モンゴルでの自然災害と人々の生活
自然災害“ゾド”
モンゴル国では冬から春にかけて、放牧地の不足や悪天候を中心とした複合的な要因により家畜が大量死する自然災害“ゾド”(Dzud; 寒雪害)が、たびたび発生します。ゾドはモンゴル国で最大の雇用を生み出している牧畜業に悪影響を与えます。1940年から2002年の間にも1945年、1968年、1977年、2000年、2001年、2002年、2010年に深刻なゾドが発生し、1945年には約808万頭、2001年には476万頭、1950年には396万頭の家畜が死亡しました。
2000年から2002年にかけて連続して発生したゾドでは、モンゴル国全土で約1100万頭(同国全体の約3割)の家畜が死亡し、損害は3億6900万US$(約440億円)にも達しました。
誰も置き去りにしないために
モンゴル国では1990年代の家畜の私有化と市場経済化及び経済のグローバル化(先進国のカシミヤ需要に応じたヤギの増加)により、家畜頭数が増え続けています。同国全体では、ゾドから数年で家畜頭数は回復し、増加しています。
しかし、個別の世帯を見るとその風景は異なります。モンゴル国ドンドゴビ県サインツァガーン郡で148世帯に行った調査では、2010年の春に発生したゾドから4年後の時点で、1/4程度の世帯が災害前よりも家畜頭数を大きく増やす一方、1/6程度の世帯は災害により家畜をほぼ失っていました。さらに全体で1/3程度の世帯は災害で家畜を失ったことで牧畜業から離れていました。
国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(2015年採択)では「誰も置き去りにしない(leaving no one left behind)」ことが謳われています。当フォーラムでは自然災害により、置き去りにされた人々はいるのか? いるとしたら誰なのか? どうしてなのか? を分析し、どのような政策が必要なのかを提言する研究を行っています。研究から、先進国のカシミヤ需要の増加を受けて、ゾドが発生すると死にやすいヤギに偏った家畜構成になっていた世帯は、災害により家畜のほとんどを失い、頭数が回復していないことが分かりました。私たち先進国の消費行動が、他の国の災害の影響の受けやすさを増幅し、回復から取り残される人々を生み出しているとも言えます。
このような問題を少しでも解決するために現地の人たちと話し合い、災害の影響を受けにくくし、回復を早めるために、災害時に家畜が生き延びるための鍵となる植物を、平時はとっておくための技術の普及を進めています(りそなアジア・オセアニア財団助成事業)。
研究成果
下線部分が当フォーラムのスタッフ
- Okayasu, T., Nakamura, H., and Takeuchi, K. (2008). Possible Countermeasures to Counter Desertification and Drought in a Desert-steppe Region of Mongolia. Journal of Environmental Information Science, 36(5), 141-150.
概要はこちら(環境情報科学センター Webサイト) - 中村洋 (2013). モンゴル国ドンドゴビ県で2009年~2010年に発生した自然災害と牧畜民の対処行動. 環境情報科学論文集, 27, 237-242.
本文はこちら(J-STAGE Webサイト) - 中村洋 (2015). モンゴル国における自然災害による家畜死亡要因の分析 : 同国ドンドゴビ県で2010年に発生した自然災害”ゾド”. 国際開発研究, 24(2), 67-79.
本文はこちら(国際開発学会 Webサイト) - Nakamura, H., Rinchindorj, D., and Delgerjargal, S., (2017). The Impact of a Disaster on Asset Dynamics in the Gobi Region of Mongolia: An Analysis of Livestock Changes. Journal of Development Studies(紙媒体での出版に先立ち、2017年1月よりWebで公開中).
概要はこちら(Journal of Development StudiesのWebサイト)
作成日:2016年06月13日 14時54分
更新日:2017年06月22日 17時23分