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温暖化防止で日本は変わるか

〜パネルディスカッション「京都議定書と私たちの挑戦より」

コーディネーター:天野明弘氏(関西学院大学総合政策学部長) 

パネリスト(五十音順):

浅岡美恵氏(気候ネットワーク代表)

中上英俊氏(鰹Z環境計画研究所所長) 

原沢英夫氏(国立環境研究所社会環境システム部環境計画研究室長)

柳下正治氏(環境庁企画調整局地球環境部企画課長)

 天野 温暖化防止へ向けて京都会議で私たちは一歩を踏み出しました。この会議の成果は何だったのか、京都議定書をどう評価するのか、まずここからお話をしていただきます。  

●京都会議の成果
 〜数値目標を達成できるか

中上 私は暮らしとエネルギーについて研究をしているものですが、京都議定書の数値目標、これはきわめて厳しいものだと言わざるをえません。あと10年でこの数値を達成するのには真剣な取り組みが必要です。  6%の削減率は、石油で考えると5,600万klの消費量の削減となります。オイルショックのときの消費量の減少は3千数百万klでした。このときは価格が高騰した結果、省エネ行動に結びついたのです。  しかし、石油の価格は低下傾向です。1970年当時の所得水準比の石油価格からくらべれば、現在の石油価格は非常にやすい(2.5分の1乃至3分の1)。この価格で消費を下げるのは非常に難しい。場合によっては、規制的な措置さえ必要になるかもしれません。  日本は先進国では唯一、エネルギーの消費水準が伸び続けているのですが、これが必ずしも「豊かさ」とは結びついていないのです。エネルギーの使い方が下手だともいえます。 浅岡 私は京都会議は国際社会が日本の市民に贈った贈り物だと思っています。これによって、私たち市民が真剣に地球環境問題について考え、行動するようになってきたのです。NGOも成長し、ネットワークが生まれました。私たち「気候フォーラム」は、気候変動に取り組むさまざまな団体のネットワークとして結成され、最終的には200を超える団体の参加を得ることができました。しかし当初どうやったらよいのか、経験も財政的な裏付けもなく手探りで活動をすすめて行きました。幸いにして、京都会議までには、世界のNGOとの連携も生まれ、それなりの発言力も得られました。うれしかったのは、科学者の方々からも私たちが発信している情報が「正確だ」とほめていただけたことです。  私たちは京都会議で、日本の市民の活動の可能性を見いだしました。これからは市民の声が活かされる社会システムをつくっていくことが重要です。 原沢 科学的に見ると問題もありました。濃度の安定化という見地が欠落していたことなどです。私はライフスタイルの見直しや技術革新によって、6%の削減は充分可能だと思っています。しかし排出量取引や吸収源については、いささか議論不足の感を否めません。また、今後は自主的な取り組みはもちろん大事ですが、規制や経済的な措置、例えば「炭素税」について真剣になって議論する時にきているのではないでしょうか。  

●本当に「便利」か〜賢くエネルギーを使うとは

天野 炭素税や排出権取引といった経済的な措置については、日本ではなかなか議論されてこなかったのですが、昨年6月に米国が議定書案を出した中には盛り込まれていました。これから議論を深めていく必要があります。 中上 図はエネルギー使用量と利便性、快適性の関係を示したものです。ある程度までのエネルギー使用は生存していく上で不可欠です。それ以降は、比例的な関係ですが、ある程度以上では、もういくらエネルギーを使っても、利便性・快適性は向上しません。これ以上のエネルギー消費は、ムダであり、削減することができます。第一の省エネです。  また、同じ快適性・利便性を得るとしても、AはBと比べて少ないエネルギー使用量ですみます。第二の省エネです。  最初の省エネのよい例が「待機電力」なのではないでしょうか。表はある過程での待機電力を拾っていったものです。合計するとなんと73.6Wもの電力が24時間つけっぱなしになっているのです。これがこの家庭では電気の1〜2割をくっていました。  日本中の家庭で、待機電力を追放し、使用していない電気機器のコンセントを抜いてしまえば、これで発電所3〜4基分になるのです。  「効率」という観点からは、例えば車の燃費の向上や住宅の断熱材や二重ガラスなどを入れることが考えられます。住宅をつくるときに断熱材を入れてしまいさえすれば、なんら我慢することなく、同じ冷暖房でも、大きな省エネ効果を得ることができるのです。  家電製品も現在、一番効率のよいものを基準にして省エネ性を追求していくという考え方がありますが、例えばエアコンでも効率が一番よいものと悪いものの間では2倍もの差があるのです。平均と比べても33%も効率がよい。価格が若干高いので、これでみんな買わなくなるのは残念です。  アメリカでも他の先進国でも世帯当たりの消費エネルギーは減っているのです。日本だけがのびている。こういう意味では日本は後進国です。  

