1.科学技術委員会類似活動を行っている機関やネットワーク(ICCD/COP(3)/CST/4, ICCD/COP(3)/CST/5)
他の機関等の活動についても(ICCD/COP(3)/CST/5)、既存のネットワークについての調査についても(ICCD/COP(3)/CST/4)、多くの情報を集め、かつ、課題等についてよくまとめています。
これらから明らかなのは、既に多数の機関・団体が多様な活動を行っており、新たな活動を作り上げることは必ずしも適当ではなく、既存の活動をいかに効率化していくかという視点だと思います。
但し、既存の機関・団体の活動についての調査結果(ICCD/COP(3)/CST/5)からは、国内の機関・団体に関する情報及びNGOに関する情報の相当部分が欠落しています。このことから二つのことに気づかされます。
一つは、国内にしっかりした機関を持っているのは、石油等からある程度収入のある国々が中心であって、貧しいアフリカの国々、特に問題が最も深刻なサヘルの国々では、そのような機関が脆弱であることです。但し、CILSSなどの地域機関によりそれを補おうとしている側面も見られます。
もうひとつ、委員会の10年度報告書p.95でも指摘しておいたように、沙漠化問題に関わっている団体の多くは「沙漠化対策」を主体に活動している団体ではなく、開発、女性、人権、農業、研究等の、沙漠化問題に関わる様々な分野で活動している団体であるので、非常に多くの団体が関わっていることになり、情報収集は容易ではないのですが、本件条約或いはGEFに関連して国別に沙漠化関係NGOの協議機関ができたりしているのを利用して、もう少し情報を収集し、整理することが行われるべきかと考えます。そうすることにより、沙漠化問題がどのようにして社会・経済に深く関わっているかが見えてくるし、また、対策の包括性・多様性の必要性が明確になるはずだからです。
2.伝統的技術(ICCD/COP(3)/CST/2、ICCDICCD/COP(3)/CST/2、 /COP(3)/CST/3、 ICCD/COP(3)/CST/3/Add.1、 ICCD/COP(3)/CST/3/Add.2)
定義の問題から、他の条約・機関の関連活動や課題やリスクまで、情報をよく集め、かつよく整理しています。また、<技術がいかに現地の人々の利益をはかるかを明確にすること>の重要性の指摘や、<条約のとどのつまりの正否は、沙漠化の影響を受けている現地の条件の改善にある>との指摘(ICCD/COP(3)/CST/3/Add.1パラ110)、<究極の成果が現れるべき場は現地である>(同パラ102)、また、<伝統技術に係る活動も、技術自体が目的なのではなく、貧困の緩和と持続可能な開発を通じて環境の悪化に対処するという根本的課題>(ICCD/COP(3)/CST/3パラ8(b))を常に意識すべきとの指摘も非常に重要だと思います。技術委員会ではなく本会議用の文書ICCD/COP(3)/5/Add.2(Report of Affected AfricanParties)パラ93で、「アフリカにおいて、貧困は、土地劣化及び沙漠化の原因であるとともに結果である。」として、条約実施のindicators and benchmarksの開発に当たってもこの点を十分に考慮する必要があるとして記している点もこれらに通じるものがあります。
伝統的技術に関するいくつかの文書に盛られている提言については、いずれも重要なものですが、提案されている個々の活動、行動の主体に関しては、必ずしも適切でないものがあるかと思います。
ICCD/COP(3)/CST/3/Add.1パラ108他、随所に指摘または示唆されているとおり、既に関連活動を積極的に行っている機関が存在するのですから(ICCD/COP(3)/CST/3/Add.2パラ51及びICCD/COP(3)/CST/3/Add.1で紹介されている生物多様性条約、UNEP、ラムサール条約等の動き)、それらの活動の強化がまず考えられるべきであり、条約事務局や締約国会議の下部機構が新たに活動に乗り出すことについては慎重であるべきです。既存の機関等の活動の強化は、「to promote actions leading to the mobilization and channelling of substantial financial resources, including for the transfer of technology, on a grant basis, and/or on concessional or other terms, to affected developing country Parties」(第21条第4項)というGlobal Mechanismの機能として想定されるものであるので、「authority and guidance of the Conference of the Parties」の下に動くべきとされるGMを締約国会議が誘導することにより実現するのが適当と思います。
