ソビエト政府は1960年代初頭から、乏しい技術と資本を補うべく、日本の政府と商社と共同で行う多数の大規模開発プロジェクトに着手した。この時日本側は経団連の日ソ経済委員会が交渉に当り、いくつかの長期補償協定によって、日本政府が機械類と低金利融資を提供する見返りとして、ロシア側から長期にわたってロシアの原料を日本に提供することがとり決められた。この関係をロシアの学者はこうまとめて言った− "ソビエト連邦が極東ロシアで大規模な地域生産組織の建設を促進し、長期協定に立つ輸出基盤の拡大に備える上でこの関係は役立つだろう。基盤が整備され、この種の輸出用資源の移動が増加すれば日本市場を活用することも可能である"
補償協定のスタートは "KS産業プロジェクト" だった。極東ロシアの森林資源開発協定の一つである。1968年に締結されたこの協定では、5年間にわたってブルドーザーと伐採搬出機械、鋼管、その他の機器類を提供する見返りとして800万立米の原木を日本へ輸出することが定められた。日本政府から、資源による返済も認める低金利の "ソフト" な貸し付けと、プロジェクト参加の日本企業に対して銀行融資を行うことも取り組められた。この強力な協定が日ロ貿易の触媒となって、1970年代末には、ロシアに輸出された日本製の機械と金属製品の63%はこのプロジェクト関係のものが占め、日本はソ連最大の貿易相手国の一つになっていた。続いて2つのKS産業協定が締結されたが、ともに、3,200万立米を超す木材を日本に輸出することを取り決めたものである。当初のこの3件のKS産業プロジェクトは、日ソ経済委員会と小松製作所 (ブルドーザーを初めとして協定に定める機械類の大部分を提供した) 、ロシア側のエクスポートレス (Exportles) (国が管理する木材輸出業者団体) とロシア政府により取り決められた。
日ソ両国はこの他にも大規模補償貿易協定を締結しており、その一つに、ネリュングリ (Neryungri) 近くのヤクート炭田の採掘に関して1980年代に結ばれたものがある。1,260億円の採掘用機械と機器類、信用の見返りに、高質のコークス用石炭を計1億トン出荷することにソビエトは同意した。1980年代はずっと年間約550万トンが日本に運ばれたが、近年は約320万トンに減っている。日ソ経済委員会は、サハリン北東沖合い、オホーツク海の棚条地層に眠る石油・ガスの海底資源を共同開発する協定も結んだ。この開発のため日本は1970年代に1億7000万米ドル (大部分は政府資金)の信用供与を行うとともに、サハリン石油開発公社 (SODECO) (日本の半官半民組織) を設置して、追加融資とこのプロジェクトの専門知識・技術の提供を一括して扱うようにした。この当初の投資は、150億米ドルの価値があるとされるサハリン-1沖合い石油プロジェクトに発展し、このプロジェクトにはエクソン・コーポレーションも主要パートナーとして名を連ねている。日本は1970年代に、ボストチニー港 (沿海地方) 建設にも融資を行った。現在、この港にはロシア極東地域最大の石炭・木材用コンテナーのターミナルがある。これらの長期協定は日本とモスクワにはメリットがあったものの、諸産業の原料志向姿勢を強め、ロシア極東地域の経済構造改革の機会を狭め、輸入の機械と機器類に強く依存する態勢を続けさせることになった。KSプロジェクトはそのよい例の一つである。ロシアは原木輸出と引き換えに伐採搬出用機械とわずかばかりの加工用機器を手に入れ、一方日本は、木材価格の10倍もの値段で売れる付加価値のある製品をこの原木でつくることができた。これまで公的資金が投ぜられた日ロ補償協定が持続可能な開発という基準に合致しないことは明らかであるから、今後の資源貿易協定は全て、加工産業を軸とする小規模開発を重視するものでなければならない。