●市民が企業を変える時代

浅岡 一つ留意したいのは、よく「民生部門の省エネが進んでいない」と言われているのですが、民生部門の事業所分野が一番エネルギーの伸び率が高いということです。さらに、絶対値で見てみても諸外国との比較においても日本では民生部門は一番割合が小さいのです。もちろん、だから消費量を伸ばしていっていいのだ、というわけではありません。家庭の中、事業所の中でもムダは省いていく、と同時に最も多い部門(図)である産業部門での努力、この分野での努力も必要です。  消費者の購買における選択の中で、企業に影響を与えることができる時代にならなければならないでしょう。これからはCO2の排出という目からも、商品を選択していくことが必要です。さらに、そのためには市民が情報にアクセスすることを容易にする、市民も「知る権利」を主張していく、ということが不可欠です。  私たち気候フォーラムでは、特にサービス分野での取り組みを重視し、京都会議中にホテル、デパート、タクシー業界に二酸化炭素削減のための呼びかけを行いました。例えば、ホテルにはタオルの交換を希望者のみにする、というようなことです。  さらに法整備などを行っていくのにも、市民のライフスタイルを変えるというところまで踏み込むのであれば、机上でつくってお役所の中だけで議論するのではなく、市民を巻き込んで、市民にもっと考えさせるようにしなければダメです。

●社会経済の仕組みに

 「環境」をインプット

天野 今後の温暖化対策についてはどうでしょうか。 柳下 各セクターが皆で議論して温暖化防止のシナリオをつくっていかなくてはならないでしょう。その際、しっかり科学的なデータを踏まえるべきでしょう。京都会議に提出する日本案をつくるプロセスは、国際的な戦略として、すべてをオープンにすることはできませんでしたが、今回はオープンでやっていかなくては、まったく効き目がないと思います。  温暖化防止推進法では、事業者が自ら計画をたてて、それを公表し、さらに実施状況も発表する。市民がそれを見るわけです。それが消費行動に影響を与え、市場に反映されるというフィードバックが行われます。その過程を行政が支援するというわけです。  私自身、今回の法案の策定過程でさまざまな国会議員の先生方と意見交換しましたが、よく「6%削減のシナリオはどうなっている」とか「温暖化を一言で説明するとどうなるか」、「大所高所からの議論はよくわかるし面白いのだが、現実問題として選挙民に『あなたは明日からなにをやりなさい』というにはどうしたらいいのか」とか訊かれました。  ある人は「景気が悪い=景気浮揚しなければならない、となるとすぐ公共事業で橋をつくろうとか何かをつくろうとかいう話になってしまう。そこに温暖化対策を組み込まないと日本の体質も改善できないし、本質的なところにも切り込めない」。  これはむしろ政治家の方から国民的な議論を巻き起こしてやっていくべきものだと思いますが、実はこの問題は重大なのです。マスコミも「不景気だ」となるとその話一色になってしまいます。大きな国際会議があると急にまたそれ一色です。  ごく当たり前のように「環境」が我が国の経済活動にインプットされていき、コマーシャルにも出てくる、経済論議にも出てくる、こういう社会に最後はしていかないといけません。これが最終目標なのではないかと考えています。  

●経済的な手法を活用

天野 京都会議の論点の一つに「経済的手法を国際的に活用しよう」、つまり排出権取引の話がありました。これは米国の案から議定書の中に採用されたものです。 経済と環境というのは本来、一緒に考えなければならないのに、今の日本ではばらばらになっている。  肉食動物が自分の生命を維持するための必要最小限の殺生しかしないのと同様、人間も環境資源を必要最小限に使うようにしなければならないのでしょう。  現在の市場メカニズムでは私有財産となっている資源については必要最小限しか使わない、という仕組みになっています。環境は私有財産ではなくただなので、野放しに使ってしまいます。  ヨーロッパでは汚染者が汚染費用を負担する方式が定着しており、アメリカでは国内の排出権取引により、環境と経済を一体化して考えようという取り組みが進んでいますが、残念ながら日本ではまだ、そういう議論は進んでいません。  英国政府はロンドンにある国際石油取引所にこういう排出取引の上場をしてはどうかということで検討を行っています。米国では二酸化硫黄について証券取引所で上場され、取引が行われています。 浅岡 世論がなかなか削減にむすびついていないのには、「減らせ」というメッセージが明確でないということも一つの理由です。今のエネルギー政策というのは、原子力発電所を20基もつくってまでして、「現在の消費スタイルでも大丈夫」ということにしています。ここは政府の方で「ここは本当に減らさなければならないのです。消費量そのものを減らしていかなければならないのです」ということを示さなければならないと思います。  今まで温暖化防止計画などをつくったのに何らの法的措置もとってこなかったことを考えれば、今回の温暖化防止推進法案については、「せめて今からでも」という意味では早くなんとかしてもらいたいものです。削減を実行していくための計画を図る、国や自治体は率先的に実行する、計画をつくり、それをフォローアップし、発表し、みんなの批判を受けながら変えていく、このスキームは望ましいことで、将来に向かって新しい一歩を踏み出すものだろうとは思います。しかし、日本においての自主的な計画がいまだかつて実践されたためしがない、というのもまた事実です。「自主的な取り組み」に依存するだけではなく、しっかりした法の支え、「守らなければこうなります」というものが必要です。省エネ法も「厳しい、厳しい」とはいいますが、ほとんどが努力目標です。また、待機電力の大きい家電が入っていないなどの問題点もあります。  こうした法の整備にもっと市民を参加させるべきですし、私たち市民団体でもそういう体力をつけていかなくてはなりません。  

