わせている企業を見つけ出し、協力し、応援していく。そうした度量と器量を持てるよう、裏打ちする専門性をさらに高めていく。SDGs時代には「環境側」の真価も問われている。
サステイナブル金融を育てる視点を
環境と、社会、経済の好循環を後押しする役割を期待されているのは金融だ。投資の世界では、06年の責任投資原則(PRI)のもとESG投資が主流化している。保険業界も持続可能な保険原則(PSI)を12年に作り、舵を切った。長いこと遅れを取っていたのは銀行だが、ようやく今年9月に大きな進展があった。
それが責任銀行原則(PRB)の発足だ。9月23日、世界各地の130の銀行の署名によって発足した。欧州の名だたる銀行のほか、米国からはシティグループが加わり、中南米やアフリカの銀行も名を連ねた。アジアからは世界最大といわれる中国工商銀行やインドからも参加。日本からは3メガバンクと、三井住友トラスト・ホールディングスが入った。
これにより、サステイナブル金融の枠組みが完成した。金融工学(これからはAIか!)を駆使したマネーがマネーを生み出す金融とは対極にある、環境問題を前に進める資金の流れを作り出す枠組みだ。
PRBの第一原則は、経営戦略をSDGsとパリ協定に同調させることだ。つまり、石炭火力発電や化石燃料関連への融資は原則に反することになる。すぐに実行しなくてもよいことになっているものの、融資や債権の発行・引き受けの方向性に脱炭素という網がかかった意味は大きい。情報開示と説明責任を果たす原則もあり、NGOは対話を求めやすくなる。
「時間稼ぎができる」との批判もあるが、大銀行の中ではサステイブル金融はまだまだ傍流だ。これを何とか主流にしないといけない。従来どおり監視をしながら、育てる目線を持つことがSDGs的なやり方だ。
いまや環境省と金融庁は連携してESG地域金融を、内閣府は地方創生SDGs金融を呼び掛ける。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は通産省が音頭を取ってコンソーシアムを立ち上げたところ、賛同する企業の数が世界一に躍り出た。
かくいう私も、SDGsの取材を進めるなかで環境問題に足を踏み入れた一人だ。つくづく思うのは、SDGsが持つ接着剤効果だ。この接着剤を使う人が増えれば、「環境の土俵」に上がる人を増やすことができるはずだ。業種をまたぎなら、世代をつなぎながら。環境問題を環境問題に終わらせないことが、一番の早道なのだと思う。