1994年7月、日ロ (以前の日ソ) 経済委員会は、優先すべき大規模投資プロジェクトを決めるためロシア極東地域に80名の代表団を送った。ロシア政府は20項目の提案を行い、日本代表団は総額で20億ドルになる4つのプロジェクトをこの中から選んだ。現在このプロジェクトの実施可能性調査の準備を商社4社 (三井物産、日商岩井、伊藤忠商事、丸紅) が進めており、世銀と日本輸出入銀行、欧州再建開発銀行 (EBRD) を含む国際金融機関に公的資金の融資を求めることを計画している。日本輸出入銀行が、5億ドルの人道援助をこのプロジェクトの資金に振り替えることに同意したと伝えられている。これらのプロジェクトは21世紀の初めに完了する予定である。極東ロシア南部 (沿海地方、ハバロフスク、サハリン) では次の4プロジェクトが行われる :
1. ハサンスク商業港拡張プロジェクト − 沿海州南部 (ザルビノ)
ハサンスク港 (Khasanski Port) は沿海地方の最南端に当たる豆満江デルタ地帯とポズエット湾の真北に位置し、拡張すると新しい日中貿易ルートが開かれる。日本の東京マルイチ(東京三菱?)銀行がすでに、中国のフンチュン (琿春) とロシアのクラスキノ (ザルビノの真南) を結ぶ鉄道の建設資金の一部を出しており、近く完成すれば、ハサンスク港の開発とあいまって日本への貨物輸送時間が大幅に短縮されるであろう。現在は、中国北部からの貨物輸送は鉄道でダリアンまで行き、それから船舶を使うルートしかない。生態学者は、ザルビノ地区の貨物輸送が激しくなると周辺の独特の湾と岬が破壊され、ザルビノ港の南北にあるロシア唯一の海洋資源が危険にさらされるだろうと懸念している。
豆満江デルタ地帯には中国と北朝鮮とロシアの領土があるが、300億米ドルを投じてこの3ヶ国を統合する巨大な自由貿易ゾーンとする「豆満江開発計画」がある。ハサンスク港拡張プロジェクトはこの計画へと続いて行くものである。
このような林業補償協定は加工産業の成長を阻害し、外国製機器に依存する伐採産業を生む一因となっている。ロシア極東地域が持続可能性のある林業へ移行することができるように、今後は、加工木材製品を対日輸出の軸とする協定とすることが極めて重要である。
ロシアと米国とノルウェーの政府機関と民間企業が設けたあるジョイントベンチャーが、ロシアから米国に輸出する木材を放射線照射処理することを計画している。ロシア原子力エネルギー省 (ミナトム) とロシア国立森林会社 (ロスレスプロム) 、米国のREM資本公社、ノルウェーの海運会社1社が設立したロシア-アメリカ・イオンエネルギー・サービセズ (RAIES) が、ロシア産の木材を消毒する放射線照射処理プラントを11ヶ所に建設することを計画しているのである。この内2つはセントペテルスブルクの近く、2つは黒海地域に予定されているが、残り7つのプラントは極東ロシアの太平洋沿岸に建設し、シベリアとロシア極東地域の手近な森林の樹木を利用して木材を輸出しようというもくろみである。
1994年9月、ロン・ブラウン米商務長官とダヴィドフ ロシア外国貿易相が、REM放射処理技術の検討ペースを早める内容の協定覚え書きに署名した。米農務省 (USDA) 動植物検査事業部がこの技術の試験を行う準備に入っている。
米国は、外国の害虫が米国に持ち込まれる危険があるとして、1990年にシベリア産原木の輸入を禁止する措置をとった。アジアマイマイガ or spruce bark beetle(甲虫の一種)によって太平洋北西部のダグラスモミの森林が壊滅するおそれがあったからである。1991年には米森林事業部で、ロシア極東地域から輸入される多数の虫のついたカラマツによって、米国が580億ドルの被害を蒙る危険があると判断された。
放射線処理技術はこれまで利用されたことがなく、証明もされていない技術である。USDAも、この技術が害虫防除に有効であるという決定的な証拠をつかんではいない。ミナトムには破壊的な核事故の過去がいくつもあるが (トムスクとチェルヤビンスキーの原子力事故にもチェルノブイリの大事故にもミナトムは責任がある) 、RAIESジョイントベンチャーが具体化すれば核産業には利益が転がり込むであろう。ミナトムはコバルト60などの物質の商業利用の方策を見つけようと必死になっており、この放射線照射処理にはコバルト60が使用される。
