ナンダ・デビ国立公園

(自然遺産、1988年指定)
Nanda Devi National Park

高山地帯の自然が残る世界遺産
  ナンダ・デビはチベット国境に近いガルワール・ヒマラヤ地方にある。公園の名は世界第8位の高さを誇る7817mのナンダ・デビ峰に由来している(写真35)。植生は高山地帯特有の潅木やカバの木などが代表的。動物はジャコウジカ、ヒョウなどが生息する。高山地帯の貴重な生態系によって世界遺産に指定された。山が氷河に削られた盆地が公園になっている。
  ナンダ・デビをはじめとする6000m級の峰が12以上あり、ドゥナギリ(Duna-giri/ 7066m)、チャンバン(Changbang/ 6864m)などが代表的である。「デビ」はサンスクリット語で「女神」を表す。ナンダ・デビはシヴァ神の妻パールヴァティの化身と考えられている。ヒンドゥー教では山は神々が住む聖地と考えられ、信仰の対象であり続けてきた。

ナンダ・デビ

写真35 ナンダ・デビ山(7817m)。

女性による自然保護運動
  ガルワール地方は住民による自然保護運動発祥の地である。1974年に業者による大規模な森林伐採が進行していた。住民にとって森は生活の糧であったため、伐採を食い止めるために木の幹を抱え込み「木を伐りたいならわたしたちを切ってからにしなさい」というチプコ運動(1)が山村の女性を中心に展開された(写真36)。その結果ウッタル・プラデシュ州政府は商業目的の伐採を制限し、傾斜角30度以上の斜面にある木の伐採を禁止することになった。チプコはヒンディー語で「抱きつけ」「掴まれ」を表す言葉である。
注(1)チプコ運動:マハトマ・ガンディーのサティヤグラハ(非暴力・不服従運動)の影響を受けている。

チプコの話

写真36 ナンダ・デビ国立公園に近いレニ村のバハティ・デヴィさん(左)とチャンドリ・デヴィさん(右)。彼女たちは1974年、業者の大規模な森林伐採に反対した「チプコ」運動に参加した。
登山による自然破壊
  ナンダ・デビは1949年から解放され、多くの登山者たちを惹きつけてきた。1982年には国立公園に指定されたが、翌年には閉鎖され現在にいたっている。スポーツ登山による自然破壊が最大の理由である。毎年4000人もの登山者が公園に入場していた。しかし、燃料のために木が切られたり、キャンプ跡にはゴミが残される結果になった。

困惑する地元住民
  ナンダ・デビの入り口から最も近いラタ村(Lata)の住民はかつてナンダ・デビ登山のガイドやポーター役として働いていた。農閉期には貴重な現金収入だったが、登山が禁止された今、村の男たちは近隣の町へ出稼ぎに行かなければならない。公園には地元住民であっても立ち入ることはできない。
  純粋な学術調査とエコツーリズムに限って、公園への立ち入りが認められている。

面積:630ku

主な動物:
ユキヒョウ(Panthera unica)、ヒマラヤグマ(Selenarctos thibetanus)、カモシカ(Capricornis)、ヒマラヤタール(Hemitragus jemlahicus)など。
参考文献:
IUCN (The World Conservation Union), Paradise On Earth: The Natural World Heritage List A Journey through the World's Most Outstanding Natural Places, Patonga, 1995.
Jayal, N.D., Himalaya: Our Fragile Heritage, The Indian National Trust For Art and Cultural Heritage (INTACH), 1991.
Polunin, Oleg & Stainton, Adam, Flowers of the Himalaya, Oxford University Press, Delhi, 1984.
Saith, Janjeev, Garhwal and Kumaon, The Guidebook Company, Hong Kong, 1993.
ナンダ・デビ寺院
写真37 ナンダ・デビ国立公園の入り口に最も近いラタ村のナンダ・デビ寺院。ヒンドゥー教では山にも神が宿っていると考えられており、山を祀った寺院が造られるのは珍しいことではない。

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