セミナー報告(2021年12月15日開催)「石炭より悪い?! 木質バイオマス発電は2050年カーボンニュートラルに貢献するか」
2022年02月24日お知らせ
バイオマスのGHG排出研究の第一人者、サーチンジャー博士を迎えて
再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が始まって9年、消費者の賦課金に支えられ、木質バイオマス発電量は年々増えています。中でも輸入木質ペレットは、2015年から2020年までの間に23万トンから200万トン以上と急増し、今後はさらに年間数百万トン規模の増加が見込まれています。
植物は成長過程でCO2を吸収し伐採しても時間をかければ再生するという考えから、木質バイオマスは燃焼の際のCO2はカウントしなくてよいとされてきました。一方で、実際は、木材を燃やせばCO2が排出されます。木材燃焼の炭素排出係数(29.6 t-C/TJ)であり、石炭(24.3t-C/TJ)よりも多いことが国立環境研究所の報告[i]等からわかっています。
木質バイオマスをカーボンニュートラルとし、発電のために燃やすことは、実際にはCO2濃度を押し上げる結果にならないでしょうか。また今後、バイオマス発電が気候変動対策とは見なされなくなるなどの移行リスクや、バイオマス発電所の座礁資産化というリスクはないのでしょうか。
そこで、昨年12月15日、森林や気候問題にかかわるNGOが協力し、バイオマスのGHG排出研究の第一人者であるティモシー・D・サーチンジャー博士(プリンストン大学上席研究員)をメインスピーカーに迎えて緊急セミナーを開催しました。当日のプログラム、サーチンジャー氏の略歴は、こちらのページをご覧ください。
(各登壇者の発表時間は、サーチンジャー 博士 4:40~、環境副大臣・務台 俊介 氏 39:10~、泊 みゆき 氏 44:18~、 三枝 信子 氏 1:01:50~ です。)
※本セミナーの講演内容をもとに、情報誌グローバルネット 2022年3月号にて「気候危機を悪化させるバイオマス発電~1.5℃目標との整合性を問う~」と題した特集を掲載しております。こちらもあわせてご覧ください。
ここでは、登壇者の主要なメッセージをご報告します。
「木質バイオマスの温室効果ガス(GHG)排出量は化石燃料より多い」
サーチンジャー 博士:本セミナーで私が言おうとしていることは、私一人の意見ではありません。2018年には、800名の著名な科学者が欧州議会に対して、エネルギー利用のための森林伐採と燃焼への補助金を停止するように訴えました(※1)。
2021年2月には、500名の科学者がアメリカのバイデン大統領や日本の菅首相(当時)に対して同様の意見を表明しています(※2)。
多くの研究によって、樹木を伐採し燃やすことで、森林の種類、伐採の方法に関わりなく、数十年から数世紀のスパンで温室効果ガス(GHG)排出量が増加することが明らかになっています。
木を切ると、少なくとも30% が根などの収穫残材として残り、分解されます。木を木質ペレットに加工する段階でも、樹皮剥ぎ、乾燥、ペレット化、輸送の過程で、15-35%の炭素が失われます。木を発電所で燃焼すると、kwh(キロワット/時)あたりに排出されるCO2は化石燃料の1.5-3倍に及びます。
この3つの段階を合わせると、およそ2.5-3.5倍、化石燃料よりも排出量が多くなります。
まさに「森林を伐採する」という行為によって、炭素負債(Carbon debt)が発生するのです。持続可能な森林の管理は、炭素負債の返済を数十年から数百年後に可能にするだけです。その間、大気中のCO2濃度は上昇し、温暖化は加速してしまいます。気候変動を手遅れになる前に食い止めるには、今の私たちにこのような事態を受け入れる余裕はありません。再生可能性とカーボンフリーは同じではないのです。
「輸入に頼って木質バイオマスを推進してはいけない」
(環境副大臣、木質バイオマス・竹資源活用議員連盟事務局長)務台 俊介 氏:日本には世界有数の森林資源があるにもかかわらず、なかなか利用されずに輸入に頼ってきました。もっと国内の森林資源をしっかり活用し、余った木材を燃焼し熱利用する「カスケード利用」によって、エネルギーを効率的に利用する。このような考えで、議論をしてきました。
私どもの議連内で懸念しているのは、「FIT制度があるから」また「カーボンニュートラルだから」と言って、輸入木材を燃料に使っていることです。輸入に際しては、船で運ぶことでCO2が出ます。「カーボンニュートラル」という言葉自体、非常にあいまいです。サーチンジャーさんがお話されたような問題点、ライフサイクル・アセスメントの考え方をしっかり踏まえて、「何が正しい再生可能エネルギーの材料・燃料なのか」、エネルギーミックスをどうするか、木質バイオマスの位置づけをどうするか、考えていかないといけません。少なくとも、輸入に頼って木質バイオマスを推進することは良くない、と確信しています。
我々の議連では、「国内でお金を循環させること」と「再エネの振興」、両者を結び付けることが重要だという観点で議論をしております。政府の政策に、政治の力を活かしていきたいと思っております。
「輸入バイオマスはFIT法の目的に合致しない」
(NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長)泊 みゆき 氏:2012年に始まった再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の目的は、環境負荷の低減、我が国の国際競争力の強化・産業の振興、地域の活性化となっています。しかし、今の木質バイオマスについて認定された発電所の発電量を見ると、認定容量の9割が主に輸入バイオマスを燃料とする一般木質バイオマスになっています。
輸入バイオマスは、エネルギー自給にならず、地域への恩恵が限られ、ライフサイクル温室効果ガス排出が高い傾向にあります。FIT法のそもそもの目的に合致していません。FIT制度の輸入バイオマス発電のために、今後20年間で8兆円を越える国民負担が、温暖化対策にもならず、ほとんど国外に流れるということになります。
経済産業省の持続可能性ワーキンググループの資料で、さまざまな種類のバイオマス燃料のライフサイクル温室効果ガス排出量を試算したものがあります。パーム油など天然ガスなどよりも多くのGHGを排出することが明らかになっています。そのような燃料をなぜFIT制度で支えないといけないのでしょうか。
「森林によるCO2吸収の維持は、カーボンニュートラルの達成に欠かせない」
(国立環境研究所地球システム領域領域長)三枝 信子 氏:カーボンニュートラルを目指すうえで、世界の森林による自然吸収の維持が重要になってきます。
人為起源のCO2排出量のうち3割近くを森林が吸収しています。この森林を減らしてはいけません。気候変動対策としては、森林によるCO2吸収が大事であるので、森林バイオマスを維持し拡大していくことが必要です。
サーチンジャー 博士:認定するのかしないのか、いかに森林をうまく管理するのか、ある地域の森林が全体として増えているのか、といったことはあまり本質的ではありません。
重要なのは、木材の燃焼によるGHG排出を考慮するのか、伐採による炭素蓄積量の減少を考慮するのか、ということです。それをしなければ、大量の木材を燃やし続けることを正当化し、長期にわたるGHG排出量の増加を招きます。その間にも、気候変動の被害は増大し、伐採した森林を再生したとしても取り返しが付かないほどに悪化することになります。
森林を保全し、そこに炭素をとどめるということが大切なのです。
※1 “Letter From Scientists to The EU Parliament Regarding Forest Biomass” (https://www.pfpi.net/wp-content/uploads/2018/04/UPDATE-800-signatures_Scientist-Letter-on-EU-Forest-Biomass.pdf )
※2 “Letter Regarding Use of Forests for Bioenergy”(https://www.woodwellclimate.org/letter-regarding-use-of-forests-for-bioenergy/ )