米国では、国有林の伐採削減による木材不足に悩んでいる製材会社が、原木を買い付けようと外国に−特にシベリアに−注目している。RAIESができれば、米国有林全体の1993年の収穫量に近い55億ボードフィート(約275万立米)の木材が1年間に輸出できる。ロシア極東地域のRAIESプラント7ヶ所を合計すると、この地域の1993年の推定輸出量8億4000万ボードフィート(約420万立米)の4倍以上になる。
輸出が増えるということは無責任な木材伐採が増えるということである。RAIESに参加し、木材の供給に当たるロスレスプロムは、ロシアの環境規制を無視することで有名である。人口の多い地域も沿岸の生態系も既に危険な状態に置かれているロシア極東地域に新しい核施設を建設することには世論の強い反対がある。
シベリアには、米国とカナダの森林を破壊した産業伐採を逃れた部分もあるが、西側の木材需要の猛襲を耐え抜くことは不可能であろう。放射線照射処理はロシアからの原木輸出というパターンを強化するものであって、現地加工により付加価値のある製品をつくる態勢を充実することはない。太平洋北西部に一時的な好景気を生んだ原木依存がロシアでも繰り返されることになる。
中国北部 (上海以北)、蒙古、北朝鮮、韓国、日本、極東ロシアを擁するアジア北東部は "世界で最後、最大の投資フロンティア" だと言われている。大げさに聞こえるかもしれないが、冷戦下で中国北部と極東ロシアは最近まで、たしかに世界の市場経済から孤立していたし、北朝鮮は現在もなおそういう状況にある。
北東アジア統合推進論者は、経済が相互依存するようになれば、過去、この地域の大きな紛争の原因となってきた様々な政治イデオロギーの対立が最小限度に抑えられるだろうと指摘している。アジア北東部の国々は、一緒に行動すれば共同作用が生じ、それによって産業生産の大幅増が可能になる。日本には資本と先端技術、巨大な民生品/天然資源市場が、極東ロシアには、木材と石油、ガス、貴金属、魚類を初めとする膨大な天然資源が、中国北部には膨大な数の安い労働力、上り坂の経済、農産物 (大豆その他) 、天然資源が、韓国には資本といくつかの技術、増加傾向にある天然資源需要が、あるからである。北朝鮮には、低コストでしかも訓練された労働力がある。
アジア北東部の天然資源の開発には、輸送施設基盤整備とエネルギー開発に多額の投資が必要であろう。液化天然ガス、石炭、貴金属などの採掘は最も将来性のある部門であるが、多額の資本が必要である。が、資本支出が大きくリスクが高いため、民間の融資機関は適さないとみなされている。現在ある多国籍開発銀行 (MDB) には北朝鮮に融資しているところはない。したがって、この地域の資金ニーズに応えるべく北東アジア開発銀行が設立される可能性もなくはないであろう。この資金ニーズについてアナリストは次のようにみている :
海外民間投資公社 (OPIC)
OPICは政治リスク保険、投資助成、海外で活動する米ベンチャー企業への貸付などで多少は名の知れた連邦機関である。融資に適用する明確な環境指針をまだ策定していないが、OPICは、シベリアと極東ロシアにある伐採搬出と採鉱のベンチャー企業数社に融資を行うことを検討している。OPICは、グローバル・フォレストリー・マネージメント・グループがヴィソコゴルノイ (Vysokogornoye) 地域周辺の丘陵地帯のモミとトウヒの原生林で最高100万エーカーの伐採を行うプロジェクトに補助金を出している。パイオニア・グループが極東ロシアのシジマン湾沿岸で行う伐採のプロジェクトにも、多国籍企業のサイプラス・アマックスがマガダンで行う金採掘のプロジェクトにも融資している。カムチャツカのアギンスコエ金鉱は非常な論議をよんでいるが、キンロス・アンド・グリンベルク・リソーセズが行うこの事業への融資もOPICは検討中である。これは実現すればカムチャツカ初の産業規模の金採掘事業となるが、現地の住民は、安全性と長期的環境保護を保持する上で予定の採掘地の環境管理は十分なものではないと懸念を示し、強く抵抗している。これらの融資は例外なく、明確な環境指針もなく、情報公開もなく、一般の参加もなく行われている (囲み記事参照)。OPICは環境には責任を持つと言っていながら、OPICが補助金を出しているベンチャーに大規模な (40エーカー以上の面積) 破壊的皆伐を認めている。今上程されている対外割当予算が議会を通れば、これまでの2倍の予算がOPICに認められることになる。
