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科学の目で見た温暖化の影響と対応 (原沢 英夫/国立環境研究所)
●目に見え始めた温暖化 このところ暑い年が続いています。昨年の世界平均気温は平均より 0.44度高く、観測史上最高となりました。エルニーニョ減少もその一因であるとされていますが、80年度以降高温が続いており、もう温暖化が始まっているという危険信号であるとも言えます。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は95年の末に「もう温暖化ははじまっている」という発表を行っています。すでに各地で温暖化の影響は確認されはじめています。 例え4月上旬、アメリカのコロラド大学が南極のラルセン棚氷の一部が本体から分離し、崩壊を始めたと発表しました。氷河の後退も報告されています。 IPCCは、このまま温室効果ガスの排出が続くと、温暖化が進行して2100年に気温が2℃、海面が50cm上昇すると予測しています。この2℃というのはあくまで世界の平均値であり、局地的にはもっと温暖化するところもあります。また、現在以上に化石燃料を使い続け、人口増加も著しい倍、気温の上昇は3.5℃にもなることもありえます。 IPCCは1988年に発足し、温暖化に関する科学的知見をとりまとめている国際的なパネルですが、今のような予測は1995年での第2次レポートでなされたものですが、2001年をめどに第3次報告書を出す作業を進めています。昨年9月にモルジブで組織改編のための会合を行いました。モルジブはサンゴ礁の上に成り立つ環礁の島で首都はマレです。大統領が是非うちでやってくれ、という要請をうけたのですが、このような小さい島々のもつ危機感がひしひしと伝わって来ました。
●日本が激変 さて、昨年4月、温暖化の日本に与える影響についての報告書が発表されました。 まず自然生態系です。 100年後の1℃〜3℃の気温上昇に対応するためには、植物は150km〜550kmの移動を余儀なくされます。これは年間、1.5km〜5.5kmの移動であり、ハンノキやヤシャブシなどもっとも種子散布能力の「速い」ものでさえ、移動速度は500m〜2000mであることを考えると、これは重大なことです。水資源については、全国的な渇水や、降雪の減少による水不足のおそれが考えられます。地域的には集中豪雨による水害などの危険性も増大します。 農業については、地域によって影響が異なります。ただ、小麦やトウモロコシは中国やインドなどで、大幅な生産量の低下が見込まれます。冬小麦の生産は、インドで 55%減少すると予測されています。水産資源については、水温1℃の上昇により 77%の魚しか生存できません。ですから水産資源に与える影響も大きいのです。また、海面上昇により自然海岸が失われてしまいます。1mの海面上昇で日本の砂浜の 90%が失われるでしょう。人の健康に与える影響ですが、夏季の熱波の直接影響による日射病患者の増大、とくに高齢者の死亡率が増加するおそれがあります。また、地球上のマラリアの流行可能地域が 10〜30%、マラリアの発生件数が5000万件増加すると考えられます。日本でもマラリア潜在地域が西南日本にまで広がる可能性があります。
●現在レベルの安定化でに必要とされる5割〜7割の削減 温暖化は世代、地域を超えて人類の生存を脅かすもっとも深刻な環境問題です。科学的知見に基づいて世界各国が、今すぐ、総力戦であたらなくてはだめです。 気候変動枠組み条約では「気候系に対して危険な人為的干渉をおよぼすこととならない水準において、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化する」ことを究極的な目的としています。産業革命前には 280ppmvあった二酸化炭素濃度は現在363ppmv。IPCCでは現在のレベルで安定化させるためには、すぐにでも排出量の50%〜70%の削減が必要とされるということを示しました。さて、温暖化防止京都会議では、先進国が 2010年頃までに5.2%の温室効果ガスの削減という数値目標を達成したことなど、温暖化防止の第一歩としての歴史的意義は大きいでしょう。また、排出権取引や森林などの吸収源の取り扱い、またカウントしずらい気体の扱いなど、ほとんど今まで国内では議論されていなかった問題が、 COP3でにわかに浮上してきています。また、「濃度の安定化」ということについては取り上げられませんでした。濃度の安定化という観点からは、この削減目標はほんの一歩にすぎないということを肝に命じなければなりません。 いま、温暖化防止に向けて、さまざまな研究がすすめられています。産業界では、家電製品など最高の効率をもったものにあわせていくという意味でトップランナー方式という言葉が生まれました。ゼロエミッションの研究も進んでいます。また、交通部門においても、低公害車の研究から、交通需要のコントロール、果ては「車の所有権」を「利用権」にしていくことまで、大胆な発想の転換を必要とする取り組みがなされています。 さらに「グリーンコンシューマー」などによる我々一人ひとりの取り組みこそが、産業・社会を変えていく原動力になっていることを忘れてはなりません。 温暖化防止への取り組みは「楽しく、クールに、スマートに」をモットーに進めていきたいものです。 |
更新日 2003/12/17
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