コナラクの太陽神寺院


(文化遺産、1984年指定)
The Sun Temple, Konarak


太陽神寺院
   ベンガルの詩人タゴールは太陽神寺院を見て感動し、「ここでは人間の言葉は石の言葉に打ち負かされてしまう」と述べた。太陽神スーリヤを祀ったヒンドゥー教でも珍しい寺院である(写真53)。コナラクの太陽神寺院はその巨大さと壁面を飾る数々の美しい彫刻により世界遺産に指定されている。オリッサ地方の寺院建築の最高傑作である。この寺院は13世紀中頃にガンガー朝のナラシンハ・デーヴァT世(1238年〜64年)によって建立された。
写真53 コナラクの太陽神寺院。この建物は本殿であり、後ろにそびえていたシカラは失われてしまっている。高さ39mの前殿だけ残っているが、それだけでも十分大きく、見る者を圧倒させる。


   シカラと呼ばれる本殿は崩壊してしまったが、かつてその高さは60mを越えていたという。現在ではピラミッド型の屋根に円形の天蓋をつけた高さ39mの前殿が残っている。本殿がなくても寺院の巨大さは伝わってくる。

天空を駆ける馬車
   寺院の基壇(最下部)の壁には全部で12の車輪が彫刻されている(写真54)。正面階段両脇には7頭の馬の彫刻があり、現在は2頭が残っている。太陽神スーリヤは7頭の馬が牽く山車に乗り、天空を駆けめぐると伝えられている。コナラクの太陽神寺院はそれを寺院全体で表現したのだ。
   建物の壁には神々、踊り子や楽隊、行進する兵士や交易の風景など社会の様子、化粧をしたり手鏡を覗く若い女性の姿などがいきいきと彫刻されている(写真55)。カジュラホと同様この寺院にもエロティックなポーズの像が見られる。

車輪彫刻
写真54 太陽神寺院の車輪彫刻。寺院の基壇にはこのような車輪が12彫られており、寺院全体で馬に牽かれる山車を表現している。

寺院崩壊の謎
   現在のコナラクは小さな村だが、太陽神寺院が建てられた13世紀頃はガンガー朝の重要な港町だった。町と寺院の衰退原因については資料が乏しいが、ウトカル大学教授ベヘラ博士によると、太陽神スーリヤを主神として祀ったこと自体がその後の運命につながったという。太陽神(スーリヤ)はペルシャ起源の神でインドでも古くから信仰の対象であった。
   しかし、もともと人気のある神ではなかったうえ、次第に信仰の対象から外されるようになった。重要性が低い神だったにもかかわらず、なぜ太陽神を祀ったのかは謎である。寺院の近くを流れるチャンドラバーガ川にスーリヤ神が住み、皮膚病を治すという伝説があった。ナラシンハ・デーヴァ王の皮膚病が治癒した事への感謝のしるしとして建てたという説や、太陽の黒点に異変が起こったためという説、1242年の皆既日食がきっかけになったという説がある。
   オリッサ州のヒンドゥー教には他の地域にはないジャガンナータ神(1)が最高神とされている。コナラクから20q南にある東インド最大のヒンドゥー教聖地プリーには、ジャガンナータ寺院がある。この寺院は太陽神寺院建立の直後に建設されたが、今日まで、修復が重ねられ、信仰が絶えたことはない。ジャガンナータ寺院にも崩壊の危機が何度もあったが、信者の寄進によって持ちこたえることができた。一方の太陽神寺院は維持・修理をするほどの信仰や寄進を集めることが出来なかったのである。
注(1)ジャガンナータ神:顔が大きく、手足がないヴィシュヌ神の化身である。主にオリッサ地方で信仰されている。

踊り子の彫刻
   太陽神寺院は1901年から1910年にかけて大規模な修復が行われ、現在の形になった。一度は崩壊し、人々から忘れられた寺院だったが、今ではオリッサ州の一大観光地として訪れる人が絶えない。

参考文献:
Behera, K.S., Konarak The Heritage of Mankind: Religion, History and Architecture, Aryan Books International, New Delhi, 1996.
Mitra, Debala, Konarak, Archaeological Survey of India, New Delhi, 1992.

写真55 舞楽殿の壁面にある踊り子の彫刻。神を喜ばせるための踊りである。


オディッシーダンス
写真56 オディッシーダンス。オリッサ地方ではオディッシーダンスが踊られる。現在では宗教的な意味合いは薄れ、純粋な舞踏として人々に受け入れられているが、その源流は写真55にあるような神に捧げる踊りである。


ムクテシュワル寺院
写真57 ブバネシュワールのムクテシュワル寺院(9世紀)。ブバネシュワールでは太陽神寺院原型になった寺院がいくつかある。この寺院では前方の拝殿と後方の聖室が完全に分離し、屋根は何層も石が重ねられ、高さがある。

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