OPICの投資OPICは1994年だけでも、旧ソ連から生まれた新独立国(NIS)で行われている30のプロジェクトに15億ドル以上の補助を行うことを認めた。極東ロシアの主要プロジェクトは次の通りである :
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ゴア-チェルノムイリジン協定覚書
ゴア-チェルノムイリジン委員会は、米ロ協力とロシアの民主化と自由市場への移行の促進に成果を挙げたとして評価されている。しかしこの委員会には、米連邦政府の融資政策が持つ矛盾が象徴されている。同委員会は、環境汚染除去の促進と生物多様性の保護に取り組む環境保護局、連邦魚類・野生生物事業部、その他の政府機関の活動を支援するという内容の環境保護に関する協定覚書 (MOU) をまとめた。しかしその一方で、ロン・ブラウン米商務長官とオレグ・ダヴィドフロシア対外経済関係相が米ロ間の木材とパルプ、紙製品の貿易を数百万ドル増加することを定めた「木材・パルプ・紙に関する協定覚書」に署名し、ロシア側では既に、ロスレスプロム社 (ロシア国有の木材会社) のミロン・タツァン理事がこの覚書の履行に入っている。
ゴア副大統領は地球環境の保護に取り組んでいるが、「木材・パルプ・紙に関する協定覚書」は、現在シベリアと極東ロシアで進められている全ての森林保護活動を危うくしかねないものである。厳密かつ明確な環境指針を持たないこの覚書は、ロシアの腐敗した木材業界に対する無制限な投資をバックアップし、森林に多大の被害を与える活動にゴーサインを出しかねない。その一つに、このMOUに関連して伐採搬出機械を米国からロシアへ輸出することを定める覚書がある。今、米政府輸出入銀行がそのまとめの作業を進めている。この伐採搬出機械を使えば、ロシアの木材産業はより短い時間でより広い面積の皆伐が行えるようになるから、ロシアの森林破壊のペースは速まるであろう。輸出入銀行の環境指針は簡単なものだが、世銀はこの指針からこれらの輸出品を除外する動きに出るかもしれない。適切な法規制と指針がないと、米国の金融機関の動きがロシアの森林の生態系に多大の被害を与え、ロシア社会の経済不安を倍加させる危険がある。
編集ノート : 1994年6月、米国とロシアは「木材・パルプ・紙に関する協定覚書」 (MOU) に調印した。環境保護活動家達は、このMOUが調印されたのは米国の加工産業が原料不足を恐れているからではないかと疑っている。1997年までに軟木の国内需要が供給量を25%上回ると予測されているからである。このMOUの履行の窓口になるのはOPICと輸出入銀行である。
連邦国際開発機関(USAID)
USAIDは、シベリアと極東ロシアの生物多様性保護と環境持続性のある開発促進に取り組む活動に補助を行っている。USAIDの主要計画に、持続可能な形での天然資源管理を極東ロシアで促進する計画があり、1,600万ドルが投ぜられる。この計画は「環境方針・技術プロジェクト」の一環をなすもので、法と制度の改正、森林復興と森林火災防止活動の向上、生物多様性の保全等を目指す活動が盛り込まれている。新しい保護区の設計と地図作成への支援、既存の自然保護区に関する追加補助もこの計画の下で行われている。注目すべきなのは、木材に依存しない、持続性のある地方経済を生み出すことを目指す村落ベースの活動である。極東ロシアのシホテ-アリニ山岳地帯の、多様な生物がみられる地域がこの計画の中心になっている。