例えば、ICCD/COP(3)/CST/3パラ26(a)で提案されているデータベース作り等は既存の国際機関等の活動の中に組み込める可能性が大きく、コミュニティーと援助機関との対話のメカニズムも既存の援助機構等(二国間援助機関、世銀、UNDP等とともに、DACやサヘルクラブを含む。)が行うことが妥当であるように思えます。また、研究についても、国内機関やCILSSのようなsubregional機関に適した活動かと思います。更に、農民の先進地視察研修等(ICCD/COP(3)/CST/3パラ26(a)に加え、ICCD/COP(3)/CST/3/Add.1パラ108)も、具体的な援助プロジェクトや各国内部の取り組みにより実現すべきものかと思います。
他方、条約の規定による締約国会議の活動と直接関わるような活動や事務局の機能そのものと言える活動、例えば、国家行動プログラムの中に伝統的知見・現代的知見がどのように盛り込まれているかについてのチェック(ICCD/COP(3)/CST/3パラ26(b)(i))、関係条約・国際機関事務局間の密接な協同(ICCD/COP(3)/CST/3/Add.1パラ106及びパラ108最終文)などは、締約国会議の指示により条約事務局が行うのが妥当と思います。
なお、伝統的技術の現状や課題の整理が終わった後は、「伝統的技術」と「近代的技術」を二分法で分けて扱っていくのは適当ではないだろうと思います。その時のアプローチとして、唯一のアプローチではない可能性があり、よく検討する必要があると思いますが、「actor-oritented approach」(ICCD/COP(3)/CST/3/Add.2)は、一つのアプローチとして考慮には値するかと思います。
3.アフリカ各国からの報告(ICCD/COP(3)/5/Add.2)
内容に精粗の差があるものの、多数の国が報告書を提出し、その結果、「既に実施した」ものは少なく「実施予定」が多いものの、条約により、主権にかかわるような内部的なことを含めて、各国の取り組みが促されたことが明らかになったことは、条約の成果として評価できます。他の「行動計画」類や国家開発計画と沙漠化条約の下の行動計画との関係を含め、各国内部の取り組みの実態の一端が明らかになったこと自体及び条約事務局の文書自体(ICCD/COP(3)/5/Add.2)も、課題等をよく整理していることが評価できます。(但し、パラ88で、benchmarks and indicatorsに関して途上国への支援が必要であるとしている部分で、そのような支援の必要な理由が示されていないのは説得力がありません。また、パラ91で、締約国はローカルレベルの委員会等を作るべきであるとしている点も、トップダウンの手法であり、適切な方法ではないように思います。)
国別・地域別の取り組みの違いが明らかになり、やはり、サヘル地域諸国の取り組みが最も積極的であり、南部アフリカ地域がこれに続いていることも、問題の深刻さや1970年ごろからの意識の違いから推測されるところと一致することが明らかになりました。また、UNEPやUNDPが国家計画の作成等で役割を果たしていることも明らかになりました。
課題について明確に記述している国は多くありませんが、一部の国の記述等から、コミュニティーレベルと国レベルの意思疎通の不足、ジェンダーの問題への取り組みの遅れ、沙漠化問題や沙漠化条約についての二国間援助機関の認識の遅れ等が課題として浮かび上がってきます。
その活動の開始自体の遅れが大きく影響していることとは思いますが、その設立や機能についてマルチの場でこれだけ対立してきたGlobal Mechanismにへの各国の態度或いは対応の情報が無いのも気にかかるところです。GMについて途上国政府が過大な期待を持つことは避けるべきですが、しかし、態度が不明では、先進国側としても対応の検討が具体化しません。
事務局文書には指摘されていませんが、「national desertification fund」がどのように使われようとしているかの情報がなく、これは気掛かりなところです。これでは、そのような基金が有効な手段かどうかの判断ができません。追加的に情報収集する必要があるでしょう。
