セミナー: 連続セミナー「持続可能な社会のためのODAと公的融資」第1回-海外開発プロジェクト融資の「環境、社会、ガバナンス」強化に向けて- (2008年1月16日開催)

連続セミナー「持続可能な社会のためのODAと公的融資」第1回
-海外開発プロジェクト融資の「環境、社会、ガバナンス」強化に向けて-

開催報告


連続セミナー第2回:開催案内はこちら
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2008年1月16日(水)、FoE Japan、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、原子力資料情報室、市民外交センター、メコン・ウォッチ、地球・人間環境フォーラムの主催で、環境パートナーシップオフィス(東京都渋谷区)にて、連続セミナー「持続可能な社会のためのODAと公的融資」(第1回)が開催されました。
当日は、企業関係者(建設、金融、監査、商社、メーカー、コンサルタント含む)、研究機関、SRI専門家、報道関係者、関係省庁、国際金融機関の方を含む多方面からの参加がありました。今回のセミナーでは、国際協力銀行(JBIC)および国際協力機構(JICA)の環境社会配慮ガイドライン(以下、ガイドライン)の改訂プロセス開始に当たり、主催団体のNGOから、事例研究に基づいた現行ガイドラインの運用上の課題やJBICが行ったガイドラインの実施状況レビューの問題点などが報告されました。また、学識経験者やCSR有識者の方からそれぞれのお立場からのコメントをいただきました。さらに、参加者との議論を行いました。
 以下その概要を報告します。
[※プログラム&配布資料をすべてダウンロード(PDF、0.8MB)] [会場との質疑]

ODA・海外開発融資の環境社会配慮ガイドラインとは
(満田夏花/(財)地球・人間環境フォーラム)

セミナーでは、まず、地球・人間環境フォーラムの満田夏花が「ODA・海外開発融資の環境社会配慮ガイドラインとは」というテーマで報告を行いました。
80年代後半、世銀などの国際金融機関の融資事業に対する批判の高まりを背景に始まった環境社会配慮政策は、90年代には二国間融資機関にも広まり、2000年代からは民間の金融機関にまで拡大しました。
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事例研究:フィリピン・ミンダナオ石炭火力発電プロジェクト、 フィリピン・コーラルベイニッケル製錬所プロジェクト
(神崎尚美/国際環境NGO FoE Japan)

続いて、事例研究として、国際環境NGO FoE Japanの神崎尚美さんより、フィリピンのミンダナオ石炭火力発電プロジェクトおよびフィリピン・コーラルベイニッケル精錬所プロジェクトの環境社会影響と環境ガイドラインの関係について発表が行われました。 ミンダナオ石炭火力発電所は、フィリピン・ミンダナオ島ミサミス・オリエンタル州で、210MWの石炭火力発電所の建設を行うというものです。ガイドライン上、カテゴリAに分類され、ガイドラインの部分適用案件となっています。
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カンボジア国道1号線建設事業
(福田健治/メコン・ウォッチ事務局長)

メコン・ウォッチ事務局長の福田健治さんは、カンボジア国道1号線改修事業における住民移転問題を取り上げ、特に住民移転に関わるJICAのガイドラインの問題点を報告しました。 同事業はカンボジア首都のプノンペンとベトナム・ホーチミンを結ぶ国道1号線のうち、プノンペンからネアックルン(メコン河渡河地点)56kmの改修事業です。
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JBIC のガイドライン実施状況レビューについて~国際的な視点から
(田辺有輝/「環境・持続社会」研究センター(JACSES))

続いて、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)の田辺有輝さんが、JBICのガイドライン実施状況レビューについて発表を行いました。 現行ガイドラインの見直し規定としては、実施状況についての確認を行う、施行(03年10月)5年以内に包括的な検討を行う、その結果、必要に応じて改訂を行うということになっています。
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JBIC ガイドライン改訂に向けたNGO 共同提言
(清水規子/国際環境NGO FoE Japan)