企業基金
連邦政府が供与する企業基金は、政府の審査や環境規制の適用が必ずしも行われないであろう多数の破壊的な資源採掘プロジェクトに回される危険をなしとしない。米国の納税者の負担にかかるこれらの企業基金は、しかし、民営の非営利法人として設置される。そのため米国やロシアの国民にとって、その文書や提案を知ることも、この基金に協力して環境に責任をもつ投資に参加することも非常に困難である。企業基金の投資に絡む環境規制あるいは環境指針も発表されておらず、協議中の相手企業の名前も発表されていない。企業基金は納税者が規則的に政府機関に納める税金や提出する申告書があってこそ可能であるため、他政府機関と同じ情報公開規定がこれにも適用されるべきである。
特に注目される企業基金が3件ある。「ロシア大規模企業基金」 (FLER) は、一民間法人でもあるのにUSAIDとOPICが共同出資している。FLERは、1企業当たり最高2,000万ドルの融資を行うが、既に、石油・ガス掘削用機械を製造する予定のジョイントベンチャーに1,350万ドルが投ぜられている。「ロシア-アメリカ企業基金」 (RAEF) は、アルハンゲルスク (Arkhangelsk) 地域にある木材加工プラントに補助金を既に出しており、これによって、いっそう重い伐採のプレッシャーが極めて破壊されやすい北方の森林にかかるおそれがある。RAEFはハバロフスクにロシア極東事務所を既に設け、現地企業と米ロのジョイントベンチャーに4,000万ドルを投ずることを予定している。環境保護活動家の間では、RAEFの補助は極東ロシアの腐敗した木材業界あるいは米ロによる破壊的ジョイントベンチャーに対して行われるのではないかと懸念し、一般の参加、制御が入り込む機会が無いだろうことを恐れている。
もう一つの「防衛企業基金」は先頃、環境に対する影響で大きな論議をよんでいる「ロシア-アメリカ イオン・エネルギー・サービセズ」 (RAIES)というプロジェクトに、米国の納税者が納めた税金から100万ドルを投資した。これは、ロシアの核技術によってシベリアの原木に放射線を照射し、消毒して、米国に輸入できるようにするプロジェクトである。伐採速度を上げるだけではなく、極東ロシアで大きな核事故が発生する可能性を高める危険をこのプロジェクトははらんでいる。政府のコメントもいっさいなく、政府が決定に参画することもいっさいなくこの投資は行われた。
環境保護局 (EPA)
1994年6月23日にゴアとチェルノムイリジンが署名した環境MOUにより、米環境保護局は環境監視、水と大気の汚染及び生物多様性保全の問題と取り組むことが定められた。環境保護局は、このMOUの履行に責任を負う主官庁である。1995年6月に開かれたゴア-チェルノムイリジン委員会で、「天然資源の持続可能な管理と保全に関する共同声明」を発表、両国政府は環境保護活動の重要性を再確認した。EPAは、気候変動の予防、オゾン層破壊の抑制、水と大気の監視強化、及び生物多様性保護の促進に関する共同計画を設けてこの活動を進めている。その一つに「RUSAFOR (ロシア-米国森林・気候変動プロジェクト)−ロシアの森林保全と気候変動と共同実施に対する投資刺激」があり、森林保護と並行して "炭素クレジット" の展開を促進し、一つの地球温暖化防止手段としての森林保全に役立とうとするものである。
連邦商務省 (DOC)
DOCは、米ロ間の貿易障壁の除去に特に目標を絞った、NISでの一連の計画に取り組んでいる。DOCは、ロン・ブラウン米商務長官とオレグ・ダヴィドフロシア対外経済関係相が署名した「木材・パルプ・紙に関する協定覚書」 (MOU)の実施官庁に任命されている。先頃「ロシアの林業製品市場の急成長 : その背景及び貿易・投資機会」と題する報告書をまとめ、開発可能なロシアの森林資源の概要を紹介している。
輸出入銀行
