アジア地域における砂漠化対処条約実施状況について


  1. 地域レベル:テーマ別プログラムネットワーク(TPN)の形成
  2. 小地域(sub-regional)レベル
  3. 国家レベル

 アジア地域では、1996年8月のニューデリー地域会合、1997年8月の北京閣僚会合を通じてテーマ別プログラムネットワークの形成を目指した取り組みが始まっている。北京閣僚会議では、6つのテーマ別プログラムおよびその実施に向けた枠組みについての合意がなされた。1998年11月、バンコクで行われた国際専門家会合は、このフォローアップとして行われ、TPNの実施へ向けた詳細、地域行動計画実施へ向けたフレームワークが検討された。
 小地域レベルでは、西アジア小地域、中央アジア小地域などでネットワークの形成、地域間協力の促進を目指した会合が行われている。
 国家レベルでは、いくつかの国々で国家行動計画を策定している。また、条約事務局は、条約の実施についての理解を深めるために国別のセミナーを行っている。
 1997年から98年にかけての主な会合・会議・セミナーは以下の通り(ICCD/COP(2)/5)。


(1) 地域レベル〜テーマ別プログラムネットワーク(TPN)の形成



TPNのイメージ

1) 北京閣僚会議(アジア地域の砂漠化対処条約実施のための地域協力に関する北京大臣会議)について(1997年5月13日〜15日)

北京閣僚会議 宣言(英文 PDFファイル)
北京閣僚会議 結論(英文 PDFファイル)

a) 6つのテーマ別プログラム(Thematic Programme Area、以下TPA)の策定

以下のプログラムが策定された。

1) 砂漠化のモニタリングおよび評価
2) アグロフォレストリーおよび土壌保全
3) 砂丘の移動の固定化を含む放牧地の管理
4) 乾燥・半乾燥・乾燥半湿潤地域の農業における水資源管理
5) 干ばつの影響緩和および砂漠化対処の能力の強化
6) 地域開発プログラムの実施援助

b) TPA(Thematic Programme Area)実施のための枠組み

1) 6つのTPAごとにホスト国、タスクマネージャーを設置すること。

 TPAを地域間のネットワーク(TPN;Thematic Programme Network)を形成することにより効果的に実施していくため、各TPAごとにホスト国を決める。ホスト国内の機関または、国際機関のうちホスト国内に位置する機関がネットワークのタスクマネージャーになり、アジア地域の条約参加国のフォーカル・ポイントの調整にあたる。

2) 専門家グループを発足させること。
 TPNを促進させるために、専門家グループを発足させる。この専門家会合の役割としては、@テーマ分野の補足、範囲の検討、Aネットワークの設立・運用面での検討、Bネットワークのタスクマネージャーの候補の特定、C地域間協力の促進−などである。

3) その他の制度的メカニズムの考慮
 TPNに参加している国や機関の要請に応えて、運営委員会、バックアップ体制、諮問的フォーラムの設置などについても考慮する。

 同会議で決定された6つのTPAのうち、TPA1(モニタリングとアセスメント)については中国が、TPA2(アグロフォレストリーと土壌保全)についてはインド、TPA3(放牧地管理)についてはイランがそれぞれホスト国となることに合意した。


2) アジア地域行動計画に関する国際専門家グループ会合について


 1998年11月10日〜13日、バンコクで開催された専門家会合は、北京大臣会合を受け、@テーマ別プログラムネットワーク(TPN)の詳細、A地域行動計画実施のフレームワークを検討することを目的に開催された。会合の概要は以下の通りである。

a) テーマ別プログラムネットワーク(TPN)
・ TPNは、アジアの地域行動計画の重要な要素とされており、その目的、内容は平
成9年5月の北京大臣会合で決められている。すでにネットワークのホスト国が決まっているTPN1、2、3については今後の進め方が議論され、ホスト国が決まっていないTPN4、5、6についてはホスト国の立候補が求められた。

・ この結果、各ネットワークのホスト国の状況は次のとおりとなった。
   TPN1(砂漠化のモニタリング及び評価): 中国
   TPN2(アグロフォレストリー及び土壌保全): インド
   TPN3(砂丘の固定化を含む放牧地管理): イラン
   TPN4(乾燥地農業における水資源管理): ヨルダン、パキスタン、シリア、ウズベキスタンが立候補を表明。
   TPN5(干ばつの影響緩和のための能力の強化): モンゴルが立候補を表明。
   TPN6(地域開発計画実施のための援助): レバノンとネパールが関心を表明。
・ これらのネットワークは既存の組織を活用して整備することとされているが、必要
となる費用としてTPN1で約170万USドル(ホスト国のみ)、TPN2で約470万USドル、TPN3で約540万USドルが見積もられている。
 これらの費用については精査の必要性も指摘されたが、TPN1〜3は来年に立ち上げることが予定されており、資金の確保が課題となっている。