FoE Japanの清水規子さんは、「JBICガイドライン改訂に向けたNGO共同提言」について報告を行いました。 同提言は、現在のJBICのガイドライン策定にも関わり、ガイドラインの運用をモニタリングしてきたNGOがその経験をガイドラインの改訂に生かすために、2007年11月26日、共同でJBICに提出したものです。
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海外原子力発電支援をどう考えるか
(西尾漠/原子力資料情報室共同代表)

原子力資料情報室共同代表の西尾漠さんからは、現在、温暖化対策として原子力発電が推進されている背景、また、JBICとしても原子力発電関連プロジェクトへの関与の事例があることなどの理由から、新ガイドラインに原子力発電関連プロジェクトに関する規定を盛り込むことの重要性が指摘されました。

ODAと公的融資~学識経験者からの視点
(村山武彦/早稲田大学教授)

早稲田大学の村山教授からは、現在JICA環境社会配慮審査会委員長の立場から、現在のJICAにおける環境社会配慮ガイドラインの運用の仕組み、とりわけ環境社会配慮審査会の役割と機能、ガイドラインの実施状況及びその効果や今後の課題についてコメントをいただきました。

CSR 有識者からのコメント
(足立直樹/株式会社レスポンスアビリティ代表取締役、 (財)地球・人間環境フォーラム客員研究員)

また、(株)レスポンスアビリティの足立直樹代表取締役からは、社会が持続可 能であるために求められる企業の行動原則としての現在のCSRについて、その原 点がセリーズ原則(旧バルディーズ原則)に求められるであろうことがまず指摘 されました。そしてその原則の中に謳われた、情報開示、トップのコミットメン ト、ステークホルダーからのフィードバックなどの概念が、企業が社会から信頼 される存在になることを可能にしてきたことから、より公益性が求められる海外 での開発プロジェクトについては、このような精神と原則を生かすべきではない かと示唆されました。また、いくつかの国の援助機関は、CSRを推進することで 間接的に被援助国の社会環境を向上させる活動を開始しており、日本の海外援助 プロジェクトにおいても、このようなアプローチをもっと取り入れるべきではな いかとのコメントをいただきました。
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会場との質疑

会場から:日本のODAはかつて悪名が高いものであった。話しをきく限り、ガイドラインができても現在の状況は改善されていないように思う。

答え:ガイドラインの策定・実施によって、状況はずっと改善されているはずである。今回はNGOの視点から問題点を中心に紹介したため、ネガティブな印象を与えてしまったかもしれない。ガイドラインにより、住民の懸念に対してJBICなどから少なくとも回答が来るようになった、環境影響評価(EIA)などがJBICが公開したものが日本のNGO経由で現地に届けられるようになったなどの明らかな効果がNGOからも指摘されている。

会場から:赤道原則とは何か。

答え:赤道原則は商業銀行が融資を行う際の環境社会配慮上の自主的な基準であり、2003年に策定された。事業融資に当たっての環境社会影響評価(以下EIA)の実施と公開、住民協議などを定めたものである。

会場から:JICA/JBICなどの公的機関と、民間企業を比較した場合、どちらが環境社会配慮が進んでいるのか。

答え:それを評価することは難しい。民間企業の中でもさまざまである。JICA/JBICなどのガイドラインはある程度の拘束力をもつが、民間企業が掲げるCSR方針などは自主的なものである。そうした違いはある。

会場から:原子力発電施設の輸出に関して、第三者機関を設置するということがNGOの共同提言の中に盛り込まれている。JICAの審査会の経験から、これは有効だと思うか。

答え:審査会により議論の透明性などは高まっており、さまざまなよい効果があがっているが、審査会委員を選ぶのはあくまでJICAである。よいガイドラインをつくっても運用次第で効果をあげたり、あげなかったりすることには注意が必要である。