極東ロシアへの経済開発投資で他を抜いている機関の一つが輸出入銀行である。輸出入銀行が特に力を入れてきたのは旧ソ連の石油・ガス開発であり、現在も、ロシアの石油・ガス部門への米国からの輸出に20億ドルを超える補助を行っている。ゴアとチェルノムイリジンが署名した「木材・パルプ・紙に関する協定覚書」の履行にも輸出入銀行は深く関与しており、広範囲の林業用機械の米国からロシアへの輸出を促進するため、輸出入銀行独自の協定覚書をロシアの木材産業と交わす段階に入っている。このMOUには、原生林の伐採以外には使い道が考えられないチェーンソーと伐採用重機の大量出荷に関する取り決めも盛り込まれるであろう。
生態学者達は、伐採用機械をロシアの木材企業に提供すると、環境規制が行われないまま、より速いペースでより広い森林の伐採を許すことになると心配している。特に懸念しているのは、この伐採機器によって、急傾斜の土地その他、環境が壊れやすく、これまでは入り込めなかった地域でもロシアの木材会社による皆伐が行えるようになるだろうことである。輸出入銀行の環境指針には限界があるが、世銀がこれらの輸出品の多くをこの指針から除外する動きに出る可能性もなくはない。
貿易開発機関
貿易開発機関 (TDA) は、大型プロジェクトの資金調達に必要な実施可能性調査その他の企画立案業務の実施に関する補助を米企業に対して行っている。TDAは先頃、ハバロフスク地域の伐採実施可能性調査資金として500,000ドルの補助をグローバル・フォレストリー・マネージメント・グループに対し行ったが、環境保護活動家達は非常に心配している。コール川の分水界もこの調査の重点地区の一つに加えられているからである。ここには極東ロシアに残るアムールトラ(Siberian tigers)の生息地のかなりの部分も含み、生物多様性に富む地域であり、以前からウデゲ族が自分たちの領土として主張している土地もこの中にある。グローバル・フォレストリー・マネージメント・グループがこの地域で行うと推定されるプロジェクトは、米国の納税者が納める税金が使われるこの実施可能性調査にしたがって設計されるのだが、ハバロフスク地域南部のコール川、スクパイ川、サマルガ川、ネルマ川の流域に広がる、道もない古来の森林約300万エーカーを危険にさらすものである。この調査を基に打ち出される計画は、コール川流域で他米政府機関の補助により行われる生物多様性保護プロジェクトに直接影響し、これと矛盾するものであるに関わらず、今のところTDA、USAID、EPA、魚類・野生生物事業部の間で何ら話し合いは行われていない。
米国森林事業部
米国森林事業部 (USFS)は、シベリアと極東ロシアのロシア森林事業部支部との交流を続けている。USFSの国際森林課はアラスカのチュガチ国有林とマガダン自然保護区との間で "姉妹林" の関係を結び、環境教育、エコロジーツアー、植林、新しい技術開発などの活動を支援している。USFSは、極東ロシアのハバロフスク地域では植林と森林火災防止の改善に、シベリア中央部のクラスノヤルスクでは、生態系に沿って企画された2件の持続可能性のある林業デモンストレーション・プロジェクトに、協力している。しかし米議会には国際森林課の予算を削減する動きがあるので、ロシアでの活動計画も縮小されることが予想される。
1995年2月、世銀は、ロシアの林業部門調査団をロシア極東地域とシベリアへ送った。林業業界の若返りを妨げている要因として、この調査団は次の5項目を指摘している :
国際金融公社 (IFC) は世銀の民間融資部門であり、欧州再建・開発銀行 (EBRD) と密接に連携し合っている。1994年、IFCは旧ソ連に対する計1億3300万ドルの新規融資を認めた。しかしこれは、他の投資家による投資と合わせると6億6500万ドルに達する。1995年に関しては、米ロ間で協議中の最大のジョイントベンチャー・プロジェクトはパルプ・紙部門のものだというだけで、他の情報が掴めていない。
極東ロシアの主要プロジェクト :
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