条約により開発援助が義務と理解されてしまうのは好ましくありませんが、開発協力が沙漠化問題の解決に関わることは事実です。そのため、アフリカ各国からの報告書で浮かび上がってきた二国間援助機関の認識の遅れについては、条約担当機関から援助担当機関への情報提供等、我が国を含む先進国として対策を講じる必要があります。なお、この点で、1994年3月のJICA報告書「沙漠化対策援助研究」の先進性は改めて、国際的にも評価されるべきであり、日本政府として、各国に対して、好例として紹介すべきと考えます。
また、各国に事務所を持っていること、相当数の国の沙漠化対処のために技術協力の資金を提供してきた経験があること(パラ60-61。また、ICCD/COP(3)/5/Add.3パラ8-10)、国別の援助の状況の取りまとめを行っていること、しかも、沙漠化問題は多様な援助課題と関わっていることから、UNDPの各国事務所は、各国の沙漠化条約対応において一定の役割を果たすものとして位置づけられると考えます。
4.他の条約、国際機関等(ICCD/COP(3)/5/Add.3、ICCD/COP(3)/9/Add.1)
情報を的確に整理することにより、多数の国際機関が沙漠化問題に相当程度関わる活動を行っていることが明らかにされました。但し、上記1第3パラの指摘と同じく、ここでも、NGOについての情報が不十分です。この点については、もう少し努力する必要があり、我が国も、海外環境協力センターや地球・人間環境フォーラムなどがこれまで整理してきた情報を活用して、情報を提出するなど、事務局の作業に協力すべきと思います。
上記1の場合と同じくここでも明らかなのは、既に多数の機関・団体が多様な活動を行っており、新たな活動を作り上げることは必ずしも適当ではなく、既存の活動をいかに効率化していくかという視点だと思います。
GEFに関しては、一連の作業を通じて土地劣化・沙漠化問題に係るポリシーから具体的指針までの作業が完了しているので、ICCD/COP(3)/9/Add.1パラ18、21などに指摘されているように、今後はいかに具体的プロジェクトを形成し、実施していくかが課題です。この点に関し、条約事務局またはGMが協力できることがあるはずであり、事務局及びGMの役割等について具体的に検討し、実行していく必要があります。
これに関連して、パラ31には、国別にプロジェクト形成ワークショップを行うことも提言されています。しかし、GEFは、沙漠化関係プロジェクトに協力し得る多数の機構の一つに過ぎないので、沙漠化問題に対する二国間援助機関の認識の遅れへの対応策等とも関係させて対応を図っていくべきことと思います。
また、ICCD/COP(3)/9/Add.1パラ25に、地域付属書に対応したregional coordination unitsの各地域への設置の開始が紹介されていますが、沙漠化問題にさらされている現場の問題の深刻さ及び緊急性からして、リソースはできるだけ現地に役立つ形で使用する必要があると考えます。このことから、地域プログラムに関係して割り振るリソースの優先度は低いと考えます。そのため、regional coordination units設置の妥当性については、条約事務局本部の地域担当官の任務との関係、業務の内容(具体的なterms of reference)等について慎重に検討する必要があると思います。
5.事務局の活動(ICCD/COP(3)/6、ICCD/COP(3)/5/Add.4)
地域ワークショップ等を行い、国別報告書の効率的作成等のために、条約事務局があげてきた成果については評価ができます。しかしながら、他の機関ができる活動・支援が事務局の活動として拡大していくことについては、条文を過度に制限的に解釈しないように注意しつつも、締約国会議は常にチェックする必要があります。
条文に明示されていない活動でも、一般に「締約国会議が指示するその他の活動」として様々な活動を事務局が行い得ると考えられがちですが、この条約第23条第2項(g)は、条約に明示されていない活動で締約国会議の決定により事務局が行い得る活動については、「to perform such other secretariat functions as may be determined by the Conference of the Parties.」と、「事務局機能」に限定しています。締約国会議は、事務局に対する指示において、この制限を超えないように常に注意する必要があります。
