世界の森林の状況


世界中で進む森林の減少と劣化

森林減少と劣化の要因
  • 農地転用
  • 産業植林
  • 焼畑農業
  • 違法伐採
  • 森林火災
  • 表中、本文中の数値については、万全の注意を払ってはおりますが、引用等される場合は、原典を参照することをお勧めします。

    世界中で進む森林の減少と劣化

      FAO(国連食糧農業機関)の "Global Forest   Resources Assessment 2000(FRA2000)"によると、世界の森林(樹冠率10%以上)の面積は約38億6,900万ha であり、全陸地面積の約30%を占めている。このうち95%が天然林であり、5%は植林である。  これを地域別に見ると、ヨーロッパ(東欧・ロシアを含む)が10億3900万haと最も広く、次いで南米、アフリカとなっている。世界の3分の2の森林が、ロシア、ブラジル、カナダ、アメリカ、中国、オーストラリア、コンゴ、インドネシア、アンゴラ及びペルーに集中している。また、国土に占める森林面積の割合を見ると南米が最も高く、約50%であり、次いでヨーロッパの46%となっている。  2000 年、UNEP-WCMC(国連環境計画-世界保全モニタリングセンター)の調査によると、樹冠率30%以上の森林は、合計34.2億haとなっている(UNEP-WCMC, 2000)。うち、熱帯地域における森林は15.2億ha、非熱帯地域における森林は18.9億haである。  同調査においては、28の森林タイプごとの森林面積、保護地域面積を算出している。それによると、最も大きい面積を占めるのが非熱帯常緑針葉樹林(樹冠率30%以上)であり、8億ha(全体の約18%)である。ついで、熱帯低地常緑広葉樹林(樹冠率30%以上)で約7.3億ha(全体の約16%)、樹冠率10-30%の非熱帯林(5.8億ha、13%)、樹冠率10-30%の熱帯林(5億ha、11%)となっている。以下、非熱帯落葉広葉樹林および非熱帯落葉針葉樹林の面積が大きい。

    WCMCの調査を見る

     FRA2000によれば、1990年39億6,300万haであった森林面積は、1990-2000年にかけて、年平均約940万ha減少した。年間平均0.38%の森林が他の土地利用形態に変換されたが、森林の増加分も含めると、年間の純平均減少率は0.22%であった。 森林は特に熱帯地域の開発途上国の森林を中心に減少を続けている。熱帯の森林は1990年から2000年にかけてネットで年平均1,230万ha減少し続けており、このうち天然林は、年平均で1,420万haの速度で減少してきている。  世界全体では、天然林は年間グロスで平均1,610万ha消失している(うち、1,460万haは森林減少であり、150万haは植林プランテーションへの変換により減した)。天然林の増加分(放棄された農地における天然林への遷移など)360万haを相殺するとネットの減少は年間1,250万haとなる。  森林の質については、病害虫、森林火災、薪炭材・産業用木材の過剰採取などの要因により、劣化が続いていることが報告されているが、森林の質に関する統一的な指標をとることが事実上不可能であるため、これに関する定量的なデータはない。しかし、閉鎖林、疎林、断片林、その他の土地被覆等の変換状況により、ある程度、推測することが可能である。

    森林減少と劣化の要因

     森林生態系の保全という観点からは、森林生態系そのものの消失を伴う森林減少、及び森林生態系が提供する多様な機能の低下などを伴う森林劣化が大きな問題になっている。
     このような森林面積の減少及び劣化の直接的な原因としては、通常、商業伐採、農地や放牧地などの森林以外の用途への土地転用、森林火災、商業伐採、ダムや道路などの大規模開発、住民移転、不適切な焼畑が挙げられている。さらにその背景には、貧困・人口増加・急激な近代化や開発に伴う矛盾・政府のガバナンスの失敗や森林管理部門における資金配分不足などの様々な問題があり、相互に複雑に関連しあっている。
     ここでは、一般的に森林減少・劣化の直接要因とされているものの中から、本事業において特に焦点を当てた、農地転用、産業植林、焼畑農業、違法伐採、森林火災について取り上げ概観する。

