【プレスリリース】木質バイオマス発電事業を行う大手18社のCDPへの回答を調査
〜大手商社、電力・ガス会社ら多数の企業が規定に反し、バイオマス燃焼によるCO2排出を報告せず〜
2024年05月22日お知らせ
2024年5月22日
報道関係者各位
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ウータン・森と生活を考える会
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)
バイオマス産業社会ネットワーク
地球・人間環境フォーラム
木質バイオマス発電事業を行う大手18社のCDPへの回答を調査
〜大手商社、電力・ガス会社ら多数の企業が
規定に反し、バイオマス燃焼によるCO2排出を報告せず〜
当団体を含む、木質バイオマス発電の持続可能性に関する提言活動を行なう5つの環境団体は、企業の環境評価を行う非営利団体CDPの「CDP気候変動質問書2023」(2024年2月公表)について、木質バイオマス発電事業を行なっている18社の回答状況を調査し、22日に結果を発表しました。
バイオマス発電はカーボンニュートラルであるとして、国内では再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)によって推進されてきましたが、木質バイオマス(木材)を燃やした際のCO2排出量は、石炭火力よりも多いことが分かっています。
企業の国際的な炭素会計基準であるGHGプロトコルや、GHGプロトコルを基準として採用したSBT(Science-Based Targets:科学的根拠に基づく目標)では、燃焼時のCO2排出について、算定・報告が求められています。同様に、CDP気候変動質問書においても、バイオマスの燃焼によるCO2排出量の報告を求めています。
今回の調査の結果、バイオマスの燃焼によるCO2(生物由来起源CO2)排出の有無や排出量の開示において、回答に差異があることが判明しました。調査対象の18社中10社は、「バイオマス由来のCO2排出が無い」と回答しています。
これら「未報告のCO2排出」により、CDPのデータを利用する投資家にとって、企業のCO2排出量の適切な評価が困難になることが懸念されます。
調査概要
- 調査対象:日本の大手木質バイオマス発電・石炭バイオマス混焼発電事業者18社 (以下)
・2023年3月の調査(※1)で特定した輸入木質バイオマス発電事業(バイオマス専焼)に関与する事業者(発電規模上位20社)のうち、CDPの回答が確認できた14社(大阪ガス、住友林業、中部電力、住友商事、丸紅、九州電力、三菱商事、関西電力、イーレックス、伊藤忠商事、石油資源開発、JFEホールディングス、東邦ガス、東京ガス)
・バイオマス燃料の調達に関わる総合商社で、木質バイオマス発電所へ出資する企業(豊田通商)
・石炭バイオマス混焼発電所を多く所有する3社(JERA、電源開発、中国電力)
- 調査方法:CDPが2024年2月に公表した「CDP気候変動質問書2023(CDP Climate Change 2023 Questionnaire)」への回答内容を調査
主な結果
18社の内、8社が「ニ酸化炭素排出は貴社に関連する生物起源炭素からのものか?」(質問C6.7)に「はい」と回答。前年の「CDP気候変動質問書2022」の同質問に「はい」と回答したのは、3社(住友林業、大阪ガス、JERA)だった。CDPのガイドラインでは、企業はバイオマス燃料の燃焼が組織に関連する場合、「はい」と答えなければならない。
この1年で、バイオマス燃焼由来CO2の算定・報告の必要性について、事業者の間で認識が広まっていると言えるが、未だ「いいえ」と答えている企業が半数以上の10社に上る。
上記の(質問C6.7)に「はい」と回答した8社の内、6社が生物起源炭素からの排出量をCO2換算トン単位で回答(質問C6.7a)。
ただし、CDPのガイドラインでは、その回答値で「どのような根拠・排出係数を用いたのか」「算定対象範囲(バウンダリ)をどのように設定しているか」の説明を求めていない。6社中1社は説明が無く、残り5社の説明内容も統一性に欠け、他社との比較が困難である。
18社中5社は、バイオマス燃料を消費しているにも関わらず、燃焼によるCO2排出が「無い」と回答・認識していた。これら5社は、消費した燃料の量(MWh(メガワット時))を回答している(質問C8.2c)一方で、「バイオマスの燃焼によるCO2排出が自社と関係ない」と回答している(質問C6.7)。
※企業別回答内容をまとめた表は、プレスリリース文書および調査結果本文をご覧ください。
(※1)5万kW以上の輸入木質バイオマス発電所に関与する事業者(発電容量上位20社)の、燃焼によるCO2排出量を試算 URL:https://hutangroup.org/archives/4466
(※2) “CDP Technical Note: Biofuels” (“バイオ燃料に関するCDP技術ノート”) URL: https://cdn.cdp.net/cdp-production/cms/guidance_docs/pdfs/000/003/647/original/CDP-technical-note-on-biofuels.pdf?1651855056
環境団体から本調査に関するコメント
「生物由来CO2排出を含めた適正な情報開示が必要」
熱帯林行動ネットワーク運営委員 川上 豊幸
GHG排出量算定のグローバルスタンダードであるGHGプロトコルやSBTiでも、バイオマス燃焼によるCO2排出の報告が規定され、CDPでも情報開示が求められています。CDP気候変動質問書において、バイオマスの燃焼によるCO2排出について適正な報告を行なっていない企業が多数あることは大きな問題で、不適切な情報開示は投資家の評価にも影響を与えてしまいます。木質バイオマス発電事業を抱える企業として、生物由来CO2排出を含めた適正な情報開示が必要です。
詳細資料
調査結果本文「CDP気候変動質問書2023」~大手木質バイオマス・石炭混焼事業者の回答状況まとめ
CDP気候変動質問書2023バイオマス燃焼CO2回答一覧(Excel表)
関連情報
<NGOコメント>3メガバンクの木質バイオマス発電に関するサステナビリティ方針を歓迎、しかし今後への課題も
参考資料
③IPCC、GHG Protocol、SBT、CDPにおけるバイオマス燃焼の位置づけ