《第5回》食品産業のESGリスクと海外企業の取り組み

本記事では、NGOや投資家の共同によるESG評価で、高い評価を受けた食品関連企業の取り組みを紹介します。

  1. 「畜産動物のアニマル・ウェルフェアに関するビジネス・ベンチマーク」(BBFAW)
    最上位の4社は全て英国に本拠地を置く、小売、スーパーマーケット、サプライヤー。具体的な数値を伴う指標を設定し、達成・実施状況を報告している。
  2. 畜産動物に関する投資のリスクとリターン(FAIRR) 「たんぱく質生産者インデックス」
    養殖魚類を製造販売する企業が、その他の動物性たんぱく質の製造販売業者より高い評価。また、高評価を受けている企業の多くがヨーロッパの企業である。
  3. 高評価の企業の共通点は?
    高評価の企業に共通している点は、単にコミットメントや方針を掲げるだけでなく、モニタリングや進捗報告を行っていること。

前回の記事では食品や農業の分野に関わる以下の3つのESG評価格付を紹介しました。

日本企業はどれも低評価であったことは書きましたが、では、優良評価を受けたのはどんな企業だったのでしょうか?以下、評価制度の順に簡単に紹介していきます。

評価の高い企業は?~3つの評価から

畜産動物のアニマル・ウェルフェアに関するビジネス・ベンチマーク(Business Benchmark on Farm Animal Welfare ;BBFAW)

Mark Agnor / shutterstock

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まず、畜産動物のアニマル・ウェルフェアの取り組みを評価するBBFAWでは、上位の層に入った企業は上から順に Marks & Spencer、 Noble Foods、 Premier Foods, PLC.、 Waitrose となっています。Marks & Spencer と Waitrose はよく知られる英国の小売事業者で、後者はスーパーマーケット。Noble Foods は鶏卵を中心にした食品サプライヤー大手、Premier Foods, PLC. も食品メーカーです。4つの企業すべてが、英国に本拠地を置き英国市場を中心に事業を展開しています。

さまざまな食品を製造している Premier Foods, PLC. を例として見てみると、豚・牛・羊・鶏・七面鳥・採卵鶏・乳製品のそれぞれのカテゴリーで、いくつかのアニマル・ウェルフェア指標をどう達成したか、実施状況を報告しています(※4)例えば、食用豚であれば、妊娠ストールフリー(肉用の子豚を妊娠した母豚を拘束する檻を使用しないこと)が80%以上、輸送時間8時間以内が80%以上、などの報告をしています。

畜産動物に関する投資のリスクとリターン(Farm Animal Investment Risk and Return ;FAIRR) 「たんぱく質生産者インデックス」

次に、たんぱく質を扱う企業を対象に、アニマル・ウェルフェアの他、気候変動、水、生物多様性などに関する幅広いESGリスクを評価するFAIRR。その最新の報告書(2021年版)では、「ベスト・プラクティス」に挙げられる企業はなかった、としています。その次のレベルの、低リスク・中リスク層に入っている企業は以下です(一部)。

  • Mowi(水産養殖業 本社:ノルウェー)
  • Grieg Seafood(水産養殖業 本社:ノルウェー)
  • Lerøy Seafood(水産養殖業 本社:ノルウェー)
  • Maple Leaf Foods(食肉加工業 本社:カナダ)
  • Marfrig Global Foods(食肉加工業 本社:ブラジル)
  • Fonterra(酪農協同組合 本社:ニュージーランド)
  • Thai Union(水産加工業 本社:タイ)
  • Multi X(水産養殖業 本社:チリ)
  • BRF(食肉生産・加工・販売業 本社:ブラジル)

FAIRRでは全般に、養殖魚類を製造販売する企業が、その他の動物性たんぱく質の製造販売業者より高い評価を獲得したこと、特にサケの養殖において評価が高くなっていたことを報告しています。FAIRRにおいて評価対象となっている企業の約半分はアジアの企業ですが、上位の Mowi、Greig Seafood、Maple Leaf Foodsなど、高評価を受けている企業の多くがヨーロッパの企業となっています。

このうち、Maple Leaf Foods は養豚、養鶏、食肉の加工製造と販売を行うカナダの企業です(2020年では豚が66%(※5)。ブロイラー鶏、ブロイラー種鶏、市場向け豚、七面鳥ではすべて開放型の飼養を行っています(※6)。その他、輸送中のデジタルモニタリングシステムの活用、飼育動物の環境エンリッチメント(動物の福祉と健康を改善するために飼育環境に対して行われる工夫)、抗生物質使用量の削減(養豚については2014年比で96%削減)、成長ホルモン剤使用量の削減(牛・子牛以外の主な種でほぼ100%)などを実施しています。