  • 農地転用

     現在、森林資源の包括的な調査として、最もよく引用されるFAOのFRA2000及び世界森林白書2001においては、森林の変化プロセスには、大きく分けて下記の7つのプロセスがあるとしている。

    @森林減少 他の土地利用への転用(焼畑、農地転用など)または長期的に樹冠率が10%以下となること等を指す。なお、木材収穫は、森林再生が可能であれば森林減少とはみなされない
    A新規植林樹冠率が長期的(10年を超える期間)に10%を下回った森林や非森林状態の土地に植林を行い、樹冠率10%以上の森林にすること
    B森林の自然再生樹冠率が長期的(10年を超える期間)に10%を下回った森林や耕作放棄地などが天然成林などを含む森林に再生し、樹冠率10%以上の森林になること
    C再植林樹冠率が一時的(10年を超えない期間)に10%を下回った森林に植林を行うこと
    D自然再生樹冠率が一時的(10年を超えない期間)に10%を下回った森林が人の手をかけずに再生すること
    E劣化樹冠率が10%以上を維持し続ける森林において起こる森林の機能の低下
    F改善樹冠率が10%以上を維持し続ける森林において起こる森林の機能の向上

          注.森林が減少し、樹冠率が10%以下に下がっても、近い将来(10年以内)再植林が行われるか、既に行われていれば森林と定義される。 
          なお、近い将来、樹冠率10%以上の森林と  なる見込みがない場合か、他の土地利用に変換される場合には森林とは定義されない(FAO協会、2002)。
          この際、放牧地などでも樹冠率から森林と定義することが可能な地域もあるが、放牧地や農地など他の土地利用が主たる目的の場合には森林とは定義されない。

  • 産業植林

     天然林の商業伐採による減少・劣化が生じている中、環境・社会面において適切な配慮がなされ、持続的に管理された植林からの木材の伐採が、天然林からの伐採よりも望ましいことは論を待たない。よって、産業植林に生じがちな、環境・社会面における影響を正しく認識し、植林事業に対する評価が適切に実施され、意思決定及び資金配分がなされることが必要である。
     ゴムやオイルパームのプランテーションのように、明らかに従来の景観と異質な商品作物を植え、「森林」と呼ぶよりは「農地」と呼ぶ方がふさわしい場合以外でも、産業植林は、程度の差こそあれ、大規模に単一樹種のものを植栽することが多い。このため、生物多様性は著しく低下し、また天然林の伐採を伴う場合は、事実上、本来の動植物の生息域は消失することとなる。さらに、伐採により、森林の有するその他の機能、例えば土壌保持機能なども失われる。農薬の散布による土壌・水質汚染、林道・管理事務所の設置に伴う森林の伐開とアクセスの向上、植林地の囲い込みによる地元住民の疎外、火の不始末による火災など、植林事業にはさまざまな環境・社会問題が指摘されてきたことも留意すべきである。
     なお、2000年のFAOの調査では、ゴムやオイルパームなども森林に含まれている(FAO, 2001)。すなわち、森林が開発され、ゴムやオイルパームのプランテーションになったとしても、FAOの統計上の森林面積は変わらないことに留意が必要である。