会場から:事業設計の段階で、環境社会配慮上の最適な解を見つけ出すような手法はないのか。

答え:JICA/JBICのガイドライン上も代替案の検討が規定されて、それが実施されている。

会場から:情報公開や協議は、いろいろと難しいこともあると思う。例えば、識字率が低いコミュニティなどにおいては、どのようなことを配慮するのか。

答え:相手のコミュニティの性格に応じ、文字情報のみに頼らず、複数の手法を組み合わせた情報公開・協議を行うことが妥当だと思われる。

会場から:世界ダム委員会の提言やガイドラインは現在どうなっているのか。

答え:世界ダム委員会は大型ダム建設に対する国際的な批判の声にこたえて1998年に設立された組織で、多くのケース・スタディをもとに提言やガイドラインが出された。正直言って、あのころの熱気ある議論はなく、その提言・ガイドラインも出された直後ほどのインパクトは失っているように思う。 しかしながら、ECA(輸出信用機関)のグループでは、ダム事業における優遇措置を行う場合は、世界ダム委員会の提言を尊重するというような取り決めも行っている。

会場から:日本のODAの特質は何か。

答え:まだまだ大規模インフラへの援助が多いように思う。

会場から:本日のセミナーは興味深い内容だったと思う。しかし、NGOからの批判や提言で終わってしまったことが物足らない。当事者であるJBICの話しも聞きたかった。主催者側はこの点はどのように認識しているか。

答え:貴重なご意見であると思う。JBICの方々にはお話しいただけないかどうか打診したのだが、日程が合わず実現しなかった。ご指摘を踏まえ、今後とも努力していきたい。

※セミナー後のご意見・ご質問
質問:金融機関の取り組みとしてガイドラインの内容を満たしていない実態、あるいはガイドラインの不十分さというのもあるのですが、たとえばフィリピンの火力発電にしても、ニッケルプラントにしても大手日本企業が中心になっている事業会社が直接事業を手がけているわけで、そちらへの直接的な働きかけというのはどうなっているのでしょうか。

答え:JBICは公的機関であり、環境社会配慮ガイドラインもあるので、ある程度それをテコに情報開示を要請できるが、民間企業は、なかなかそうもいかないことがある。もちろん、会って話もきいてくれるが、さらなる働きかけが難しい。 本来であれば、現地の住民と企業の現地法人との対話をするように、本社に促すべきであると認識している。ただ、NGOもキャパシティが非常に小さいので限界がある。もっと重要なのは、公的融資を止めたところで、大きい企業は、自分たちの資金で事業を実施していくだけの体力が十分あるので、公的サポートを止めたということでは意味があるが、現地での問題は解決しないこともある。

質問:援助資金に含まれる項目の範囲なのですが「環境アセス」の費用、及び「非自発的住民移転に伴う補償金」の費用は含まれているのか。それとも現地政府の国内予算から支出されることになっているのか。また、入ってない場合、これらの費用を援助資金に含めるべきであるという議論は国内的にはなされているのか。

答え:JICAの開発調査やJBICのSAPROF(案件形成促進調査)などで、環境アセスメントの作成支援を行う事例も多い。また、円借款本体で環境管理計画をコンサルタント雇用費用の中に含めることもある。しかし、補償金については、知っている限りではこのような協力や円借款の対象とはならない(正確には直接、JBICまたはJICAにきいて頂いた方が安全)。ただし、移転地のインフラ整備を円借款の対象とするような事例はあるようだ。

日 時 2008 年1 月16 日(水)13:30~17:00
場 所 環境パートナーシップオフィス
(住所:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-53-67 コスモス青山B2F)
主 催 「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、原子力資料情報室、国際環境NGO FoE Japan、 市民外交センター、メコン・ウォッチ、(財)地球・人間環境フォーラム
協 力 協力:日本国際ボランティアセンター(JVC)、サステナビリティ日本フォーラム、サステナビリティ・コミュ ニケーション・ネットワーク(NSC)、社会的責任投資フォーラム(SIF-J)、日本環境ジャーナリストの会、ODA 改革ネットワーク

作成日:2016年11月16日 11時19分
更新日:2017年02月16日 22時54分