Maple Leaf Foods ではさらに、アニマル・ウェルフェアを確実にするために、専門的動物監査証明組織(PAACO)の認定従業員が取り組み状況を定期的にモニタリングし、内部監査・第三者監査も実施しています(※7)

ワールド・ベンチマーク・アライアンス(World Benchmarking Alliance; WBA)「食品・農業ベンチマーク」

食品・農業のバリューチェーンを、環境・栄養・社会的影響の観点で評価するWBAで高評価を得ているのは Unilever(ユニリーバ)、 Nestlé(ネスレ)、 Danone(ダノン) の3社です。ユニリーバ と ネスレ はパーム油など他のサプライチェーンの取り組みでも高評価を得ています。

フランスの食品企業であるダノンは、BBFAWの評価でも 上から第2の層に入っています。2016年にアニマル・ウェルフェアについてのポジション・ペーパーを発表、アニマル・ウェルフェアの基本的考えである動物の「5つの自由」の考え(第6回記事で詳細を紹介予定)のもと、環境エンリッチメント、抗生物質やホルモン剤の減量、開放型飼育を目指す飼育方法など(達成率はそれほど高くない)、各カテゴリーにおける実施状況を報告しています。(※8)

今後求められるのは、現場へのインパクトの公開に向けたモニタリング

まとめると、まず、高評価なのはほぼ欧米の企業ですが、これはその他のESG課題とも共通しています。また高評価の企業に共通している点は、単にコミットメントや方針を掲げるだけでなく、モニタリングや進捗報告を行っていることです。

事業やサプライチェーンが社会や環境に及ぼす「インパクト」を把握し継続的に改善しているか否かは、近年ではESG課題全般で評価のウェイトが高くなってきています。例えば、熱帯林の森林減少リスクに関する企業の対応を評価している FOREST 500 では、モニタリングと実施のウェイトが半分となりました。つまり、デューデリジェンスのシステムを持つだけでなく、その実施状況と実際のインパクトも公開していること。これが今後、どのカテゴリーでも重要となります。

(参考)本記事で紹介した海外企業の各指標での評価

  • BBFAW・・・最上位上位(Tier 1)「先駆的取り組み」から最下位(Tier 6)「ビジネス上の課題としての認識なし」に分類
  • FAIRR・・・最上位の評価は、「ベストプラクティス」(ただし、該当企業無し)、それ以下は「低リスク」「中リスク」「高リスク」で評価
  • WBA・・・総合ランク(全350社中)/総合スコア(0-100)

※「N/A」は、企業がその指標で評価されていないことを示します。

企業名 BBFAW FAIRR WBA
Marks & Spencer Tier 1 N/A N/A
Noble Foods Tier 1 N/A< N/A
Premier Foods, PLC. Tier 1 N/A N/A
Waitrose Tier 1 N/A N/A
Mowi Tier 3 低リスク 57位/36.0点
Grieg Seafood N/A 低リスク N/A
Lerøy Seafood N/A 低リスク N/A
Maple Leaf Foods Tier 2 中リスク N/A
Marfrig Global Foods Tier 2 中リスク 134位/22.7点
Fonterra Tier 3 中リスク 8位/53.5点
Thai Union N/A 中リスク 55位/36.1点
Multi X N/A 中リスク N/A
BRF Tier 3 中リスク 112位/26.2点
Unilever Tier 2 N/A 1位/71.7点
Nestle Tier 3 N/A 2位/68.5点
Danone Tier 2 N/A 3位/63.6点

(※1)The Business Benchmark on Farm Animal Welfare Report 2021(https://www.bbfaw.com/media/2126/bbfaw-report-2021_final.pdf

(※2) Coller FAIRR Protein Producer Index(https://www.fairr.org/index/)

(※3)World Benchmarking Alliance, 2021 Food and Agriculture Benchmark Insights Report(March 2022)(https://assets.worldbenchmarkingalliance.org/app/uploads/2022/03/2021-Food-and-Agriculture-Benchmark-Insights-Report.pdf

(※4)https://www.premierfoods.co.uk/getattachment/Responsibility/Responsibility-Policies/Animal-Welfare-Specific-Species-2021-V1-(1).pdf.aspx?lang=en-GB

(※5)https://www.mapleleaffoods.com/wp-content/uploads/2021/07/MLF_ANIMAL_CARE_REPORT.pdf

(※6)https://www.mapleleaffoods.com/wp-content/uploads/2021/07/MLF_ANIMAL_CARE_REPORT.pdf

(※7)https://www.maff.go.jp/j/shokusan/fund/attach/pdf/esg_zinken_sagyoubukai-26.pdf

(※8)https://www.danone.com/content/dam/danone-corp/danone-com/about-us-impact/policies-and-commitments/en/2020/Danone-2020-animal-welfare-progress-report.pdf

作成日:2022年11月08日 11時00分
更新日:2022年11月16日 15時17分