  • 焼畑農業

     焼畑農業とは、熱帯から温帯にかけて古くから行われてきた農法であり、森林を伐採し、火入れを行ったのち,1年ないし数カ年のあいだ畑地として利用した後放棄し、自然休閑させ元の植生へ戻すことで地力回復をはかるという形態の土地利用方式をとるものである。酸性の土壌が、灰により中和され、土壌が改良される効果がある。また、日射により土壌の有機物の分解が促進されること、火入れによって雑草木やその種子を焼死させることにより、目的とする栽培種の生育を促進することも期待される。現在焼畑が行われているのは,熱帯アフリカの大部分、山岳地域を中心とするインドから中国南部にかけての地域、東南アジアのおもに山地地域,中・南米の熱帯などである。日本においても,第二次世界大戦直後まで広く山間地にみられたが、近年は衰退している。陸稲、キャッサバ、ヤムイモ、タロイモ、バナナ、サトウキビ、ヒエ、モロコシ、トウジンビエなど、イモ類、雑穀類が中心となって栽培されてきた。
     従来から焼畑農業は熱帯林の減少の原因と言われてきた。しかしながら、世界各地において伝統的に行われてきた焼畑農業は、多くの場合、原生林を新規に火入れするものではなく、あるサイクルを持って、いくつかの決まった森林を数年あるいは数十年ごとに巡回して行うものであり、森林が回復するまでの期間を組み込んだ持続的な生産方法であったことが指摘されている。しかしながら、近年、こうした焼畑様式は大きな変化を遂げた。すなわち、様々な原因により、森林が回復しないうちに焼畑を繰り返さざるを得ない傾向が各地でみられると同時に、社会的・経済的な背景から、土地を失った農民や、都市で暮らしていけなくなった住民等が、生活の糧を求めてもともと住んでいた場所から移動し、整備された道路沿いに侵入し原生林に火入れを行うという事象が生じている。
     現在、地球上で焼畑農業に使用されている土地は3億6,000万haにのぼる。これは、地球上の森林面積の1割、耕地面積の4分の1にも相当する。また、世界中で2億人が焼畑農業により生活をしていると言われている(林野庁, 2003)。

  • 違法伐採

    違法伐採をめぐる国際的な動向

     違法伐採問題は、現在、森林の持続可能な経営に対する大きな脅威となっている。違法伐採されている木材の量やその影響については、正確に把握されていないものの、その量はかなりの割合にのぼると推定される[1]
     1998年、バーミンガム・サミットにおいて、G8諸国は、違法伐採問題を「違法伐採は、国及び地方政府、森林所有者及び地域社会から重要な収入と便益を奪い、森林生態系に被害を与え、木材市場と森林資源評価を歪め、持続可能な森林経営を抑制する因子として機能する」とし、「G8森林行動プログラム」に位置付けた。

    バーミンガム会合合意事項 (G8森林行動プログラム実施進捗状況報告書より(外務省仮訳)
    10. 違法伐採は、国及び地方政府、森林所有者及び地域社会から重要な収入と便益を奪い、森林生態系に被害を与え、木材市場と森林資源評価を歪め、持続可能な森林経営を抑制する因子として機能する。振替価格操作、インボイスのごまかし及びその他の違法な行為を含む、違法に収穫された木材の国際貿易は、違法伐採の問題を悪化させる。問題の程度に関するより良い情報は、実際的で効果的な対策の開発のため前提条件である。
    11.

    G8メンバーは:
    ・実際的で効果的な対策開発のための基礎として、違法に収穫された木材の国際貿易の性格と程度に関する情報と評価の共有を 奨励する。
    ・例えば森林に関する政府間フォーラムとITTOを通じて、国際的な木材貿易に関する経済的情報と市場透明性の改善のための実施 措置を確認し支援する。
    ・違法伐採と違法に収穫された木材の国際貿易をコントロールする国内措置の効率性を確認し評価し、改善が必要な分野を確認する。
    ・木材の貿易に関係する国際商取引における贈収賄と腐敗防止を目的とする国際協定の下での義務履行のための措置を講ずる。
    ・違法伐採と違法に収穫された木材の国際貿易の性格と程度の評価とその対策の策定と実施の能力開発のため、関心あるパートナー 諸国と協力し、ITTOを含む国際機関を通じた取組を行う。