この関連で、今回提出された事務局の活動計画案(ICCD/COP(3)/6)は、その文書を作成した根拠が冒頭に説明されている他の文書と異なり、その記述の根拠条文や締約国会議決議が示されていない点に注意を要します。内容を具体的に見ていっても同様です。例えば、パラ13の事務局の活動の主要要素の多くは、事務局が行う活動としての条文の規定の根拠(「締約国会議」が行う活動であれば別です。)を見いだし難いように思います。なお、条文から事務局の活動を規定した部分を拾い出したもものを添付します。
6.我が国、先進国等の対応(ICCD/COP(3)/5、ICCD/COP(3)/5/Add.1、日本国報告書)
多くのアフリカ諸国が国別報告書を提出したのとは対照的に、先進国の報告書の提出は大幅に遅れており、期限内に提出したのは1カ国のみ(スウェーデン)、その後の事務局による取りまとめに間に合ったのが5か国(加、英、フィンランド、独、西)、原報告書の言語のままで間に合ったのが5カ国(仏、伊、日、蘭、スイス)という状況では、先進各国の取り組み内容の評価は困難です。しかしながら、この提出の遅れ自体が、取りまとめに大変な手間と時間がかかるほどの「沙漠化」問題の範囲の幅広さとともに、先進各国のこの課題への取り組みの消極性ないしは遅れをも示しているように感じられます。
我が国の報告書によく現れているように、各先進国とも、沙漠化に関係する援助は多数実施していると考えられますが、沙漠化問題への対処の戦略を持つ国は極めて限られていると考えられます。何らかの形で事務局文書で紹介されている11カ国は、先進国の中では比較的前向きな国と考えられますが、それでも、明確に戦略を示しているのはスウェーデンのみです。続いて、オランダが、条約実施に消極的な国は条約実施を促し、また、条約実施の改善のために各層の参加を奨励しているとしてある程度明確な方針のあることを示し、また、フランスが、Comite Scientifique Francais sur la Desertificationを設置していること、他の二国間、多国間の援助機関との調整を行っていること、「Environnement Mondial et Lutte contre la Desertification en Afrique Sahelienne」との地域イニシアティブを紹介することにより、ある程度明確な戦略を示しています。更に、ドイツが、現在実施中のプロジェクトが120もあること、アフリカの締約国の国家行動計画策定の支援のための基金を設置していること、各国の沙漠化関係支援フォーラム等への参加等の紹介により、多少の戦略性のあることを示唆しています。しかし、その他の国は、戦略や方針を示していません。
沙漠化問題は、貧困やbasic human needs対策を含む多数の側面から取り組む必要があり、多様な援助プロジェクトによって、実態においては各先進国によってかなり取り組まれていることは事実ですが、それらの事業を沙漠化問題への対処という観点から整理し、そこから課題を特定して戦略を明確にしていくことによって援助の効率化も図られるので、先進各国の取り組みの全容を明らかにし、我が国を含む各先進国の戦略の明確化を図ることは必要だろうと思います。なお、これに関連して、上記3で既に述べたとおり、1994年3月のJICA報告書「沙漠化対策援助研究」の先進性は改めて指摘されるべきです。
7.その他
(1)地域行動付属書
図(pdf)のとおり、太平洋地域の締約国が、締結資格国の9割近くにまで急上昇しました。太平洋地域は、問題を取り巻く諸条件がアジアとも違い、また、アジア地域付属書でもカバーされていないので、もちろん、太平洋諸国の意思次第ですが、太平洋地域付属書の議論が出る状況になったと思います。小島嶼国における沙漠化問題とは何か、どう対応すべきかなど、我が国としても考えておいたほうがいいかと思います。→地域附属書
(2)草の根レベルのNGOの締約国会議への参加
草の根レベルの活動を行うNGOは、非常に重要な役割を果たし、また、非常に貴重な経験を持っています。ところが、そのようなNGOの多くには、多国間の活動に参加する資金的余裕がありません。
我が国も草の根レベルの支援活動を熱心に行い、ある程度の成果をあげているNGOがありますが、いずれも、多国間の活動に参加する資金的余裕がありません。しかし、他方、そのような我が国の団体の活動が成果をあげていることを多国間の場で知られることは、我が国にとって大変意義深いことですし、また、他国の団体や政府に対して示唆を与える面もあります。
他の地域がテーマになる次回やそれ以降の締約国会議や他の条約の締約国会議とのバランス等との関係で可能であれば、このような点に鑑み、アフリカの草の根レベルで活動している我が国のNGOの代表を日本政府代表団のメンバーに入れることも検討に値するかと思います。