なぜここに作られたか
 石窟がこの場所に作られた理由は3つあるという。
 ひとつは地質学的理由でアジャンタの花崗岩が適度な硬さで彫りやすかったこと。二つ目は、大勢の人が作業するには水が必要だったこと。修行をする僧の生活用水としてだけでなく、石を掘る際に水を使った。また仏事にも水が必要だった。三つ目の理由は地理的理由で、瞑想のためには静かな自然環境が必要だったこと。しかし、同時に交易のための街道から離れすぎず、俗世界との関わりも保たれていた。アジャンタはデカン高原の諸王朝の寄進に支えられていたのである。
壁画の清掃が残す皮肉な結果
 アジャンタではインド考古調査局(ASI)の化学班が壁画表面のゴミを除去する作業を行なっている。しかしASIの「保全」方針に疑問の声もあがっている。
1950年代からアジャンタを訪れている米国ミシガン大学の美術史家、スピンク教授は現在の技術では壁画の清掃作業は行なうべきではないと述べている。壁画の状態はASIの「保全」作業が開始されてから悪化したという。特に、塗料として使用された炭素系の黒い顔料がゴミを除去する際に剥がれてしまう問題がある。逆に、掃除をせずそのまま放置した場合、付着しているゴミが自然のコーティング膜になり、壁画を守る役目を果たす。壁画を傷つけない清掃技術が確立されるまで、手をつけない方が良いと教授は述べている。
強い光は壁画に悪影響を与えるためフラッシュライトをつけて蓮華手菩薩の壁画を撮影することは禁止されている。
観光によるインパクトの抑制案
 アジャンタは中部インドを代表する観光地で、訪問者も年々増加している。
アジャンタへの訪問者が増え続ければ、壁画のある第1窟と第2窟はより一層の混雑が予想される。現在でも一つの石窟に20人までしか入れないが、規制をさらに強めて、一回の訪問につきどちらかの窟への入場しか認めないことも検討されている。
ビジターセンターを作り、壁画の複製を展示したり、解りやすい解説をつけることによって、訪問者が石窟に入らなくても満足できるような代替方法も必要だと指摘されている。
アジャンタの谷には滝や林があり、石窟群がある崖の下は小さな森林公園になっている。
参考文献:
平凡社『南アジアを知る事典』1992年。
樋口隆康(編)、田村仁(撮影)『世界の大遺跡8 インドの聖域』講談社、1988年。
Kedar, Atul; Tettoni, Luca Invernizzi; Photo Bank (Photo); Sengupta, Ranjana (Text),
Ajanta & Ellora, The Guidebook Company Limited, Hongkong, 1995.
Mitra, Debala,
Ajanta, Archaeological Survey of India, New Delhi, 1992.
関連情報
アジャンタまではアウランガバードから約100q。乗り合いバスで3時間。遺跡の周辺には町はなく、広大なデカンの大地である。多くの観光客が日帰りの旅程をとるが、入り口に唯一あるロッジに泊まり、アジャンタをじっくり見学する方法もある。
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