2013年12月(277号) 特集/シンポジウム報告 気候変動の身近な影響と適応策を考える(その1) 気候変動の影響は水を通じて社会に影響?! 東京大学生産技術研究所 沖 大幹さん

2013年12月15日お知らせ

2013年12月(277号)
特集/シンポジウム報告 気候変動の身近な影響と適応策を考える(その1)

気候変動の影響は水を通じて社会に影響?!
東京大学生産技術研究所 沖 大幹さん

気温が上昇するとゲリラ豪雨の回数も増える

気候変動というと地球温暖化が強調されますが、社会への影響の多くは水を通じて現れます。日本では19世紀、明治の初めから気温の観測が始まっていますが、2010年までの年平均気温の変化を見ると明らかに上がっている。これは疑いようがありません。

さらに全国51地点に設置されているアメダスのデータによると、1日に200mm降る雨の回数も実は増えています。1時間に50mmの雨、これは下水道が安全に流せる雨量ですが、これも回数が非常に増えています。大気中に含まれる水蒸気の量は気温によって大きく変わります。0℃の時には1,000hPaのうちの0.6%ぐらいしか水蒸気は含まれていませんが、気温が1℃上がると大気中に含まれる水蒸気の量は最大で7~8%ぐらい増えるのです。同じような雨が降っても、寒い時は空気の中に水蒸気がほとんどありませんから雨の量は弱い、暖かい時に雨が降ると水蒸気が多く含まれていますからその分だけたくさん降ることになります。

1976年以降のアメダスの観測結果(図)から、25℃ぐらいまでの平均気温だと温度が高ければ高いほどその日に降る雨が激しくなっています。これはモデルのシミュレーションではなく、過去に実際に起こった観測結果です。

図:アメダスの観測結果
図:アメダスの観測結果

日本の平均気温の上昇は地球規模の温暖化だけではなく、ヒートアイランドの影響もかなりありますが、原因が何かにせよ気温が高い日には強い雨が降る可能性が高いといえます。最近、マスコミでいうところのゲリラ豪雨が増えているのは、気温の上昇を反映して、短い時間の雨は激しいのが降りやすくなっています。

温暖化を放置すれば7,500万人が洪水の危機に

それでは将来はどうなるのか。9月に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書の第1作業部会(WG1)の報告によりますと、これから先がどうなるのかは人類がどのぐらい温室効果ガスを出すかによって大きく違います。IPCCは将来を予測する四つの新しいシナリオを今回用意しました。

放射強制力といって温室効果を高めてしまう温室効果ガスの濃度ごとに、RCP2.6というかなり無理をして温室効果ガスの大気中濃度を低く抑えるシナリオですと、100年後、そんなに気温は上がらないのですが、RCP8.5という最も大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が高くなるシナリオでは2.6~4.8℃ぐらいになるだろうという予測が出されています。そうしますと気温が高くなれば短時間に激しい雨が降る可能性が高くなります。

このRCPというシナリオに対して、今度は社会の方が、例えば人口がどのぐらいになるか、経済成長はどうなるか、そして温暖化対策の密度をどのぐらい進展させるのかといった社会経済シナリオを想定して、世界中が温暖化対策をとった時にどのような社会になるか予測しています。一番まっとうな持続可能な社会は、低人口、経済成長は中程度でしかも温暖化対策に関する技術革新もやると、CO2濃度は低く抑えることができるというわけです。

20世紀には100年に1℃だった洪水のリスクにさらされる世界人口は、現在は2,500万人くらいですが、今後、RCP8.5のような非常に温室効果ガスを増やすシナリオでは7,500万人が大洪水のリスクにさらされるようなひどい状況になります。

今年9月、ゲリラ豪雨のため名古屋市で内水災害が発生しました。繁華街の栄は、どちらかというと高いところにあるので浸水被害は起こらないと思っていたのですが、高台であろうとものすごく強い雨が降れば浸水してしまうのです。

日本では毎年、平均して1,000億~1,200億円ぐらいの内水被害が起きています。温暖化が進むにつれて3,000億円ぐらいになると推計されています。災害の被害額の推計というのは難しくて、非常に多い雨や少ない雨、あるいは非常に高い気温、低い気温というような極端現象が起きますので、何回も何回も数値シミュレーションをして推計しています。

気候変動対策には大きく分けて緩和策と適応策の二つがあります。マスコミでは気候変動対策というと緩和策のことばかりを言っています。人間が出している温室効果ガスの排出量をできるだけ減らそう。省エネにもなり、大気汚染の緩和にもなり、エネルギー安全保障にもつながると。温室効果ガスを減らすことが原発推進と結びついているところがあるため、原発も嫌だけど温暖化も嫌だなという人は困っているでしょう。

最悪のシナリオでは、21世紀末に50億~60億人が水危機に

もう一つあるのが適応策です。温暖化が進行しても何とか快適に暮らせるようにしたい、水害が増えるにしても堤防を少し高くする、あるいは浸水被害が起こらないように止水板をつけるなど、ある意味で場当たり的な対策ですが、なかなか緩和策が進まない現在、緩和策と適応策の両方を合わせて実際の災害を減らそうという考え方になってきています。適応策は従来の防災や社会開発と同様、貧困削減や農業開発、災害被害軽減など現在のさまざまな問題の解決にもつながる等のメリットも多いと考えられています。

気候変動対策と水需給の関係を考えると、将来の社会がどうなるかによって、水不足になる人口は大きく違ってきます。人口が一番多く、経済も低成長の社会経済シナリオだと、21世紀の後半には50億~60億人ぐらいが、水不足の地域に住んでいると予測されます。

水分野の適応策は、日本は設備が整っていますが、途上国などでは貯留施設・容量の増加、堤防の整備などの治水の推進、地下水の探査と汲み上げ、雨水貯留の普及、海水の淡水化、水を輸送することも必要でしょう。また、再生水を利用して水の利用効率の改善を図り、水の一番大口のユーザーである農業では、穀物の作付け時期、品種、植え付け面積の変更などにより灌漑用水の需要を削減することもできます。

家庭用の水も従量制の導入や水市場の拡大など経済的手法を導入することで節水をさらに進めることが可能です。水が足りなくて農業生産が難しい所では、農作物自体を輸入して灌漑需要の削減(仮想水輸入)を図ることも水分野の適応策として考えられています。

おさらいをすると、気温が高くなると、ごく短時間の降水強度は飽和湿度に応じて増大します。これは非常に確信度が高いです。このことは都市の中小河川のゲリラ豪雨水害に対応しますが、原因は地球温暖化でもヒートアイランドでも、被害は非常に深刻です。

また、今回のIPCCの報告では、CO2の累積の排出量、つまり人類が産業革命以降どれぐらいのCO2を排出したか、その総量と世界の平均気温の上昇量は、ほぼ比例関係にあるという新見解が示されました。結局、われわれがどれくらい化石燃料を使ったかというのが平均気温に関係している。それが短時間の豪雨にすごくきいてくるということです。

対策としては緩和策といわれる温室効果ガスの削減、あるいは社会そのものをどのようにしていくのかということと、温暖化が進んでも不都合を減らすような適応策をうまく組み合わせていくことが非常に大事です。

(2013年10月30日神奈川県内にて)

グローバルネット:2013年12月号より