・ また、今回の議論で、以下のとおりTPN1〜3のそれぞれについてサブプログラム分野(SPAs)が決められた。
   TPN1: @宇宙関連技術(リモートセンシング等)
          A指標の作成、
          Bデータベースと情報管理システムの実施
          C砂漠化のモニタリングと評価のための能力形成とトレーニング
    TPN2: @ネットワークと関連データベースの設立
          A技術パッケージの開発、
          B能力形成
          Cデモンストレーション・啓発・普及
    TPN3: @放牧地管理の新たなアプローチに関する能力形成
          A現地の知識
          B放牧地管理のための参加型の手続き
          C砂丘固定化のための比較手法

b) 地域行動計画実施のためのフレームワーク
・ 北京大臣会合の結果を踏まえ、TPNを支援していくためのフレームワークとして
以下の組織の付託事項(Terms of Reference)が提案された。
  @地域委員会(RC)
 地域行動計画の開発と実施の監督を行う。TPNやそれぞれのSPAsの進捗状況をモニターし、必要に応じRAPの他の要素をさらに発展させることを決定することができる。
 RCは、アジア各国のフォーカルポイント、関心のある地域・国際機関、ドナーの代表から成る。
  A地域支援施設(RBF)
 CCD事務局の地域調整ユニットとして活動する。主に国家行動計画の策定や地域行動計画実施の支援を行う。ESCAPが候補。
  B地域支援グループ(RSG)
 地域行動計画の実施を強化し支援していくための地域レベルの柔軟な協議メカニズム。関連プログラムの情報(資金関係)のクリアリングハウスとしての機能や、資金調達の円滑化の役割が期待されている。

*これらの組織については、北京大臣会合での合意事項に含まれていないものもあるため、それらの扱いは今後検討することとなった。

 アジア地域における砂漠化条約の実施については、96年8月のニューデリー会合、北京大臣会合等での決定を受け、取組の具体化が進んでいる。
 我が国は、条約の受諾を受け、締約国として、これらの取組に対する支援が求められている。
 具体的な支援の内容としては、
   @TPNの整備・運用に対する支援
   A国立試験研究機関等のTPNへの参加
   Bアジア各国の国家行動計画の策定・フォローアップへの協力
 等が考えられる。
今後、我が国の貢献策(TPNへの具体的な関与の仕方)等について検討が必要であろう。


(2) 小地域(sub-regional)レベル


1) 西アジア小地域

 1997年4月のダマスカスで開催された西アジア小地域協議会合では、ACSAD(the Arab Center for the Study of Arid Zones and Dry Lands)、ICARDA(the International Centre for Agricultural Research in the Dry Areas)、CEDARE(the Centre for Environment and Development for the Arab-Region and Europe)によって考案されたテーマ別プログラムを決定した(ICCD/COP(2)/5)。
 1998年9月にマスカットで行われた国際専門家グループ会合はこのフォローアップである。この会合では、西アジア地域内での協力活動についての政策提言のほか、ACSAD、CEDARE、ICARDAによる以下のような3つのプログラムが検討された。

− プログラム 1 (提案: 約100万USドル)
「砂漠化防止政策支援のための情報システム・モニタリングに関する西アジア共同プログラム」(担当CEDARE、 協力ASCAD、AOAD、ICARDA)
土地管理に関する情報システムを発展させる。モニタリング作業には、他プログラム関係者が集めたデータの分析や解釈も含む。
− プログラム 2 (提案: 約220万USドル)
「干ばつ準備・被害緩和のための西アジア共同プログラム」
(担当ICARDA、 協力ACSAD、CEDARE)
プログラム 1およびAOADと連絡を取り合い、西アジア地域の干ばつ被害を受けやすい地域における自然資源管理と食糧の安全確保を改善するための緩和戦略、および技術開発を進める。
− プログラム3 (提案: 約540万ドル)
「戦略研究・調査・研修のための西アジア共同プログラム」
(担当ACSAD、 協力ICARDA、DESCONAPその他関係機関)
モニタリングと砂漠化防止の主要分野に関連して、パイロット・プログラムを実施する地域でのキャパシティー・ビルディングを可能にすることを目指し、多岐にわたるカリキュラムを発展させる。パイロット・プログラムを通して国家行動計画の準備を進めている関係者が、優先的に同プログラムに参加できる。

 また、この会合において小地域行動計画の運営についても決定された。
最終報告(抄訳、PDFファイル)

2) 中央アジア小地域


 中央アジア諸国およびCIS諸国では1997年6月にタシケント地域内会合が開かれ、地域内での12の協力分野を特定している。そのフォローアップとして各国への貢献が可能な分野についてのアンケート調査のその解析、地域内の行動計画を策定するための作業が続けられている(ICCD/COP(2)/5)。
 グルジア、カザフスタン、ウズベキスタンなどの諸国は砂漠化対処条約の実施を自然資源管理を徹底的に見直すための機会だとし、政策の策定、制度、マクロ経済システムを改良することを目指している。

(3) 国家レベル


 中国、イラン、カザフスタン、モンゴル、パキスタン、トルクメニスタンなどの国々が国家行動計画を策定している。
 また、モンゴル、キルギスタン、ネパール、タジキスタン、バングラデシュ、カンボジア、ベトナムの各国で砂漠化問題についての理解を深めるためのセミナー(awareness seminar)が開催されている。(ICCD/COP(2)/5)



条約事務局のホームページはこちら
条約の英文、条約加盟国一覧、締約国会議の正式資料、科学技術委員会、最近の会合の日程、その他の情報が手に入ります。


目次にもどる

砂漠化・土地問題に関する情報源一覧
関係リンク集 
参考文献
(財)地球・人間環境フォーラムのページ