事例8 飯田市役所ISO関連の取組および地域ぐるみ環境ISO研究会 飯田市水道環境部環境保全課ISO推進係長 小林 敏昭 |
飯田市は「りんご並木と人形劇のまち」です。1947年4月、街の一角から発生した火災は、強風にあおられ市街地の約80%を焼き尽くしました。城下町の趣をたたえた美しい街並みは瓦礫と化し、あとには広大な焼け野原だけが残りました。飯田のまちづくりの原点は、この大火からの復興にあり、「自分たちの手でりんご並木をつくろう」と中学校の生徒たちが40本のりんごを植え、「りんご並木のまち」は産声をあげたのです。盗難や駐車場への移転計画、樹の老朽化などの困難を乗り越え99年に400m全体が大きな公園と再生された「りんご並木」は、春には白い花を、秋には赤い実をつけ、市のシンボル的存在として市民の心を和ませています。
2.飯田市の環境行政
自然に恵まれた飯田市は、先進的な環境行政を展開してきました。1987年6月には、5つの柱からなる市民憲章を制定し、その1番目に「自然を大切にし、美しい環境の飯田市をつくります」と謳いました。92年10月には、省エネと紙のリサイクルなどを目的に庁内にエコ・ライフ推進本部を設置しました。96年4月に策定した市の基本構想・基本計画で、将来の目指す都市像として「人も自然も美しく、輝くまち飯田〜環境文化都市〜」を掲げ、自然と共生する地域社会の実現のため「21'いいだ環境プラン」を96年12月に策定しました。
97年7月には、通産省の「エコタウン地域」の指定を受け、エコタウンプラン(環境と調和したまちづくり計画)そして天竜峡エコバレープロジェクトに基づき、ゼロエミッション、資源循環型地域づくりを推進しています。2000年4月、通産省のエコタウン補助を受けた環境関連産業2企業の立地により、リサイクル関連研究開発型企業の育成と環境学習を基本コンセプトとした「環境産業公園」の一部がオープンし、また、エコハウジングビレッジ(環境共生住宅)も提案されています。
3.飯田市とISO14001認証取得
ISO14001認証取得の取組は、本庁敷地内の全施設における事務・事業を適用範囲とし、98年7月に取組宣言をして以来、コンサルタントによらない独自の職員研修など1年間の準備期間を経て、99年9月に環境方針を発表、環境マネジメントシステムの運用を展開し、審査登録、2000年1月認証取得となりました。
飯田市におけるISO14001は、次の3つから位置づけられます。@市の行政全般から、A地域への率先垂範から、B市役所の体質改善からです。@は市のこれまでの環境行政の歩み、そして「環境文化都市」の実現と「環境プラン」の推進のため、Aは「地域ぐるみ環境ISO研究会」活動を通しての地元企業との連携強化のため、Bは市役所内部の業務革新活動の一層の推進のための認証取得です。こうした位置づけの上で環境マネジメントシステムによる継続的改善が行われています。
4.ISO14001と「いいむす21 (IEMS21)」
ISOの認証を取得し緊張感のある本庁舎に対し、統一した取組のなかった支所や保育所などの出先機関では2000年6月から、ISO14001の基本的な取組を簡易なシステムとして全職員参加で行う環境改善活動「いいむす21(IEMS21)」を、職員間の環境に対する認識の差を減らす活動として開始しました。
この市独自の「いいむす21(IEMS21)」は、Iida Environmental Management Systemの頭文字をとった「IEMS」を21世紀に展開していこうとするものです。「いいむす21」は、自分たちの地域は自分たちで良くしていこうとする飯田市の地域づくりの合言葉である「ムトス」と連動して、「いいだ」「ムトス」、職員全員による「環境文化都市」を目指す取組です。灯油・ガス・電気・コピー用紙使用量を削減し、ごみを分別・削減し、グリーン購入を推進するという共通の基準によります。
全職員による運用、訓練そして定着を目指し、簡易なシステム、簡易なPDCAサイクルから始めているため、内部監査や認証は今後の課題ですが、審査登録によらない自己適合宣言の実験という意味もあります。また、小中学校では、さらにアレンジした「学校のいいむす」として2000年9月から取り組まれています。
5.地域ぐるみ環境ISO研究会
「地域ぐるみ環境ISO研究会」は、「エコタウン事業」のソフト事業「エコタウンサロン」から生まれたものです。「地域の自然を残し、持続可能な地域づくりのため、新しい環境改善の地域文化を創造する」を活動理念に掲げた、ボランタリーなグループ活動です。
97年11月、「地域ぐるみでISOへ挑戦しよう研究会」の名称で、地域の事業所が連携して、運動することが環境改善活動であり、それが市民企業の責務であるという意識から、事業所の自主的な環境ISOの取組が市民全体の大きな運動になればと市役所も含め6事業所で発足しました。月1回、定期的に開催している研究会では、お互いの工場見学、廃棄物処分業者の視察などの取組を行ってきました。
6事業所で発足した研究会も、現在22事業所(うち認証取得済10、挑戦中8)。ゆるやかな組織では、取り巻く状況の変化に対応できなくなり、2000年7月、組織・運営の見直しを行いました。名称も変更し、今まで置かなかった代表者や運営員会・事務局を置き、活動の中心を事業所の取組の段階に応じた5つの分科会活動に置くこととしました。
研究会の分科会活動で、そして研究会全体でISO14001認証取得の普及拡大とともに外部審査機関の審査登録によらない独自の「飯田版環境ISO」の構築・運用が進められています。また、統一した紙のリサイクルやエコマネーの検討も進められ、行政主導でない民間主導の研究会での取組が評価され、注目されています。
6.飯田市における今後の課題
長野県の公共行政として最初にISO14001認証取得した責任と役割は予想以上に大きいものがあります。市民からの、民間企業からの、他の自治体からのプレッシャーを楽しみ、ごみの分別や省エネなどの基礎的な訓練を通じて、内部監査という仲間に対して今まで言えなかったことを指摘し合う風土を築き、真のコミュニケーションを確立しなければなりません。今まで不足していた点検・是正(Check)を通じて、地方分権に対応できる自治体づくりのための組織の体質改善と職員の意識改革が仕組みとして日常の業務の中に組み込まれることが求められます。適用範囲を限定されたISO14001の取組では不完全で、「いいむす21」や「学校のいいむす」の試行を通して、全ての機関・業務にシステムが有効に機能できるよう拡大する必要があります。
環境改善は、一自治体で完結できるものではなく、ISO認証取得など地元企業の活動への支援や他の自治体への支援など周囲へのリーダーシップの発揮も先行運用するものの責任です。地域ぐるみ環境ISO研究会を中心とした「飯田版環境ISO」の定着も急がれます。の活動も天竜峡エコバレープロジェクトの推進とともに、環境行政に投資しうる予算をいかにメリハリつけて確保できるかが、「環境文化都市」づくりの大きな課題です。
飯田市ホームページ総合案内 http://www.city.iida.nagano.jp/city/index.htm