    [1] 例えば、WWFなどによれば、木材生産における違法伐採の推定割合は、極東ロシア50%、インドネシア73%、中国20%、フィリピン46%、ベトナム22〜39%、ブラジル・アマゾン盆地80%、ブラジル・パラ州66%、ペルー80%、エクアドル70%( WWF European Forest Programme March 2004 ,“Scale of Illegal Logging around the World - Currently Available Estimates”より引用)。FWI等によれば、インドネシアの違法伐採の割合は65%と見積もられている(Forest Watch Indonesia, WRI, Global Forest Watch, 2002, “The State of the Forest Indonesia”)。各国の違法伐採の推定割合や状況については、p.49以降を参照。

      2000年7月のG8九州沖縄サミットでは、違法伐採を防止するための国際社会の強い決意が表明され、国際的な取り組みにむけたコンセンサスが形成された。
     これを受け、2001年9月にインドネシア・バリで「森林法の施行に関する東アジア閣僚会合」(FLEG)が開催された。ここでは、G8の日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、EUに加え、インドネシア、中国、タイ、フィリピン、ラオス、ベトナム、カンボジア、オーストラリア、世銀、ITTO、FAOなどの国際機関、NGOが参加し、違法伐採についての集中的な討議が行われた。この結果、東アジア地域として違法伐採問題に対応することが約束され、二国間や多国間での協議や協力の必要性をうたった閣僚宣言が採択された(バリ宣言。P.179参照)。
     この閣僚宣言は、違法伐採に対処するための行動へのコミットメントと支援を結集する大きな前進の象徴となったとされている。違法活動に由来する林産物を輸入する国々は、自らの責任分担を認識しつつ、生産国と共にこの問題に取り組むことに同意した。
      2002年6月、カナダで開催されたG8外相会合では、G8森林行動プログラムの最終報告書が公表された。この中で、G8各国は、以下についてコミットすることを表明した。
      違法伐採や、違法に伐採された木材及び関連製品の使用に対処する。その観点から、

        ・違法伐採の排除に取り組むための人材育成及び技術移転を増大させる。
        ・違法に伐採された木材及び関連製品の輸出入を排除するために様々な行動をとる。
        ・森林法規の実行及び行政に関し、現在行われている取組を支援する。

  • 森林火災

     森林火災は、ある種の生態系(例えば寒帯林、乾燥熱帯林)にとっては、もともと自然攪乱の一つの形態として、生態系を維持、更新するメカニズムに組み込まれてきている(火災順応型生態系)。また、火災に依存している生態系もある(火災依存型生態系)(WWF, IUCN, 2003, “Future Fires- Perpetuating Problems of the Past”)。
     しかしながら、近年問題となっているのは、明らかにこれらの従来の火災の範疇を超えた大規模な火災が多くの地域で頻発し、火災に順応していない森林(例えば雲霧林)にも大きな被害が生じていることである。
     森林火災については、多くの国々で世界規模の動向を包括的にカバーするだけの正確なデータは存在しないのが現状であるが、年間600万〜1,400万haの森林が焼失していると言われている(WWF, IUCN, TNC,2003, “A Global Fire Partnership”)。これは、商業伐採や農地転換によって失われる森林面積に匹敵する。
     1990年代は、森林火災が頻度、規模とも拡大し、大きな被害をもたらした。特に1997〜1998年には、アマゾン地域、メキシコ、インドネシアをはじめとする東南において、数百万ha規模の森林火災が発生した。1999〜2000年には、エチオピア、東地中海地域、アメリカ西部、シベリアにおいて大規模な森林火災が発生した。
     2000年には、全森林のうち、2.4%、9,200haの森林が焼失した (FAO, State of the World’s Forest 2001)。  森林火災及び煙害により、多くの人命被害、健康被害が生じたほか、周辺地域の経済に大きな被害をもたらしている。さらに、広大な面積にわたり、森林植生・バイオマス、生態系が失われている。


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