●田んぼの中の自販機

原沢 明るい話題としては、企業の人たちの中でも、「モノをつくる際には環境を考えなければだめだ」という人が増えてきていることです。「ゼロエミッション」というのは熱力学の法則からして厳密には無理なのですが、本当に「廃棄物ゼロ」を目指して頑張っているビール会社もあります。  一番問題なのは運輸部門です。この部門の排出量は17%も増えてしまう。車の台数と乗る率が増えているということです。  ただ、去年発表されたプリウスが50%の燃費向上に成功したように、うまく技術革新がすすむ方向にもっていければ、というところに鍵があります。  さて、私たちの身の回りを見てみましょう。例えば自動販売機。全国至るところに、田んぼの中でさえ明々と灯りのともった自販機がある。これだけで原発2基分のエネルギー消費をしているといいます。あるいは24時間コンビニがあいている。あるいはNHKも深夜放送を始めています。これらのことで、本当にわれわれの「利便性」があがっているのでしょうか。  排出量取引や森林の吸収源については、アメリカはロシアから排出量を買ってくるということでなんとか対処しようとして、京都会議中、本国と連絡をとって、「いくらだったら大丈夫か」という話をしていたといいます。しかし、最初からこういう仕組みを当てにしていると、本来取るべき対策や技術革新がすすみません。  

●身の丈サイズの消費生活を

中上 温暖化の問題に関しては、われわれ一人ひとりが声を大にして政治を動かさなくてはだめで、行政の果たす役割には限界があります。例えば市長の「我が市は環境でいく」という鶴の一声で、がらりと変わるのです。  一方、メーカーを見ましょう。技術者たちは飢えているのです。「省エネ技術」の開発ということになれば腕の見せどころです。トヨタはあの車をよくぞ出したと思います。通常ではああいうものは出てこない。しかし、技術的にはあそこまで可能なのです。ここで消費者が声を大きくしたり、モノを選ぶときの意識を変えれば、省エネはすすみます。  例えば、洗濯機には実にいろいろな機能がついていますが、これらは1回も使わないものもある。また、電子レンジに別に時計がついている必要はない。ところがこういういろいろな機能をついたものをつい、買ってしまう。そうするとメーカーはさらにいろいろな機能をつけてくる。だから我々一人ひとりがもっと身の丈サイズの消費生活を選ぶことが必要でしょう。  

●「日本は変わりましたね」と言い合いたい

中上 ドイツに真冬いき、夜、タクシーに乗りました。運転手さんは外で厚いヤッケを着て、ストーブに当たりながら待っているのです。当然タクシーのエンジンはかかっていません。客も深閑と冷えたタクシーに乗らなければならない。日本ではエンジンを切らずに暖房をつけているからぬくぬくと暖かいタクシーに乗れる。彼になぜそうしないのかと訊くと「止まっているときにエンジンをつけているのは道徳的におかしい」というのです。ここまで戦後、ドイツ人と日本人は変わってきてしまっています。  先ほどライフスタイルの話が出ましたが、私はサマータイムの導入をしたらよいと思っています。日本以外の先進国は省エネをきっかけに導入しています。夏になれば朝の4時から明るい。サマータイムを導入すれば、明るい時間の行動が増える。一度ためしに導入してみればよいと思うのです。ヨーロッパの国々に「サマータイムの導入の省エネ効果は?」ときくと、「なかなか計測は難しくてね」という答えです。「ただ、一年に2回、時計を切り替えるときに、『なぜ、サマータイムを導入したのか。省エネルギーだったね。』ということをみんなで思い出す。それだけで効果はあると思うのです」。 天野 われわれは温室効果ガスを効果的に削減している責務を国際的に負うことになりました。今年11月にはアルゼンチンでCOP4が開催されます。それまでに日本が一気に変わる、ということはおそらく無理ですが、来年の今頃、もう一度皆さんにお目にかかる機会があったときに「日本は変わりましたね」ということが言えればいいなと考えております。    

更新日 2003/12/17
名前 GEF


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